2015年07月13日

「1」と「 96 」な話

1). 先週の「古楽の楽しみ」は「バッハの6つのパルティータ」特集。この「パルティータ」は 1726 年の「第1番」以降、最後の「6番」まで順次出版されたのち、 1731 年に合本されて「クラヴィーア練習曲集 第1巻」として出版されたもので、フォルケルとかの伝記作者によると、売れ行きは芳しくなかったとか、そんなことが書いてあったように思う。ところがあにはからんや、最近の研究ではそんなことはなくて、むしろ逆だった、という磯山先生のお話を聞きまして、作品そのものよりそっちのほうが気になってしまった( 苦笑 )。

 考えてみれば、大バッハほどことおカネに関しては超がつくほどの合理主義者、贈られた赤ワインの瓶が破損して中身がほとんどなくなったのを悔やんで贈り主にその恨み節を私信にしたためるほどの人( おなじくワイン好きだから、気持ちは痛いほどわかるけれども )。そんな締まり屋バッハ氏なので、記念すべき「作品番号1」の曲集が売れなかったら、以後、きっぱりとこのような venture には乗り出さなかったはず。「作品番号1」の売上げがよかったからこそ、これに気をよくして(?)二匹目のナントカを狙ったわけだし(オルガン作品では、「6つのシュープラーコラール集」が好評だったようです )。

 チェンバロつながりでは、先週、こちらの番組でも「イタリア協奏曲 BWV. 971 」が取り上げられて、しかもゲストがあのふかわりょうさんでしたが、これと「フランス風序曲 BWV. 831 」が組み合わされて「クラヴィーア練習曲集 第2巻( 1735 )」となって出版されてますね。番組では、チェンバロ特有の機構や仕掛け( 上と下の鍵盤を連動させるカプラーやストップなど )もわかりやすく紹介されていたので、はじめてこの楽器を知ったという向きにはなかなか興味深かったんじゃないかしら( ついでに、地元紙夕刊に連載中の「楽器万華鏡」は、すこぶるおもしろい企画 !! )。

2). 話いきなり変わって、いま、縁あって鴻巣友季子先生による『風と共に去りぬ』のフレッシュなもぎたて新訳を読んでます。で、南北戦争時代 … とくると、個人的にどうしても亡霊のごとく甦ってくるものが ↓
During the night crossed the railroad above 96, ...
これは米国奴隷制度を社会史的に考察した本の一節で、ここを訳者先生はなんと「夜の間に約 96 以上の鉄道を横切り」とやっていた。さる雑誌の人気連載だった翻訳批評の俎上に載せられ、評者先生は「ルートナンバーとばかり思っていた」、そして念のため同僚のネイティヴの先生にも訊いてみたら、「緯度のはずないしね」。*

 ところがこれ、「事実は小説よりも奇なり」でして、なんとなんとサウスカロライナ州にある「町の名前」、地名だったという前代未聞、驚愕のオチつき。この「真実」を通報したのがいまは亡き SF 翻訳の第一人者、矢野徹先生と、キャンベル本の翻訳者、飛田茂雄先生だった。矢野先生は、この事実を Encyclopedia Americana で突き止めたんだそうです。え、アメリカーナ ?? あらそれだったらいつも行ってる図書館にもあるわってんで、さっそく該当箇所を複写。
NINETY SIX, town, South Carolina, in Greenwood County, seven miles east of Greenwood. Its industries include the manufacture of bricks, lumber, textiles, and cottonseed oil.

The original settlement was made by Capt. John Francis about 1730, and the village which grew up took its name from being 96 miles from Fort Prince George on the Keowee River. During the Revolutionary War the British established a stronghold at nearby Star Fort, which in May and June of 1781 was besieged without success by Gen. Nathanael Greene. After the arrival of British reinforcements, the siege was raised : but on June 29 the British abandoned the fort and retired to the coast.

With the building of the railroad in 1855, the village was moved about two miles away from its original location, now called Site of Old Ninety Six. In 1940, nearby Lake Greenwood, whose shores form Greenwood State Park, was created by the completion of Buzzard Roost Dam on the Sadula River. Pop. 1, 435.

―― from Encyclopedia Americana, ver. 1966, pp. 367−8.
 当時、日本初の ISP の IIJ もなにもなかったバブル絶頂期、リゾート法なる天下の悪法のもとゴルフ場が乱立し「地上げ屋」が横行していたそんな時代、この手の調べ物をするにはたとえば都内の大型書店にて「全米自動車地図」とか、そういうのを立ち読みするとか国会図書館に行くとか大使館に訊くしか方法がなかった。足で稼ぐ調べ物はキホンとはいえ、やっぱり家に居ながらにしてすすっと答えが引き出せちゃうネット( と Google や Wikipedia など )は、やはりありがたいかぎり、ではある( 玉石混交なんでもありの無法地帯とはいえ )。

 で、「プリンス・ジョージ砦[ いまはダム湖の下 ]から 96 マイル」というのは、どうもこちらの Wikipedia 記事によると根拠なし、ということのようですが、とにかくここが 2000 年時点で人口 1,936 人の風光明媚な町で、独立戦争時代のわりと有名な戦場史跡が点在するところ、ということはよくわかる。とはいえ原著者の書き方だって意地が悪い。なんでスペルアウトしてないのかな? もっともこの引用箇所は北軍兵士の従軍日記からの孫引用なので、もとがそう表記されていたのかもしれない( その可能性が高い )。

3). … とそんな折も折、あの「ソーラー・インパルス2」、名古屋空港から離陸して5日間の連続飛行ののち、ぶじハワイに到着したみたいで、なによりでした( でもこんどはこういう問題が … )。そして、こんなニュースも飛びこんできた。こちらは「作品番号1」ではなくて、文字どおり「一番乗り」争いなんですが、おなじ争うんならこういう競争のほうがはるかにいいに決まってます。「ソーラー・インパルス2」の偉大な挑戦といい、「Eファン」といい … 翻って日本は? … 波力発電に関しては、たとえばこんなのもありますし、英国コーンウォールのこの巨大実験施設なんかどうですか。リンク先の会社の開発した発電装置も含めた計 60 基の再生可能エネルギー発電機をつないで、10 MW の発電実験を行うとか。これは約1万世帯分を賄える発電量らしいです … というわけで、「1」と「 96 」にまつわるヨタ話でした。お後がよろしいようで。

* ... 緯度ではなくて、「西経 96 度」なら、テキサス州とかミネソタ州など平原部の各州を通過するからあり得ると言えばあり得るかも。ついでに Google マップで調べたら、246、248、34 号線ならあった。

posted by Curragh at 10:37| Comment(0) | TrackBack(0) | NHK-FM