2008年03月30日

英語熱もここまでくると…+語源の話

 いまさっき見ていたNHKの「海外ネットワーク」。おとなりの韓国の英語熱について報じていましたが…いやはや、向こうの英語熱たるや、すごいですね。就任したばかりの新大統領の「国家をあげての長期戦略」の一環だそうですが、ひとつ気になったことが。中学校での英語の授業のもようが映っていましたが、なんでもハングルは禁止、すべて英語のみというもの。乳幼児がスポンジのごとく耳から覚えたことばをぐいぐい吸い取るのとはちがって、思春期くらいの子どもたちに同様のことを強制的にさせるやり方ではどうなのか。かつて日本の旧制高校でも同様な厳しい教授法が行われていた、という話を聞いたことがありますが、なんか映像を見ているかぎり、当の生徒さんたちはあんまり楽しくなさそう…生徒全員の英語力をいっきに高める、という理想以前に、かえって英語アレルギー、英語嫌いの子を増やしてしまいそうな気がなきにしもあらず、というのが正直な感想。卑見ながら、ある一定以上の年齢になったら「英語のシャワー」のような教え方ではなくて、日英の言語表現のちがいについて注意すべき点をきちんと教えこむほうがけっきょくは身につくのではないか、と思う。具体的にはたとえば以前NHK教育で放映していた「新感覚☆わかる使える英文法」のような教授法です。あるいは大西先生の「ハートで感じる英文法」とか。逆に日本の場合、あまりにも会話偏重のような気がします。言語能力というのは読む・聞く・書く・話すをバランスよく身につけるのが理想的。ここで自分のことを棚にあげて言えば、相手のしゃべっていることが聞き取れる、という人は読み下しの速読だってできるはず。また英語圏のネイティヴスピーカー相手に話せるという人は、英文ライティングだってできるはず。どっちか一方、たとえば話すことはできるけれども読むことはできない、なんてことはありえない。しがない門外漢が勝手なことを書くのもここまで。あとは英語教育の専門家の先生方に任せましょう。以前にもここにちらっと書いたけれども、すくなくとも自分は小学生のうちからむりに英語の勉強をさせる必要はないと考えている。小学生の場合、心から外国語に興味があって、学ぶのが楽しいくらいの子どもが入門のための学習をするていどでいいのではないでしょうか。それよりもわからない単語が出てきたときにどう辞書を使えばいいのか、ということを先に教えたほうがいいと思う。

 いまひとつNHKの報道で印象に残ったのが、韓国の男子生徒のことば。「授業はすべて英語なので、訳すのもままならない」。ようするに生徒さんのレヴェルは「訳読訳解」どまり。これで「すべて英語で」では、どうしたって無茶がある。ちなみに韓国人学生と日本人学生は、だいたいおんなじようなまちがいを犯すという。ともに関係代名詞もないアルタイ語族系なので、これもうなづけるお話ではあります。ちなみに中国語には関係代名詞があります。

 それと、これもいまNHK教育の語学番組のアプローチの仕方とかぶりますが、ただやみくもに頭に詰めこんで覚えればよいというものではない。たとえば、'He has something to say about it.'という一文はひっかからないでしょうが、関係詞でつながっているような場合はたとえば'There is something he has to say'という語順になる。'have to'はここではたまたま隣りあっているだけなので、'have to'=「〜しなくてはならない」と「機械的」に記憶しているとここで落とし穴にはまる。あるいはastonishing, surprising, interesting, exciting, intriguingといった「人を目的語にとる他動詞」のたぐいもひっかかりやすいところ(人が主語にくれば当然すべて受け身形になる)。こまかいところでは前置詞とか、冠詞のaとtheの使い分け。また英語には英語の言い方、発想法がある。ほんとうはこれこそ肝要な点でして、たとえば『くまのパディントン』で、パディントン駅に佇んでいた仔熊がもっていたトランクの荷札には、たしかこんな伝言が書いてありました。'Please look after this bear. Thank you.' さて下線部、どういう気持ちで言っているのでしょうか? 「ありがとう」?? 村岡訳では「よろしくおたのみします」になっていたと思う。つまりここは、日本人の大好きな表現、「よろしくお願いします」にほかならない。こういう発想の転換が直感的にできるようにならないと、ほんとうに相手に通じる英語が使える、とは言えない。このへんまできちんと押さえるためにはどうしても会話中心の教え方では限界がある(同様な表現として、'Thanks in advance'というのもよく使われます。こちらは「まずはお礼まで」くらいの意味)。

