2025年01月26日

1973年のNHKホール落成記念公演

 … を先日、こちらの番組にて視聴した。

 当時 49 歳(!)、めちゃ若々しいマエストロ・サヴァリッシュのキレのある棒さばきから紡がれる“ブラ1”(「交響曲第1番 ハ短調 op.68」)、いやぁ感動的でしたねぇ。昨今はやりの通勤快速的テンポのせかされ感はまるでなく、タメるところはタメる、聴かせどころは聴かせるというメリハリがなんとも心地よく、しかし楽曲全般はいかにもドイツ的に小気味よく進行してゆく、そんな印象を受けました。

 初回放映当時はまだ入園前の幼児(!)の身ゆえ、映りの悪い半世紀以上も前のブラウン管(!!)のちっこい画面の受像機で果たしてコレを観ていたのかどうか …… は、記憶があいまい。しかしうろ覚えながらも記憶に残っているのは、「ほら見てごらん、世界最大級のパイプオルガンだってよ」という母のことばだった。

 …… そういうしだいでふと、「そうだ。同時期に開催されたイジー・ラインベルガーのオルガン開きリサイタルってプログラムとかどこかに転がってるのかな?」と思い立ち、いつもの「日本の古本屋」さんに行ったらあっさり見つかった。即お買い上げ。

 中学生のころ、巷にまだ LP(老婆心ながら Long Playing の頭文字ね)アナログレコードがあふれていた時代、どこのレーベルかは失念したがそのチェコスロヴァキアのオルガン奏者ラインベルガーさんの「バッハ・オルガン名曲集」が売られていた(ジャケット写真はブクスフーデゆかりのリューベック・聖マリア教会)。で、たしかライナーの解説には、「生粋のアルピニストで、来日したときに海抜0mから歩いて富士登山した」とか書いてあったと思う。…… あれから幾星霜、ついにご本人の肖像写真を拝見できた。やはり、というか謹厳実直なタイプの端正な横顔の紳士だったが、つぶらな感じの目だったので、どことなく私たち日本人的な顔立ちにも見えた。

 オープニングリサイタルの当日、ストップの入れ替えとか譜めくりとかの助手として演奏を支えていたのは奥さんだったらしい。ググれば当時、コロンビアレーベルから発売されていたほうのラインベルガー氏のアナログ音盤ジャケットが出てくると思うけれども、そのジャケ写真こそ、1973 年6月 22 日、24 日とサヴァリッシュ/N響の杮(こけら)落とし公演をあいだに挟んで開かれた新 NHK ホール大オルガンのオープニングリサイタルになります。

 半世紀以上も前の美品のプログラムを繰ってみると、初日(6月 22 日)のリサイタル最初の楽曲は、バッハの例の有名曲(BWV 565)でした。なにしろ本場のオルガン、しかも世界最大級のバカでかい本格的コンサートオルガンなんて一般的な日本人は誰も見たことも、そのサウンドを体験したこともなく、そもそも西洋の器楽ということでは最古参ジャンルのひとつオルガン音楽に親しむリスナーなど皆無といっていい時代。だからコレは耳慣らしとしてはしごくまっとうな選択でしょう。2日目のほうはこれまた有名な「小フーガ」(BWV 578)が入ってます。ほかにバッハは17(18)のコラールとして知られる一連のコラール前奏曲から待降節の有名な曲(BWV 659)、「パッサカリア」(BWV 582)。2日目ではクリスマス時期によく演奏される「パストラーレ」(BWV 590)も加わってました。

 でもバッハは数曲で、すぐにレーガーやフランクやヒンデミット、そしてチェコの作曲家がふたり続いて終わってます。なんかいきなりツウ好みな、バッハしか聴いたことのない聴衆にはまるで馴染みがないであろう楽曲のオンパレードな印象。とくに同郷人のチェコの人の作品はオラもまったく知らず。だからなおさら聴いてみたいと思う。以前、NHK ホールのオルガンつながりでは、なんとあの古関裕而氏が弾いている貴重な映像を歌謡番組かなにかでチラっと拝見したことはあるが、こんどはぜひ杮落としオルガンリサイタルの映像を放映してほしい、と「心からのせつ菜る願い」を申し添えておきます。

 プログラムに解説を書いているのは高名なバッハ学者の角倉一郎先生なんですが、ところどころ欧州の古いオルガンのモノクロ写真が添えられてます。でもこれってパっと見てどこどこの楽器だなとかわかる人はおそらく誰もいなかったでしょうね。せめてキャプションでもつけるべきだったのではないかな? 最初のほうに掲載されている、現存する世界最古の演奏可能な「燕の巣オルガン」については、解説の本文でも触れられてはいますがね …… いちおうルネサンスからバロックと時代を追って並べられているようですが、イタリアの1段手鍵盤ものの古オルガンやオランダのバロックオルガン(おそらくマーススライス大教会の、ルドルフ・ガレルスが建造した歴史的楽器)、そしてお兄さんのほうのジルバーマンが建造した、スイス・バーゼル州のアルレスハイム大聖堂の歴史的楽器あたりは特定できた。あと、駐日チェコスロヴァキア大使さんの賛辞文の「現代のチェコ・オルガン学派の創始者」ってのは、「楽派」のミスプリでしょう。

 紙数(?)が尽きたのでいったんこの話はここまで。ほんとはまだ続きがあるんですけど、それはまた後日にでも。いずれにしても今回の半世紀の時空を超えた再放映は、まことにありがたいかぎり。今後もどんどんやってね。

※ 昨年 11 月、『スパスタ!!』3期の聖地巡礼がてら、これまたウン十年ぶりに NHK ホールの前まで行ってみた。プロムナードなんかすっかり変わっていて、ワタシがN響定演を聴くため初めて連れて行ってもらったとき(1985年3月末。プログラムは三善晃の児童合唱付きの初演作品と、メシアンの「トゥランガリラ交響曲」)、ホール前の道路はフツーに舗装道路だったと思う。いまは Liella! のランニングコースとして登場するようなケヤキ並木の広い散歩道といった感じのタイル舗装になっていた。それと NHK ホール正面玄関へのアプローチもだいぶ変わった。なんか放送センターは絶賛建て替え中らしいけれども、とりあえずホールのほうはこのまま現役続行のようです。あとは、かつてのようにオルガンリサイタルの復活を望むばかり ……。ついでに文中の「心からのせつ菜る願い」は、有名な受難のコラール(ハンス・レオ・ハスラーの失恋の歌が原曲なんですが)をバッハがオルガン独奏用に編曲したコラール前奏曲(BWV 727)に、ニジガク成分を混ぜ込んだパロディ(メンバーの優木せつ菜から拝借)。

posted by Curragh at 00:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽関連