2005年12月06日

トン・コープマン オルガン/チェンバロ演奏会

…に行ってきました。

 かれこれ半年前、7月末の暑いさなかのこと。わざわざ電車に乗って静岡くんだりまで出かけ、駅前の静岡音楽館AOIにてトン・コープマンのオルガン/チェンバロリサイタルのチケットを購入。いち早く席を取れたのはほんとうにラッキーでした。なにしろあのオランダの巨匠が――といってもしかつめらしい師匠のレオンハルトとはちがっていたってニコニコ、人懐っこい人なのですが――AOIのフランス製オルガンを弾き、なおかつティニ・マトー女史との共演でチェンバロまで弾いてくれるという。しかも、ここが個人的にはもっとも重要なのですが、なんとフーガの技法から何曲か弾いてくれる!! これは行かなくては! と思い、5千円のチケットを買ったのでした。

 トン・コープマンによるオルガン/チェンバロ演奏会なんて、東京オペラシティで実演に接して以来、じつに6年ぶりのことです。

 …土地柄、大きな地震が心配でしたが幸いにしてたいした地震もなく、ぶじに当日を迎えることができました。

 …とはいえチラシにはマトー女史がコープマン氏の奥さんである旨がまったく書いてありませんでした…名盤「フーガの技法」を出したときはまだ夫婦だったのに、ひょっとして…??? と音楽とまったく関係のない妄想をついふくらませてしまった。

 かんじんの演奏会ですが、最初はマトー女史との2台チェンバロによる共演でした。舞台にはチェンバロが2台なかよく並べて置いてあり、ホールに入ってみますと調律の方がチューニングの真っ最中。楽器はおしなべてそうですがチェンバロもたいへんデリケートな楽器で、すこしの気温の上下動や湿度の変化ですぐ音程が狂ってしまう。今夜は2台なので調律の人は大変だなと思いつつ楽器を見てみると、手前側の黒い楽器はAOIのものですが、後ろ側の白っぽい楽器はいったいどこから持ってきたのか、ホールの係員に訊いてみたりしたもののけっきょくわからず。

 開演時刻になり、演奏者のふたりが登場…コープマン先生は小柄な方ですが、奥様(?)のマトー女史のほうはすらりと長身で、なんだかコープマン氏のほうが譜めくり係みたい…につい見えてしまった。

 プログラム最初の曲が「フーガの技法」からの4曲(contrapunctus 1-4, 9、当日のプログラムではラテン数字の誤植で4が6になっていた)なので、一音も聴き漏らすまいと文字通り全身耳にして聴き入りました…さすがふたりで分担して弾いているだけあって、あちこちに遊び心あふれる装飾音がふんだんに散りばめられていました。おふたりの手の動きと音とを聴き比べますと、どうも外声部と内声部とをそれぞれべつべつに弾いているらしい…4声だから単純に高音部と低音部、ではなくて。すべて4声フーガとはいえ中間部は3声だったりするので、低音部に現れたフーガ主題をコープマン氏が左手だけで弾く、という場面もありました。自分の席はたまたま最前列左側だったので、おふたりの手の動きと楽譜がよく見えました。使っている譜面は、2台連弾用に上下二段ずつコピーを貼りつけてあるみたいでした。

 バッハのあとはコープマン氏のソロでフランスのデュフリやフォルクレの作品が演奏され、そしてまたマトー女史との共演でモーツァルトが3曲(ソナタ ニ長調、フーガ ハ短調、アンダンテと五つの変奏曲 ト長調)。自分は寡聞にしてモーツァルトにこれだけ4手チェンバロ作品があるとは知らなかったので、とても新鮮でした。第一部の締めくくりはバッハのオルガン曲「前奏曲とフーガ ハ長調 BWV.547」を2台チェンバロで弾くという、コープマン先生らしい遊び心いっぱいのみごとな演奏でした。

