2021年03月17日

貴重な音源が聴けてうれしかった話2題

1.この前の「古楽の楽しみ」、今谷和徳先生の回で「16 世紀イングランドの音楽」というのをやってました。イングランドの古楽の作曲家でジョン・タヴァーナーやトマス・タリスなんかはわりと知られているほうだから、ときおり聴いたことがあるぞという向きも多いかと思いますが、クリストファー・タイだの「イートン・クワイヤブック」に収められた楽曲だのはかなりの通好みと言うか、よほどイングランドの教会音楽、もっと言えばアングリカン(イングランド国教会)の音楽に親しんでいるような人でないと名前も知らないでしょう。そんな古い作品もけっこうかけてくれたから、こちらとしてはいとをかし。ヘンリー8世作曲の声楽曲なんてのもめったに聴けない珍品だから、この手の音楽が好きな人にとっては文字どおり朝から耳のごちそうだったんじゃないでしょうかね。

 そんなアングリカンの作曲家として初日にかかったのが、ウィリアム・コーニッシュという人の宗教声楽曲。じつはこれふたりいて、おなじ名前の親子(父子)なんです。なにぶん古い時代の人なので、史料でさえ父親のほうなのか息子のほうなのかワカラン場合も多々あるようです。「イートン・クワイヤブック」に収録されているのは同名の父の作品らしいけれども、やはりよくわからない。

 今谷先生が紹介されたように、コーニッシュ父子はチューダー朝時代にチャペル・ロイヤルと呼ばれる王室専属の少年聖歌隊長や、ウェストミンスター・アビイ聖母礼拝堂付き少年聖歌隊長を務めていた人だと言われてます。だいぶ前にここでも内容を紹介した手許の本をこれまたひさしぶりに開いて確認すると、「カイウス・クワイヤブック」に収録されている「第8旋法によるマニフィカト」は伝「父」コーニッシュの作品のようで、「グロリア」の終結部(アングリカンで歌われる英語のアンセムでは "... As it was in the beginning, and now, and ever shall be." に当たる箇所)は「テノールとバスの二重唱がひとしきり続いて開始され、複雑さを増しつつソプラノへと上行する」、言い換えれば「天界へと上昇して、天の栄光を賛美する」ように作られているとか。

 「息子」の手がけた世俗歌曲のほうもいくつか現存していて、わりと知られているのが初日にもかかった「ああ、ロビン、やさしいロビン」でしょうか。でも「おーい、陽気なラッターキン」とか「角笛を吹け、狩人よ」とかは寡聞にして知らなかったからなんか得した気分。タイトルどおり肩の凝らない、楽しい歌です。

2.聴けてうれしい貴重、いや希少な音源ということでは、日曜に聴いたこちらの番組も負けてない。なんと、あのヴィルヘルム・ケンプがオルガンを独奏しているのですぞ! それもなんと !! カトリック広島司教区の世界平和記念聖堂に完成したてのオルガンこけら落としリサイタルのライヴ録音(1954) !!! もうたまらんですわ。というか、在庫あるじゃん! No Music, No Life! なワタシではあるが、ここんとこ Aqours の CD しか買ってなかったから、コレはさっそく買わなくては。

 演奏を聴いた印象ですが、バッハの超有名な受難のコラールを使った小品「わが心の切なる願い BWV 727」の場合、コラールの各節の出だしで鍵盤交替してストップ間の音色の対比を際立たせているように感じた(ちなみにこのオルガンコラールは「受難の調」と言われるロ短調で書かれていて、番組後半でも流れたが、ケンプみずからピアノ独奏用に編曲もしている)。こういう演奏ははっきりいって古臭くて、ケンプのバッハ演奏が 19 世紀ロマン派のスタイルをしっかり踏襲していることがわかる。それでもなんと言いますか、えも言えぬ感情が深いところから湧き上がってくるのを抑えることができない。テンポばかりがやったら快速で薄っぺらい印象さえ受ける 21 世紀の演奏スタイルとは格が違うぞ、ということなのか。ヴァルヒャの演奏にも言えるけれども、ケンプもまた精神性のきわめて高い、心にストレートに刺さってくるバッハ演奏であり、バッハの音楽を「演奏(≒翻訳)」ではなく、まんまバッハの音楽がそのままドン! と突きつけられる感じがする。こういう感覚もまた、ひさしぶりに味わいましたね。

 ケンプは最晩年、認知症とパーキンソン病を患っていたようで、95 歳で大往生を遂げるまで演奏活動から何年も遠ざかってそれっきりだった。でも当時高校生だった不肖ワタシも、回想録『鳴り響く星のもとに──ヴィルヘルム・ケンプ青春回想録』という本には深い感銘を受けたものです(ちなみに「鳴り響く星」というのは、ストップを引き出すとくるくる回りだしてかわいらしい金属音を響かせる「ツィンベルシュテルン[英語読みでは「シンバルスター」]」のこと。文字どおりオルガンのプロスペクトを飾る「星」のかたちをしている)。

 そういえばケンプも、尊敬するオルガン奏者のヘルムート・ヴァルヒャも、逝去した年がまったくおなじ 1991 年だから、おふたりとも今年で没後満 30 年になる …… 早いものだ。なんかあっという間の 30 年だったな……などとついみずからの来し方を振り返ってしまう、今日このごろ。COVID-19 パンデミックにあえぐ人間世界を俯瞰して、両巨匠はなにを思うぞ。

posted by Curragh at 00:25| Comment(0) | TrackBack(0) | NHK-FM