2006年10月17日

聖エカテリニ修道院

 いまさっき「NHKスペシャル」の再放送を見ました…数か月も前に放映された、「ビザンティン帝国」。なんでまた東ローマ(ビザンティン)帝国?? と思って見はじめたのですが、なるほど、トルコのEU加盟…が伏線にあったのですね。でも個人的にはかつてのコンスタンティノポリスのアヤ・ソフィアより、シナイ山麓に建つ世界最古の修道院・聖エカテリニ修道院内部の映像に釘付けになってしまった。

 以前、たしかTBSの「世界遺産」でもこの聖エカテリニ(カタリナ)修道院は見たことがありましたが、今回はさらにすごかった。モーセのモザイク画に1500年分の亡骸の眠る院内墓地、そしてバティカン図書館につぐ規模を誇る修道院図書館内部まで撮影している! とくに門外不出の古文書が3000冊も収められている図書館の映像は強烈でした。書庫の建て方はコンクリートの柱に支えられた、わりと平凡な感じの造りではありましたが、ふだんまず見られない貴重な映像であったことには変わりありません。あとおもしろかったのは厨房のシーン。修道士見習い(修練士)が、まだ片言のアラビア語で地元民であるベドウィン人の雇われコックと献立について、やや(?)かみ合わない会話を交わしていました…生活感があっていいですね、こういう場面! …1500年間もここで料理をこさえてきたのかな(総勢20名の修道士は全員ギリシャ人)? またこれも見ることはできないであろう、ここの修道院の主であるダミアノ大主教(なんと123代目!!)と修道士の対話。1500年前の建物の中で、「クローン」問題について大主教に質問する修道士。世界最古の修道院で現代医療の最先端の話題! けっして俗世間に無関心ではなく、問題意識を積極的に持ちつづけているところは好印象でした。

 またダミアノ大主教は薬剤師でもあり、みずから車を運転してベドウィンの集落に出向いては健康相談を受けたり(ベドウィンも糖尿病患いの人っているんだ…砂糖入れすぎのミントティーのせい?)。

 もっとも印象に残ったのは、この要塞修道院がいままでイスラム勢力に滅ぼされずに生き残ってきた理由について。修道院内にはなんとモスクまであるのです…そしていまでもベドウィンの地元民が「ムスリム式の祈り」を修道士ともども捧げてますし。このへん、西ローマ帝国滅亡後も、ビザンティン帝国がイスラムの包囲網をなんとか懐柔させて生き残ったことに相通じるところがあります…東西教会が1054年に分裂後、ローマ教皇を頂点にいただく西方教会(ローマカトリック)側は悪名高い十字軍を組織して、おなじキリスト教領土であるはずのコンスタンティノポリスまで占領して、さんざん荒らしまくったあげくけっきょくは失敗に終わった…このへんの経緯は双方に誤解と偏見があったことも絡んでいるのでなんとも言えませんが、ダミアノ大主教はこう言っています。「たがいの信仰を尊重しあうことこそもっとも大切なこと」。おなじ「正教会」でもローマカトリック側はたしかに「寛容さ」という点では石頭で、十字軍の例に漏れず、かえって評判を落とすような過ちを何度か犯している。このへん一神教の決定的な欠陥ではあるが、かつての東方教会のように、異民族・異文化・異教徒ともおなじ屋根の下でうまくやっていこうという気さえあればやっていけるのです…いま、イスラム教・キリスト教のべつに関係なく極端な原理主義勢力が台頭してきているのはまことに憂慮すべき事態。自分たちの信仰のみ正しいという頑迷な態度はしょせん行き詰るものです…大半は宗教にかこつけて政治利用しているだけでしょうが、利用されるほうははなはだ迷惑千万。聖エカテリニ修道院のダミアノ大主教のことばを真摯に受け止めるべきです。

 だからといって宗教は悪、とも思わない…たしかに組織宗教のせいでいままでどれだけの戦争・紛争があったことか…それでも「信仰」ないし超越者への「祈り」は人にとってごく自然なこと…だれだって自分の力だけではどうにもならないときは神仏に願掛けするものでしょう。しょせん人は自分ひとりだけではどうしようもなく無力な存在、祈りや信仰じたいはべつに悪いことでもなんでもない。厳に戒めなくてはならないのは、人の信仰・信条を踏みにじるような態度だと思う。ダミアノ大主教のことばどおり、みんながみんな「たがいに尊重」しあえば仲良く共存できる…はず。尊重、そして寛容であること。いまもっとも欠けている発想です。

 原理主義勢力が跋扈している21世紀の世界を見たら、イエスもムハンマドも、「自分たちはこんな教えを説いたわけではない!」とおおいに憤慨するにちがいないし、原始キリスト教会の教父たちと、彼らの対立勢力だったグノーシス諸派だって、この現実を見たらともに口をそろえて「冗談じゃない!」と叫ぶのではないでしょうか。

posted by Curragh at 03:16| Comment(1) | TrackBack(0) | 歴史・考古学
この記事へのコメント
Curraghさま

コメントありがとうございましたm(_ _)m

小生も、この修道院図書館の映像に釘付けになりました。夜勤中でしたのでじっくり見られなかったのですが^^; 門外不出の古文書が3000冊とは! びっくりです。その道の研究者の目に触れていない文書も多数あるのでしょうか。また新発見があるといいですね。
Posted by cepha at 2006年10月24日 02:01
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