2006年07月23日

ヴァルヒャ賛

 先週の土曜に日経NG社主催の講演会に行ったおり、せっかくだからと――36度の酷暑と左目の異常にもかかわらず――銀座と池袋にも立ち寄ってCDを漁ってきました。といっても買ったのは2枚だけ。どっちみち商売なんだから、講演会会場で「ユダ福音書」関連DVDとか売ってるだろうからとそちらのほうにあてる都合もあったので、もっぱら試聴したり手にとって凝視だけ(?)してました。

 銀座の山○楽器。Naxosレーベルにいくつかセント・ジョンズカレッジの盤がありました。おもに近現代の英国国教会(聖公会)系作曲家の作品集。バッハのコーナーに行ってみますと邦人若手による見慣れない盤が何点かありました。バッハ国際オルガンコンクールで審査員のレオンハルトから絶賛されたという、椎名雄一郎さんのCDもあって、うーん、ほしい…と食指をそそられました。

 …とはいえちょっとびっくりだったのが、テュークスベリー・アビイ少年聖歌隊のCD、Light of the world が置いてあったこと。東京エムプラスという輸入代理店経由で入荷していたらしい一枚なのですが(リンク先はべつの通販業者のもの)、バッハのほうにもこの業者名義のCDがあったので、できればハリーくんのアルバムも入荷してくれればよいのにと思ってしまった。いずれも価値の高いCDだったので、眼のつけどころはいいというか、信頼のおけそうな業者さんだと思いました。

 ほかにももう何年も前からぽつんと売れ残っているウースター大聖堂聖歌隊のCDとか、アンセム集とか、トマーナのCDもありました…でけっきょく買ったのは「歌う星の王子さま(ポストカード3枚の特典つき)」…orz。予算を気にしなければいいのなら、それこそ何枚も買うところだったけれども(マクマナーズくん主演のBBC版『星の王子さま』のDVDまであったのにもびっくり。便乗??)。

 ところがはじめから購入予定だった、ヘルムート・ヴァルヒャの最初のバッハ・オルガン作品全集の廉価版がない。まだ時間に余裕があったので、そのまま池袋のHMVへ。イートンカレッジ芸劇公演のときにここで激安特価(10枚組で1,980円!)で置いてあったのを目撃しているので、たぶんまだあるだろうと踏んでのこと。で、行ってみたらありました! おんなじ場所に…しかもさらに値が下がって、なんと1,790円!! 文字通り血走った眼でレジへ直行。おまけにレジではさきほど銀座で買ったばかりのマクマナーズくんの宣伝チラシまで封入されてしまった(苦笑)…。

 帰宅後、さっそく王子さまのポストカードを机の上に飾ってとりあえずお気に入りの「小フーガ」でも聴いてみようかと思ってプレーヤにかけてみたら…これがびっくりするほど音がいいではないですか?! 1947-52年にかけてのモノラル録音とはとても信じられないくらい。

 HMVのサイトにもいろいろ買われた方の寸評が掲載されていますが、バッハのオルガン作品大好きな方、これはぜったいに買いですよ。自分ももっと早く買っていればよかった(輸入盤なのに、なぜか「ドキュメント」という日本語がカバーに書いてある。どうもこれそういうレーベル名らしい)。