 話はそれますがいまでこそ英語、とひとくくりにされますが、こちらのサイトを見れば、英語という言語にはいかに「借用語(loan words)」が多いことか、その成り立ちの歴史はひじょうに複雑であることを理解されることでしょう。もっとも目につくのはラテン語経由で入ってきた「外来語英語」。discomfort, disaster, disease, dissolve, dissonantとか。ここで、'dis-'というのが否定的な意味で使われるラテン語からきた接頭辞だ、ということがわかれば、おおよその見当がついたりする。「病気」がなんでdiseaseなのか。dis+ease、「安楽ではないこと」が転じて「病気」の意になったとか、dis+asterが「星まわり(astro)がよくない」から「災厄」の意になるとか。逆にラテン語経由の単語に強くなると、フランス語やイタリア語(disasterはギリシャ語→ラテン語→イタリア語disastroから英語に入った語)でもかたちは似たようなものだから(仏 désastre, 伊 disastro)、各ロマンス語で当該単語を知らなくてもおおよその察しはついたりします。以下、「外来語英語」をいくつか挙げてみます。

ギリシャ語から
school(本来は「暇」の意), pneumonia(ニュウモニア、肺炎。pneumaは「息」。なので水力オルガンからふいごによる送風で音を出すオルガンが発明されたとき、「ニューマチック」と呼ばれた), hymn, angel, olive, theatre, chaos, criterion, paradigm, phlegm, diaphragm, pause, music, church, organ(organon、「道具」から).

ラテン語から
art, nice, street, colony, mile, wall, cat, wine, oil, cheese, table, candle, cross, pope, devil, mass (教会関係と日常生活系が多い。ちなみにドイツのケルンの英語表記はCologneで、これもローマの植民地だったから。ついでに「香水」の'eau de Cologne'もここから).

ケルト語から
Thames(薄黒いの意), Kent(国境の意), London(荒々しいの意), Avon(川の意), Paris(ガリアの部族名Parisiiから。ケルト語は欧州各地の地名に多く痕跡をとどめている), O'Brienなどの人名。

アラビア語から
alkali, alcohol, algebra, zero, sugar(一説にはペルシャ語起源), sofa(仏語経由で入ってきた).

ペルシャ語から
paradise(元来の意味は「囲われた土地」).

オランダ・フランドル地方から
skipper, buoy, dock, yacht(海事用語が多いですね), spike.

古フランス(アングロ・ノルマン)語経由で入ってきた語から
castle, pride, tower, familiar, feature, define, infant, commence, aid, marriage, beef, pork, mutton, salad, dinner, supper(なにげに食べ物系が多いなー), grace, devotion, conscience, jury, crime, judge, fine, parliament, tax, war, prince, duke, duchess, baton, cover, wait, gentle, hamlet, stupid.

古ノルド語から
they, their, them, both, same, till, though, take, call, cast, hit, gale, fellow, law, window, ill, low, meek, weak, give, get, egg, guess, sky, skin, skirt, dream(本来語だが意味だけ借用。もとは「喜び」の意だった), score(「20」の意味になったりもするので注意。'Four score and seven years ago...'ではじまるのは有名なゲティスバーグ演説。単複同形), Stevenson, Johnsonなど-sonをつけるものはデーン人の慣習から。また地名としては664年に開催された宗教会議の舞台になったWhitbyのby(町の意)のつく地名など。

それとbronchitis(気管支炎), dermatitis(皮膚炎), appendicitis(虫垂炎)みたいに'-itis'とつく語は、たいてい「なんとか炎」という病名になります。こちらはギリシャ語から(病気関連はギリシャ語からの借用語がとても多い)。ついでにもともとの英語(アングロ・サクソン)起源としては、knight, knife, knead, kneelなど、最初の'k'の音が落ちる単語。ほかにはover(ofer), often(最近では綴り字式発音の「オ(ア)フトゥン」も多い), ask, god, home, wife, heart, book, good, dough(ドウ。ピッツァやパンの生地), night, door, wind, blow, leaf, beech(ブナの樹), who, which, how, what, grass, glass, plow(plough), walk, saunter, quick, slow, silly(もともとは「幸福」→「おめでたい、愚かな」), spit, arrow... 疲れた。キリがないからこのへんでやめておきます(笑)。

posted by Curragh at 21:12| Comment(9) | TrackBack(0) | 語学関連
この記事へのコメント
毎度勉強になります!