 モーツァルトのソナタを弾き終えようとしたそのとき、コープマン氏の弾くチェンバロの低音部でなにやら異音が…次の曲にかかる前、コープマン氏が譜面台をはずしてマトー女史に手渡し、ジャックを引き抜いたりしていたので、ちょっと具合の悪いことが起きたらしい。しばし問題のキーを叩いて音出ししてましたが、直ったようで、すぐにハ長調フーガにかかりました。

 休憩後、いよいよお待ちかねのオルガン独奏。出だしはバッハのハ短調前奏曲とフーガ(BWV.546)。か細い音のチェンバロからガラリと変わってこんどはホール全体が震動するような大音量。ここの楽器はカプラーを使わないと使い物にならないみたいで、このときもペダルと手鍵盤が連動していました…鍵盤とパイプとはすべて機械式アクションで連結しているので、最下段の鍵盤なんか、さぞ重くなって弾きづらいだろうなと想像しつつ聴いていました。

 オルガンのほうはおまけみたいなもので、演奏曲目が少なかったのですが、オルガンコラール「いざ来たれ異邦人の救い主よ BWV.659」の深い瞑想と祈りの世界はまさに名演。最後の「小フーガ BWV.578」はやたらと速いテンポで一気呵成、といった感じでリード管を多用したオルガノプレーノ構成のレジストレーションで弾かれ、コーダが完全に弾き終わる前に演奏に圧倒されたのか、聴衆のほうもワーッと拍手の嵐。

 アンコールはオルガン小曲集から「主イエス・キリスト、われ汝に呼ばわる BWV.639」。コープマンさんはよほどこの曲がお気に入りなのか、それともアンコールはこれと決めているのか、オルガンのアンコールはいつもこれを弾きます。でも何度聴いてもやっぱりこのオルガンコラールはいいなあ

 …さらにアンコールを求める拍手にこたえて、こんどはマトー女史とともにステージに降りてきました…右手にAOIチェンバロのふた用の突っかえ棒を持って。やおらたがいの椅子をくっつけてなにを弾くのかと思ったら、クリスマスらしくヘンデルのハレルヤコーラス、2台チェンバロヴァージョン。これをチェンバロで弾くとはちょっとびっくり。

 さてほんとうのお楽しみはこれからでした…なんとサイン会!! 6年前にもサインをしてもらっているというのに、けっきょく開演前にしっかりCDを買っていたわたし(財布の中身はかなり危なかったが)…。

 6年前は緊張して握手してもらうのを忘れてしまったので、今回はしっかり握手してもらいました…がっちりした、けれどもとてもやさしい感触の手でした…こんな偉大な芸術家の先生に、自分みたいな門外漢が握手してもらうのもどうかと思ったが、こんな機会そうそうあるものではないし、このさい恥はかき捨ててということで。

 開演前、CDを物色していたら、すぐとなりに小学二年生くらいの男の子が。この日は平日の夜というのに、けっこう子ども連れがいました…たいていはピアノ教室に通っていそうな女の子だったので、おや珍しいなと思いました。しかもその子は、「オルガンのCDがほしい!!」と母親にねだってました…もうこの手の音楽に興味があるのかとひとりで感心してしまった。

 休憩時間、調律師が出てきてチェンバロの調整をはじめると、その坊やはお母さんといっしょに自分の席の前にやってきて、身を乗り出すようにそのようすを眺めていたので、その子のお母さんとしばしお話させてもらいました…案の定この子もまたピアノを学んでいる子でした。オペラグラスを手渡すと熱心にオルガンの演奏台を見てました。

 この子は将来、本格的にオルガンに転向して、いつかここで演奏会を開くようなオルガニストになるのかなあなどとまた妄想してしまった。

…プロになるならないはともかく、まだ小さいうちから音楽に接しているとはほんとうにすばらしい。ぜひ生涯、音楽をつづけてほしいと願わずにはいられなかった。暴君ネロじゃないけど、「芸術は身を助ける」から。いつどんなときでも、きっと心のよりどころとなるにちがいない。

posted by Curragh at 05:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽関連
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