このさい一言しておくと、ワタシが一貫してこのアニメシリーズを追っているのは、狭い意味でのオタク根性(C.V. の◯◯さん推しとかのたぐい。基本的にストーリーとキャラクター重視派で、キャラに生命を吹き込む声優さんをはじめ、監督さんやその他制作陣のみなさんは「裏方」であり、主役は「作品」だという作品本位主義)からではない。一連の作品群が、J.ジョイスの『ユリシーズ』(1922)に出てきた「あれが神です」というスティーヴン・ディーダラスの科白を地で行く、音楽主体の「教養小説」アニメだと本気で考えているからだ(だから『ラブライブ! サンシャイン!!』の考察小冊子も書いた)。
で、ここに書いたのはもうずいぶん前になるけれども、通称アニガサキと呼ばれる TV アニメ版『ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の1期と2期も、機会あるごとに繰り返し観てきた(そういえばこの前、某ネット TV にて『ラブライブ!』シリーズ全作一挙配信もあった。現時点で全 104 話、50 時間強というトンデモない分量なので、さすがに一気見はムリだったが)。
そしてこれは脚本の方向性ないしクセというのにも左右されるかも知れないが、一見、「同好会」という独自の活動を展開しているニジガクのスクールアイドルたちは、「ラブライブ!」という大会からもっとも遠く離れているように見えるが、じつはこのアニメシリーズが終始一貫、訴え続けてきたことをもっともわかりやすいかたちで体現していると個人的には感じている。ぶっちゃけた話、このシリーズでいちばん好きになったのがアニガサキで、われながらこんな展開になって驚いている。Aqours ももちろん好きですよ、なんたって地元民ですし、スピンオフの『幻日のヨハネ』がいまちょうど放映されていますしね。もっともこちらは完全に方向性の異なる「異世界もの」に仕立てられているから、大会としての「ラブライブ!」うんぬんとは直接的な関係はありません。
というわけで TV アニメ2期の最終話で英ロンドンの短期留学へ旅立った上原歩夢が2週間の滞在を終えて帰国するシーンから今回の OVA 作品は始まります …… で、毎度ここで断っているように、内容に関してはワタシなんかよりはるかに深い洞察を披瀝してくれるブロガーさんたちが一定数おりますので、内容に関してはそちらを参照いただくとして、いくつか印象的な場面を記しておきます。
またもや「桜坂しずくプロデュース」(?)かどうかはわからないが、のっけから意味深なバラード調の楽曲と、これまでのニジガク同好会の軌跡をたどるかのような MV で始まる(ちなみにワタシは初回を聖地のお台場の劇場で鑑賞してきたので、いまさっき見てきた風景がそのままスクリーンに大きく映し出されていて、いつもながらちょっと不思議な感じがした)。アニガサキを全話観た人ならたちまちピンとくるけれども、この曲を歌っているのは三船栞子・鐘嵐珠(ショウ・ランジュ)・ミア・テイラーの3人からなるユニット R3BIRTH(リバース)。TV アニメ本編では出番のなかったこの3人組の歌唱で OVA 版が始まるという、すばらしく自然な展開になっていたのが好感できる(さらに、秋葉原・沼津・金沢と他シリーズの舞台までさりげなく出して、おまけに高咲侑や宮下愛らが「おいしいね!」とのっぽパンや寿太郎みかんジュースを味わうカットまであるというサービスの細かさ)。というか、この作品は最初からそんな「神」展開ばかりで、『ラブライブ!』シリーズお得意の風景描写にキャラの心理を重ねる手法も、アニガサキがいちばん洗練されている。ちなみにミアちが MC で言っていたのは、「ボクたちはまだまだ止まらない YO! だからみんなもしっかりついてきて!」だと思う(“We're not stopping here, hang on tight!”)。
R3BIRTH の登場で、カンのいい人はさてはと思ったかもしれないが、歩夢がロンドンから連れてきたアイラというスクールアイドル志望の子の物語ながら、じつは栞子が抱えていた悩みの解決が果たされる展開で、隠れ主役は栞子だった。これまでの栞子は「適性」というタームで、みずからの無限の可能性を「鳥かご」に閉じ込めていたひとりだった──それを解放するのは誰か? 自分しかいない。
アイラさん。やはり、あなたはわたしに似ています。無理なものは無理って、自分で限界を決めてるところ。たしかに世の中、「思ったとおり不条理」というのはどうしてもあるが、それでも頭角を現すような人はいるわけで。差はなにかと問われれば、これまた以前から繰り返し書いてきたことの蒸し返しになるが、「あきらめずに続けてきた」人だけが限界を突き抜けて、「ほんとうになりたかった自分」、「ほんとうにやりたかった仕事」などをつかみとることができるのではないかって思う。トシとってきてますます強くそう感じるようになった。アイラの場合は、たとえ学校の正式な認可が得られくてもダイスキは貫くことができる、ということを栞子から身をもって教えられたところに現実味があり、大きな感動があったのではないだろうか。こういうバタフライ効果が広がれば広がるほど、世界を変える原動力となる。
…… 私も自分の限界を決めるのはやめます! だから、思い切り楽しみましょう!
また「スクールアイドルの聖地」のひとつ、神田明神の男坂を降りているときの、天王寺璃奈と宮下愛のやりとり──「愛さんは何をお願いしたの?」「これからもみんなと楽しく、スクールアイドルやれますようにって」「わたしも同じ!」──は、今後の展開に影を落とすカジュアルトークかもしれない(来年以降、劇場版3部作として制作が決まっている)。
そして相変わらず楽曲も攻めていて、いかにもニジガクらしくて最高。まだ ED シングルは買ってないが、冒頭の「Feel Alive」の盤はラジカセの CD デッキに入れっぱなしにして仕事中もかけっぱなしにするほど気に入っている。ラップ系はニガテなはずなのに、なぜかこちら(「Go Our Way!」)は心地よいのが不思議(Oh E Ah Oh Oh E Ah!)。
あと本編とはカンケイないが、エンドロールの「発表会」について。自分もメッセージ寄せて応募した身だからそれだけでバイアスが〜とか言われそうだが、この企画、一部の人はお気に召さないようで。個人的にはもうすこしじっくり見たかったのはしかたないとして、こういう企画をアタマごなしにダメとか言う人は、はっきり言って軽蔑する。「◯◯大学でがんばります」「りっぱな教員をめざしてがんばります」「政治家を目指します」「人前でしっかり話せるようになりたい」などなど …… これのどこがいけないというのだろう? 「みんなで叶える物語」で始まったこのシリーズらしい参加企画で無問題ラ! と思いますがね。みなさんのメッセージはいまはあまり見られないけれども、じつに多くの方が真摯に「決意の光」を表明されていて、ワタシもおおいに刺激を受けた口。それに虹ヶ咲学園ですからね。虹ってほら、昨今では diversity の象徴でしょう。なんでもありな寛容さも作品の売りのひとつかと(そういえばつい最近、訳したのがその「虹」のでき方に関する記事だった)。それを自由闊達に表現するには、必然的に「ラブライブ!」大会出場を目指さない主人公たちのストーリーとして描く手法に行き着くわけです。
蛇足ながらアニガサキの脚本を書いたのは田中仁さんという方で、こちらも大人気ご当地もの TV アニメ『ゆるキャン△』の脚本を書いた方でもある …… のはファンなら百も承知でしょうが、伊豆半島も出てきた2期はとても楽しめた(西伊豆町の黄金崎までまさかの聖地認定)。アニガサキは脚本の秀逸さも光る作品であるのは間違いない。