韓国の高校生、やたらと難しい英単語を知っているのを(局は忘れましたが)放映していたことがあって、仰天した覚えがあります。
「この子ら、こんな語彙を知っていて、将来何をするつもりなの?」
って。

いま、娘には(私も英語はデタラメなのですが)
「春休みのうちに英語の本を読んでおけ! 文法もいらないし、辞典なんか学校に行ってから引けばいい。とにかく、読めるようになっとけば、なんとかなるんだから」
と、「いじわるばあさん」の英訳(日本語が脇についている)や「くまのプーさん」(難しい単語の上には日本語訳が付いている)を渡しているんですけれど・・・「いじわるばあさん」以外は、ちっとも読みやがらない!
Posted by ken at 2008年03月31日 00:34
へぇー、『いじわるばあさん』の英訳なんてあるんですか! それはおもしろいですね。いまや'Manga'も立派な英語、英訳された漫画を利用するという手もありますね。

最近の中学校の修学旅行はスケールが桁違いでして、先日地元紙に掲載されていた磐田市のある中学校なんか、なんと修学旅行先がロンドンにオックスフォード!! で、記事を寄稿した女生徒さんが、立ち寄ったホームズ博物館で2冊、ホームズものの原作を買ったんだそうです。「今はまだ読んでも意味がわからないけれど、これを読み切れるように、もっと英語を頑張ろうと思います」と書いてありました。また「一番感じたことは、もっと英語力をつけなくてはということでした」とも書いてありました。これを読みまして、すばらしい体験だなあとつくづく思いました。なんでもそうだとは思いますが、興味・関心のあるものから始めるのが、けっきょくは一番の早道のような気がします。ちなみに自分の場合は基本的には学校英語しか習ってなくて、それプラスすこしばかり突っこんだ勉強をしただけ。いまだ日本国外に出たことさえありません。それでも曲がりなりにも横文字の本を読み、NYTimes電子版を読んだり横文字のサイト・ブログを渉猟して情報収集している拙い経験から言わせてもらえば、学校で教わる英語をきちんと身につけさえすればこれくらいのことはだれでもできると思っています。それに若いみなさんにはコンパクトな電子辞書にネット上の辞書もたくさんある。その気になれば家にいながらにして海の向こうにいる同世代の人とメールのやりとりだってできる。こういうadvantageを利用しない手はないです。昔では信じられないほどの可能性が広がっているわけで、自分から見れば、いまの若い人はなんともうらやましいかぎりです。とまたしてもつまらん駄文を綴りつつ、そんなみなさんを応援しています(とくにこの春高校に進学される方)!
Posted by Curragh at 2008年03月31日 03:25
いやはや。。。ひとつ前の記事もですが、おもしろいというか勉強になるというか・・・Curraghさんって、ほんと何者でいらっしゃるんですか?実際のところ、、、

いろいろコメントしたいこともあるのですが、相変わらず時間に追われておりまして。。m(__)m

ひとつ、、

>often(最近では綴り字式発音の「オ(ア)フトゥン」も多い),

ん?「最近」では、、とおっしゃるのは、tを発音するのは新しい傾向ということですか??最近というのは具体的にいつ頃からという意味でしょうか。できればもうすこし詳しくお聞きしたいのですが。

Posted by Keiko at 2008年03月31日 17:34
Curraghさん、すみません、今ごくざっとですが、oftenのtの発音ということでウェブ検索してみましたら、もともと発音していなかったのが、17世紀にいったん発音するのが主流に?なり、その後また発音派と発音しない派に分かれたようなことが書いてあり、無難なのは発音しないほうだみたいなことが
書いてあるようですね。

