2014年12月30日

『ウィンチェスター・トロープス』より一世紀は古い、らしい

 だいぶ前、ここで『アイルランド地誌』を取り上げたとき、当時のアイルランドでは「複雑な」ポリフォニー音楽が奏されていたらしい … みたいなことを書き、そしてこちらの記事では『ウィンチェスター・トロープス集』のこととかもすこし言及したけれども、またしてもその英国で、しかも大英図書館で、さらに時代を遡る「譜例」が発見されるとは思いもよらないことでした( ちなみにこちらの記事では、「最古の合唱音楽か」という見出しになってます )。

 日本語ではこちらのサイトで、この新発見についての経緯がかいつまんで書いてありますが、この記事の出典つまりソースが The Guardian 紙なので、そうそういい加減な記事じゃないはず。もっとも、この「余白に書きこまれた曲譜」というのが、再現してもたったの数秒でおしまいみたいなほんとに断片そのもの。ただし、同記事中、「アメリカのセント・ジョンズ・カレッジの大学院生で大英図書館のインターン生として勤務している … 」というのは、形容詞のかかり方がまずい。もちろんこの博士課程のインターンの方は、聖歌隊で有名なケンブリッジ大学セントジョンズカレッジの学生さんなので。以下、発言部分を拙訳にて紹介してみます。↓

 「 … 興味深いのは、ここでわれわれが見ているのは多声音楽の誕生ではあるものの、こちらの予想とは異なる姿を見ている、ということです。一般的に、多声音楽は一連の決まり事と、ほとんど機械的な慣習から発展したみたいな捉え方をされています。この曲譜は、多声音楽の発展成立に対するわれわれのそのような認識を変えるものです。作曲者がだれであれ、彼はそんな決まり事を破壊しているのです。この曲譜を見ると、10 世紀当時の音楽が流動的な、発展途上の形式だったことがわかります。当時の音楽慣習は従うべき道というよりもあくまでひとつの出発点に過ぎず、あとは新しい作曲法を求めて、めいめいがそれぞれの道を歩んでいったのではないでしょうか」。
He said the unknown composer was already experimenting with the style, breaking the rules as they then stood. “What’s interesting here is that we are looking at the birth of polyphonic music and we are not seeing what we expected. Typically, polyphonic music is seen as having developed from a set of fixed rules and almost mechanical practice. This changes how we understand that development precisely because whoever wrote it was breaking those rules. It shows that music at this time was in a state of flux and development. The conventions were less rules to be followed than a starting point from which one might explore new compositional paths.”

発見者のヴァレッリ氏( 名前からしてイタリア系、ほんとに米国の人 ?? )によると、この曲譜の書きこまれた「ランス司教 Maternianus の肖像画」は、現在のデュッセルドルフ、もしくはパーダーボルンあたりの修道院が出処らしいです。ところでこの人って … 祝日は4月 30日らしいけれど、あいにく Catholic Online サイトにも載ってない。どんな司教なのかな? で、ヴァレッリさんが出処として目星をつけたきっかけになったのもこの聖人の祝日の日付でして、なんでも当該ページのてっぺんに、べつの写字生が「祝日 12月1日」って追記してあって、さらにはドイツ一部地域ではこの聖人を 12月1日にお祝いしていたらしいです。

 いまひとつわかんないのが、やはり Eastern Palaeofrankish という用語。シャルルマーニュの帝国( フランク王国 )の一部地域で使用されていた記譜法なのかな ?? とすると、当地の宮廷で使えていたアイルランド人学者に修道士連中なら、「ああ、これね」ってふうに読めた( 楽譜を解釈して、歌えた )のかもしれない。

 … ああ、そういえば今日の NHK-FM、「西村由紀江の古楽器さんぽ II」、再放送聴くの忘れた。orz 「エスタンピー トリスタンの哀歌」って、すごく興味あるんだが … 「悲しみの人」トリスタンは竪琴弾き、キャンベルふうに言うと、リラ( 竪琴 )弾きつながりではトリスタンはヘルメス → アポロン → オルフェウスの系譜に連なることになる。もっとも彼のほんとうの出自は、キャンベルの恩師ハインリッヒ・ツィマーの父上のケルト学先駆者ツィマー氏によると純粋にケルト系。8世紀後半というから、ラテン語版『聖ブレンダンの航海』の祖型が成立したのとちょうどおんなじ時代に、「タロルクの息子ドラスタン」なる人が実在していたそうで、その人にまつわる伝説が最古のウェールズ版「トリスタン伝説」ということになっているらしい。* でも、その最古級ヴァージョンであるウェールズ本は現存していないので、この人に関する詳細は不明。ゴットフリート・フォン・シュトラースブルクや「ブルターニュのトマ」など、こんにち伝わっているトリスタン物語は 11 世紀以降、ブルターニュ半島に伝わったのちのもので、ウェールズではトリスタン(=ドラスタン)の父親の名前が「タロルク Talorc 」なのに、ゴットフリート本では「リヴァリーン」になっています、って今年最後の脱線をしてしまった。ようするに、ハープつながりだったんで、西山まりえさんのゴシックハープ独奏による「トリスタンの哀歌」を聴きたかった、ただそれだけ( エスタンピーとは、ロンド形式に似た当時のダンス音楽を指す )。

* ... J. Campbell, The Masks of God, Vol. IV:Creative Mythology, pp. 204−5

posted by Curragh at 23:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近のニュースから
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