 第二次世界大戦の敗戦の痛手から復興に乗り出したばかりのドイツ国民にとって、このヴァルヒャ最初のバッハ・オルガン作品全集はどれだけ深い心の慰めとなったことか…いまこうして聴いていますと、いまさらながら強い衝撃をおぼえずにはいられません…。当時の困難な状況を考えても、このヴァルヒャの仕事は偉大であり、まさしく戦後まもないドイツの歴史的文化遺産のひとつと言っても言い過ぎではありません…録音に使用された楽器は北ドイツの歴史的銘器(リューベックとカペル)ですが、2回目のステレオ全集盤とくらべると、その響きには北ドイツの楽器特有のピンと張り詰めたような、厳冬の森に差しこむ硬い陽射しのような、凛とした清冽な輝きに満ちています。とくにそれが感じられるのはトッカータや前奏曲とフーガといった自由作品で、いっぽうオルガンコラールでは凛とした響きのなかに、Vox Humana系の、じつに柔らかな、文字通り「人の声」を思わせるリードストップが定旋律を歌ったりと温かみのある音色を効果的に響かせるレジストレーションによって演奏されています。テンポも速すぎず遅すぎず絶妙で、戦後、バッハ演奏家を志した多くの日本の先達が、このモノラル録音によるヴァルヒャのバッハ全集を聴いて一様に激しい衝撃を受けたという話を遅まきながら追体験しています…たしかにシュヴァイツァー博士に代表される、まだ「ロマンチィックな」衣をまとった演奏しかなかった時代に、眼の覚めるような、バッハその人が演奏しているかのようなこの全集に出会った当時の衝撃はいかばかりであったか。ようやく自分もわかったような気がしました(ちなみに今月28日は大バッハの命日。亡くなったのは夜8時ごろだったらしい)。

 …ここ何年も、最近の若手の名人芸をひけらかすような演奏に耳が慣れてきてしまっていたので、ひさしぶりに聴くヴァルヒャの演奏スタイルはひじょうに新鮮です…というか、ヴァルヒャの演奏はまねしようとしてもけっしてできないでしょう。本人は「一芸術家として見てほしい」と生前言っておられましたが、やはりあの余人の追随を許さない集中力、ポリフォニーの鮮やかな弾き分け、各声部を引き立たせる的確なレジストレーション…どれをとってもこれが半世紀以上も前の演奏とは思えない。盲人のオルガニストだったヴァルヒャにしかなしえない演奏だったと思います(いまもこれ書きながら聴いています。たぶんしばらくのあいだずっとかけっぱなし…ついでに盲人のオルガニストはバッハ時代のオランダにデ-グラーフが、またそれ以前のスペインにはカベソンという大家がいました。お隣のフランスにもジャン・ラングレという作曲家・オルガニストがいましたし、6点点字の発明者ルイ・ブライユも教会オルガニストでした。ラングレとヴァルヒャは亡くなった年が奇しくもおなじ1991年でした)。

 …話変わって、個人的に口惜しいこと。今年はこれの投票に参加できなかった…orz。しかたないから、こちらの試聴ページにてノミネートされたアルバムをいろいろ聴いています…そのうちここも消えてしまうけれども。個人的にはミュージカル版Billy Elliotの主役を演じたひとりリーアムくんの歌声が印象的でした…けっこううまいではないですか! これも買いかな。あと、Korbinian Geirhosくんとかリガ大聖堂、トマーナのCDもいいと思いました(たしかこれ以前山○楽器のバッハのコーナーにありました…バッハものといっしょに)あとはトゥルーロ大聖堂聖歌隊のアルバムもほしいな。デュルフレの声楽ものって、「レクイエム」以外はあんまり見かけないので。それはそうと、ハリーくん、ソロアルバム部門受賞おめでとう!

 …それと、ちょっと古いけれどもこのゾウガメさんの話題250歳で大往生、ということはかのモーツァルトとおない年だったんだ…すごすぎ。

 追記です。

 このモノラル全集盤に収録されている「クラヴィーア練習曲集第三巻」中の「4つのデュエット」。2回目のステレオ全集盤ではオルガンで演奏されていますが、こちらは本来(?)のチェンバロによる演奏になってます。使用楽器は旧東独アンマー社のモダンチェンバロで、ヴァルヒャが1960年代にバッハのクラヴィーア作品をEMIレーベルに録音していたときに使ったのとおんなじ楽器でした。

 このモダン楽器、このたびはじめて音を聴きましたが、モダンチェンバロ特有の耳障りな金属音がなくて、そうと言われなければピリオド楽器かと思うくらい、美しい音色を響かせています。
posted by Curragh at 13:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽関連
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