私は単純に米語では発音しないと思っていて、英語(RP)では昔から発音していると思っていたのですが、、経過はもっと複雑なのかな・・・

約1/4世紀も前に滞在した英国で、「オフトゥン」とか「クリストゥマス」とかよく耳にしていたので(ただし年配の人たちだったような)・・・

大学で英語音声学を結構やってたのですが、年月とは怖いもので(笑)何もかもすっかり忘れてしまいまして。。

Posted by Keiko at 2008年03月31日 17:49
Keikoさん

遅くなってしまいすみません。m(_ _)m

まずoftenの発音ですが、PCに入れてある『小学館ランダムハウス』を見たら、綴り字どおりの「tあり発音」は17世紀まで、それ以降は北米と英国で教育のある人々を中心に「tなし発音」が優勢になり、そのため大半の英和辞書にも最初にtなし発音が、つづいてtありの発音が書かれているようです。その後「tあり発音」が復活しましたが、いつなのかについては知りません(O.E.D.をひけばわかると思いますが)。言語の歴史ではわりと新しい変化、という感じで「最近」と入れてしまったので、「いまでは両方の発音がある」とはっきり書けば誤解を招く恐れはなかったかもしれませんね。いずれにせよもともとの単語がoftだったので、「tあり」のほうが本来の姿なのかもしれません(↓参考記事)。

http://www.obunsha.co.jp/argument/05-2/rensai/question/main.html

ついでに昔は'of'も'off'もともに「オフ」と発音されていたようですね。言語の歴史をすこしでもかじると、ことばは生き物だ、ということをあらためて感じます。

略語ついでに'&'の正式な読み方と意味はご存知ですか? 
Posted by Curragh at 2008年04月05日 18:48
>略語ついでに'&'の正式な読み方と意味はご存知ですか? 

えっ。ampersandですよね。意味って、?andより深い意味が何かあるのですか?
Posted by Keiko at 2008年04月06日 02:07
正解です。本来の意味は、「'&'はそれじたいがand のことである(& per se and)」の意で、&でおなじみのこの記号のデザインはラテン語の'et(=and)'を組み合わせた形からです。別名'short and'。ヘンなクイズなんか出して、失礼しました…。
Posted by Curragh at 2008年04月06日 02:29
ふうん。。。et の合成とは知りませんでした。。。なるほど。。

ところで、&っていえば、前にTVのバラエティ番組で、小学生中学生の体育座りを横から見たのに似てるとかって言ってましたっけ・・・

つまんないコメントですみません。m(__)m

話それますが、Kenさんがプーさんの英語の原本をお嬢さんに薦められたというところについて、「実は私はプーをこよなく愛していまして、、」とかって書いたコメントを送信したつもりでいたのですが、反映されていないということは、寝ぼけて「書き込む」ボタンをおさなかったようです。。

そしたら、、、すいさんがご自身のサイトで昨日石井桃子さんのことでプーさんに触れておられたので、あちらで盛り上がってしまいました。。(今も盛り上がり中・・・笑)
Posted by Keiko at 2008年04月06日 13:14
石井桃子さんの残された功績はひじょうに大きいですね。巨星堕つ、という感じは否めません。『プーさん』シリーズと、はじめてディック・ブルーナのミッフィーを本邦紹介した『うさこちゃん』シリーズとか。『ピーターラビット』ものも手がけていましたね。翻訳のみならず、『ノンちゃん雲に乗る』など書下ろしも入れれば、だれでも一度は手に取って読んだことのある作家だったのではないかと思います。『くまのプーさん』の邦訳がはじめて刊行されたのが1940年、岩波からだったと聞いて、おなじ版元から戦後ほどなくして刊行された『星の王子さま』も思い出しました。

ampersandですが、肝心なことが抜けていました。「'&'はそれじたいがand のことである(& per se and)」と書きましたが、ampersandは表記の発音をそのまま名詞化したものです。こんなこと書くじたいがすでに蛇足ではありますが、念のため補足でした。m(_ _)m
Posted by Curragh at 2008年04月06日 15:36
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