2008年02月11日

『キリスト教と音楽』

 先日、図書館の音楽書籍関連の書架を見ていたときにこの本がたまたま目にとまり、自分の勉強もしくは復習のつもりで借りてみることにしました。

 猫も杓子も速読、速読の時代でありながら、本を読むのは遅いほう。そんな自分でも、この本は一気に読めました。著者は有名な音楽学者先生ですが、いままで書きためた原稿を一冊にまとめたと言いながら、講演調の「です・ます」体で書かれた本文はひじょうに読みやすく、ただでさえとっつきにくいキリスト教と西欧音楽の歴史についてじつにわかりやすく項目別にまとめています。この手の音楽は好きだが手軽で体系的に教えてくれる入門書はどれを選べばいいの? と迷っている音楽好きにはもってこいの本だと思います。

 内容は教会暦と音楽との関係、たとえば待降節・四旬節・受難節・復活祭といった季節と音楽との関係、ウルガタ訳と現代英訳・新共同訳における詩編番号の食いちがいについて(たしかにこれにはいつも悩まされる orz)、教会とオルガンについて、レクイエムについて、聖母マリアを讃美する音楽について、オラトリオとオペラはどこがどうちがうのかについて、いろいろおもしろいエピソードも交えて楽しくおしゃべりしてくれます。初歩的なところとしては「アヴェ・マリアを歌うのはローマカトリックのみ」とか、「授賞式などで流れる例の音楽はヘンデルのオラトリオから」とか(「ユダス・マカベウス」中の「見よ、勇者は来たる」)。バッハつながりでは、たとえば「クリスマス・オラトリオ」は6つすべてが演奏されたわけではなくて、顕現日までの12日間の定められた日に割り振って演奏されたことを書いています(とはいえ「バロックの森」で年末に前半3つを流したあと、先月の終わりになって後半3つをかけるとは…あいだが空きすぎて、すっかり忘れてました)。また金澤先生はオルガンについてもたいへんくわしくて、たしかサントリーホールのオルガン・レクチャーコンサートでは進行役を務めていたと思う。で、読み進めるうちに個人的に驚いたのが、pp.79-82で出てくるボローニャの歴史的銘器。前にも書いたけれども、パレストリーナの珍しいオルガン音楽を集めたCDもこの本と一緒に借りて、聴いてみたらこれがじつにいい。なんとそのオルガンこそ、この本に書かれている、ボローニャのサン・ペトロオーニ教会の500年以上も前に建造されたすごい楽器だった! 「…イタリア人にとって重要なのは音色的に美の極致をきわめることであり、多種多様な音色をもつことには関心がありません(p.80)」というのは、この耳で当のオルガンの響きをCDで聴いているのでほんとそのとおりだと思う。ボローニャのこの歴史的銘器はじつに美しいプリンツィパル・コーラスを聴かせてくれます。イタリアの古オルガンはゴシック様式そのままの、基壇に演奏台があり、その上にフルー管が林立するタイプ。本来は足鍵盤なしの一段手鍵盤のみの楽器ですが、CDライナーを見ると手鍵盤の音域はF2-A5の4オクターヴ強(ただし一部半音鍵のないショートオクターヴ)にプルダウン式の足鍵盤を備えた楽器、調律はA4=470hzのミーントーンらしい。たしかに音色の変化には乏しいけれど、それがちっとも単調に感じないのが不思議。とにかく心地よい響きです。人の声とも相性は抜群によいと思います。当初オルガンは声楽の訓練用としても使われたし、この美しい響きを聴けば、オルガンという楽器が合唱音楽とともに発達してきたということがよく理解できます(現存最古のオルガン譜というのが――なぜかまた――英国のロバーツブリッジという大修道院に保管されていた写本だというのは知りませんでした)。また10世紀ごろ、ウィンチェスター大聖堂にあったという大オルガンの話も出てきます。教会暦ついでに、いまはちょうどカーニヴァルも終わって四旬節。Choral Evensongも「灰の水曜日」の中継をセントオールバンズ大聖堂からやってましたが、その前の主日(日曜日)、チェスター大聖堂からの中継では「イエス奉献の祝日(2月2日)」ということで、聖書朗読箇所も有名な「ザカリアの頌歌(Nunc Dimittis)」の出てくるルカ伝2:22-40でした。そのへんのこともわかりやすく書いてあります。

 キリスト教と音楽との深いつながりを中心に書かれていますが、古今東西の教会音楽の名曲もたくさん紹介されています。なかには埋もれてしまった作品もけっこう出てきます。なかでも気になったのが、1969年にジョン・タヴナーが書いたという「ケルトのレクイエム」。おお、どんな曲なのか気になるなぁ…。それと、ヘンデルの有名なオラトリオ「救世主(メサイア)」では、初演はダブリンだったということも書いてありましたね(先生もおんなじこと言ってますが、本来このオラトリオはクリスマス時期ではなくて、復活祭あたりに演奏すべき作品です。レクイエムについては、たとえばフォーレやデュルフレの作品に出てくる'Pie Jesu'も、もとは続唱(セクエンツィア)の'Dies Irae'の最後の節が独立したものということも書いてあります('Dies Irae'の歌詞はけっこう長いのです)。続唱ついでに前にも書いた'Stabat Mater'についてもくわしく書いてあります(pp.200-03)。「万霊節に歌われるミサ(p.42, p.156)」とありましたが、中世の寄進礼拝堂では個人の魂の救済を祈るミサとして日常あげられていたのが、14世紀以降は「死者の日」のためのミサになったとか読んだことがある)。

 なおp.183とp.213の年代表記が100年ズレているのが惜しいところ(モンテヴェルディの没年が100年あとの1743年になっている)。

 読んでためになるばかりか、読んで楽しいキリスト教音楽入門書と言えます。なので評価はるんるんるんるんるんるんるんるん(最高は音符5つ)。

*... なお西洋音楽史については、Kenさんのblogもとても参考になりますのでご紹介しておきます。

posted by Curragh at 23:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近読んだ本
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