2022年10月19日

気がつけばグールド超え

 先日、こちらの番組を観まして、カナダの伝説的なピアニストのグレン・グールドが亡くなって今月4日でちょうど 40 年(!)になることを知りました …… ピアニストでは、先月、奇しくもグールドとほぼ同い年でみまかった、ドイツの著名ピアニスト、ラルス・フォークト氏のこととかも思い出されるが …… 幼娘を残しての早逝。さぞ無念だったろうと思う。合掌。

 グールドとくると、あのハミングしながらくねくねと体を動かして、まるでチェンバロみたいにピアノを演奏していた姿が思い浮かぶけれども、ご本人はさっさとピアノ演奏活動を引退して、作曲と指揮をやりたかったとかって伝記本かなにかで読んだ記憶がある。もっとも左利き(sinistral)だったから、指揮される側からすればめちゃやりにくかった、なんて話もあります。たしか最晩年の録音って、リヒャルト・ヴァーグナーの室内管弦楽作品「ジークフリートの牧歌」だったと思う。だからグールドはピアノ弾きとして一生を終えたのではなく、願望どおり指揮者として終えたことになります。

 グールドはとかく奇行癖ばかりが取り沙汰されるきらいがありますけれども、グールドが書いた作品評なり、録音した音源のためにみずから書き下ろしたライナーノーツなりを読むと、びっくりするほど博学で、芸術の本質を深く見抜いていたことにあらためて気づかされる。手許にグールドが録音した、「バード&ギボンズ作品集」という国内盤アルバムがあるんですが、この直筆ライナー(の邦訳版)の四角四面な音楽学者然とした生真面目そのものの考察読まされると、コレがあのグールドが書いた文章なのかって不遜ながら思ってしまう。

 「父さん、ぼくはやりたいと思ったことはだいたいできたと思うよ」。これが、グールドが倒れて、トロント市内の病院に担ぎこまれる前に、父親と電話で話した内容だったようです。当たり前ですけれども、音楽好きとしてはリヒターともども、もっと長生きして活躍してほしかった。バッハ学者の故礒山雅先生はかつて担当していた「NHK 市民講座」の番組内で、「コンサートは死んだ」と演奏会場を捨てて録音スタジオに閉じこもった演奏家としてのグールドを、「不幸だ」と残念がっていたのがなぜか頭にこびりついていて、あれから 30 ウン年経ったいまもグールドの話が出るたびに思い出す。

 でもたぶんそれは磯山先生の勇み足だったように思う。たとえば、DTP(いわゆる打ち込みってやつ)とインターネット上の動画共有サイトの存在。もしあれをグールドが見たらもろ手をあげて喜ぶんじゃないでしょうかね。歌手の Ado さんとか、以前ここでも書いた、ボーカロイドとボカロPさんたちとか。いまや自宅にいながらにして、世界のどこかで視聴しているかもしれない音楽プロデューサー宛てに自作自演の楽曲を届けられちゃうんですぞ。もちろん音楽、ことにクラシック畑は、そりゃ生演奏にかなうものはないですよ。オルガンなんかまさしくそう。あのサウンドを体感するには、なにはともあれ楽器が設置された会場に行かないことには始まらない。

 それでもグールドは、音楽以外の夾雑物をいっさいシャットアウトするために録音という表現を選び取ったんだと思う(ってこれもいつか書いたかもしれませんが)。録音テープの切り貼り(文字どおりのカット&ペースト)までして、自身が理想とする音楽を再現することに徹底的にこだわったグールドの姿勢は、音楽ジャンルは違っても、いまのボカロPさんたちもきっと共感してくれるはずです。と、フト気づけばトシだけはグールドを超えていた(苦笑)しがない門外漢はアタマを掻きながら、みずからの本分に折角精進しようと誓ったしだい。

↓ は、グールド自身が出演した TV 番組用に作曲した「じゃあフーガが書きたいの?」



追記:静岡県東部の街で、オラの住む沼津にも近い裾野市にある市民文化センターでこんなとんでもない事故があったらしい。…… あそこのホールは思い出があって、パリ木(パリ木の十字架少年合唱団)の来日公演をはじめて聴いたのがそこだったし、2011 年初夏に NHK 交響楽団の公演を聴いたのもそこだった。だから今回のような事案はたいへんに遺憾。思うんですが、もしこれが N 響でも、こんな塩対応したんでしょうか? まさかずっと音沙汰なしってことはあるまい。常識を疑ってしまう。水浸しといえば、なんとシドニーのオペラハウスでも似たような事故があったらしい。改装工事中にスプリンクラーが誤作動して …… こういうことってよく起こるんだろうか? 調整中だったコンサートオルガンも被水して、詳細は不明ながら、まだ修復中らしい。※

 1996 年だったか、浜松のアクトシティ中ホールのコンサートオルガンもスプリンクラーの誤作動で冠水、大修理したことがあった。そのとき建造したオルガンビルダーがフランスから駆けつけて、こう悲しげにつぶやいたそうです。「もっと楽器に愛情を持ってほしい」。

 「仏作って魂入れず」じゃないけれども、とかく日本人ってウツワばっか気にして、完成すればあとは良きに計らえみたいなところがあって困る。納税者から「ハコモノ行政」って言われてもしかたない話ではある。

※…… 事実誤認していたため、悪しからず訂正しました。

posted by Curragh at 22:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽関連