2008年04月26日

今週は鍵盤楽器特集

 今週の「バロックの森」は、鍵盤楽器特集。先週の「フランス・バロック」特集では、なんとこれまた珍しい竪型クラヴサン、パルドゥシュ・ドゥ・ヴィオールという楽器でダングルベールの作品がかかってました。いちおうヴィオール属の仲間らしいのですが、聴いた感じではあんまりヴィオールという感じはしなくて、響きのぶ厚いクラヴサンという印象。

 月曜はバロック時代に活躍した鍵盤楽器あれこれ取り揃えてかけてました。もちろんオルガンもチェンバロも、ドイツで発達したクラヴィコードもかかりましたが、耳を引いたのは英国でとくに好まれたヴァージナルというハープシコード。ブルとモーリーの作品がかかってましたが、その音色は想像以上にポロンポロンと軽やかに響いて、なんだかハープシコードというより竪琴みたいだなーと思いました。チェンバロと一口に言ってもイタリアの一段鍵盤もの、フレミッシュやフランスの二段鍵盤もの、英国独特のヴァージナルと、その音色はずいぶんと異なるものだ、ということをあらためて知ったしだい(ピッチも調律法も各地域によってまちまちだったし)。オルガン音楽については、とくにバルト海沿岸の北ドイツで巨大な足鍵盤のパイプ群をおさめたタワーが発達し、各鍵盤間をヴェルクという独立したブロックに区切ってその対比を強調する傾向の楽器が現れました。そんな楽器の進化と歩調をあわせたかのように、ベームやブルーンス、ブクステフーデといった名手たちが豪壮華麗な技法を盛大に誇示するような作品を数多く残し、「北ドイツオルガン楽派」と呼ばれる特有の音楽を生み出していきました。バッハが登場するまでは文字どおりオルガン音楽の本場がこの流派で、月曜の放送ではトン・コープマン演奏によるブクステフーデの「前奏曲 ト短調」がかかってました(足鍵盤の技巧がとくに発達したのも17世紀後半の北ドイツの楽派。ちなみに当時の英国のオルガンは二段手鍵盤のみの楽器[チェア・オルガン]がふつうで、足で弾く鍵盤が登場したのはずっと遅くて1726年になってから)。

 でも、今週のプレイリストでもっとも印象的だったのはクロード・バルバートルの「『ラ・マルセイエーズ』による行進曲と『サ・イラ』の歌」作曲にまつわるこぼれ話。これはフォルテピアノのために書かれた曲ですが、なんでバルバートルが当時まだ主流だったクラヴサンではなくて、新参者の鍵盤楽器を指定したのか。寡聞にして知らなかったが、バルバートルという人は、あのマリー・アントワネットお付きのクラヴサン教師でもあった。で、大革命がはじまると、王室を見限ってさっさと民衆側に鞍替えしたという。そのときみんなを鼓舞する音楽を、ということであの革命歌にもとづく変奏曲を作った、それもいかにも「貴族趣味」な鍵盤楽器クラヴサンではなく、あえてフォルテピアノを指定したとのことです。鞍替えしたバルバートル、からくも革命の嵐を生き延びたとはいえ、晩年は貧困のうちに没したと言います(命日は1799年の5月9日、奇しくもブクステフーデの命日とおんなじ日ですね)。バルバートルとくると、即「ノエル」という単純な図式しか思い浮かばなかったのですが、なるほど、文字どおり波乱万丈の人生を送った作曲家だったようです。バルバートル同様、体制に翻弄された作曲家とくると、やっぱり旧ソ連のショスタコーヴィチでしょうか。先週の日曜、「オーケストラの夕べ」を聴いたとき、有名な「交響曲第5番 '革命'」を京都市交響楽団の熱演で聴きました。バルバートルとショスタコーヴィチ、このふたりの人生は似たようなものだったのかもしれません。

 …余談ながら、先週の「ジャズ・トゥナイト」で、ゲストに40年の付き合いというチャールズ・ロイドという人を招いて楽しそうに歓談する児山紀芳氏でしたが、9/11事件の話のあと、急に泣き出したのには少々びっくりした。「ながら」で聴いていたので、長年の友人と具体的にどんな話をしていたのかはさだかではないが、きっとこみ上げてくるものがあったのだろう(ひょっとしたら、だれかジャズの関係者が巻き添えになっていたのかもしれない)。

posted by Curragh at 23:45| Comment(3) | TrackBack(0) | NHK-FM
この記事へのコメント
Curraghさん、ご無沙汰でした〜

チェンバロ族の仲間にこんないろいろな楽器があるとは知りませんでした。ほんとに勉強になります。

ところで、トン・コープマン氏来日なんですよね、9月に・・行きたいけど、平日の夜らしいのでやはり無理みたいです。

>それもいかにも「貴族趣味」な鍵盤楽器クラヴサンではなく、あえてフォルテピアノを指定したとのことです

なるほど・・クラヴサンとかに比べるとフォルテピアノはもっと民衆の楽器ということになるのでしょうか。そういう観点で考えたことがなかったので、面白いです。。

フォルテピアノによるモーツァルトのピアノ協奏曲のCDを少しばかり持っていますが、モダンピアノより素朴で大好きです。
Posted by Keiko at 2008年04月27日 12:21
チェンバロは、宮廷のやんごとなき方の慰めのための楽器と言っていいと思います。当時の楽器はキンピカの装飾品、贅沢品でもありました。楽器というより、家具・調度のたぐいですね(いや、いまでもそうか…)。

それに引き換え、フォルテピアノのほうは地味だし、まだ出始めだったので、チェンバロのような「貴族的」イメージはなかったんだと思います。
Posted by Curragh at 2008年04月28日 02:31
映画「アマデウス」で、モーツァルトやサリエリが自宅で作曲するとき弾いていたのがチェンバロじゃなくてフォルテピアノでしたし・・なんとなく、ピアノもやはり上流階級のものみたいな感じをもっていましたが、、、確かにピアノって装飾はしないし調度品にはならなかったでしょうね。。価格もチェンバロより安かったんでしょうか。

ところで、ローランドの電子チェンバロ、どんな人たちが買ったんでしょ!

Posted by Keiko at 2008年05月07日 22:55
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