人一倍雨が大嫌いで、晴れ男(?)を自認していたけれども、きのうはあいにくの雨。とはいえこの日は楽しみにしていた静岡音楽館 AOIでのオルガンリサイタルがあったので、わりと厚着して出かけました( 季節が3月に逆戻りしたかのごとく肌寒い一日だった )。
演奏者の方は、地元出身の若手演奏家を対象にここで毎年開催される「静岡の名手たち」というオーディションに合格された、まだ 22歳の新進気鋭のオルガニスト、大木麻里さん。プログラムは、バッハ( BWV.572 )もあるけれど、ここの楽器がフランス製、ということなのか、メインは楽器との相性もいいフランスのオルガン音楽。バッハと同時代に活躍したダカン(「ノエル第7番」)、前期古典時代のボエリー( 幻想曲とフーガ 変ロ長調 )、ロマン派のセザール・フランク(「英雄的小品 ロ短調」)に、今年生誕 100周年のメシアン(「オルガンの書より『鳥たちの歌』」)と、メシアンらに多大な影響を与えた即興演奏の巨匠トゥルヌミール(「5つの即興曲」)。チケットのお値段は破格の千円ながら、これはかなり突っこんだというか、通好みのプログラムでして、料理で言えば「フランスオルガン音楽ア・ラ・カルト」みたいな感じ。演奏には女性のアシスタントの方もいました( ストップ操作および譜めくり担当。ちなみにレオンハルトやコープマンといったオランダの鍵盤楽器奏者と、フランスのオルガニストには「ぜんぶ自分で」というスタイルの人が多いみたいです。ジャン・ギユーとか M.C.アラン、アンドレ・イゾワールもそうだった )。
とはいえ、「オルガン神秘主義」派特有な、あのものすごい大音響とどろく響き … というものがどうにも苦手なもので、あまりの安さに飛びついたとはいえ、「ちんまりとオールバッハのほうがよかったかも」なんて思っていた。でもいざ実演を聴いてみたら、「おや ?! メシアンもトゥルヌミールも案外いけるじゃない」というふうに変わってきました。やっぱり実演に接するというのは大事ですね。作品にたいして抱いていた先入観がきれいに払拭されたような思いがしました。メシアンの「鳥たちの歌」は、20年以上も前に NHK-FM の「オルガンのしらべ」でエアチェックして以来とんと聴いてなくて、あんまりひさしぶりだったからじっさいに耳にしてああ、これかと思い出したくらい。フクロウにスズメ、ガチョウ(?)を思わせる「囀り」もしくは「おしゃべり」がいろんな鍵盤のパイプから聴こえてきて、子どもでも楽しめそうな作品だと思います(会場には子どもも多かった)。とはいえ真ん中の鍵盤( positif、フランスの楽器は最下段の鍵盤が「主オルガン」になる。ドイツでは2段目が「主オルガン[ Hauptwerk ]」)で弾いていた、あの「ガーガー」音、どんなストップで出したのかな? ストップリストを見た感じだと、Cromorne 8フィート管のような気がするけど。またこのトゥルヌミールの作品、じつは即興演奏を録音した音源から「レクイエム」で有名なオルガニスト / 作曲家のデュルフレが「採譜」したという!! よくこんな複雑怪奇な、疾風怒涛のごとき即興演奏を楽譜に起こせたもんだ! なんという恐るべき耳の持ち主だろうか(だれにでもできる仕事じゃないと思う)。「5つの即興曲」には 'Te Deum' とか 'Ave Maris Stella' とか有名な聖歌にもとづく即興曲もあり、とくに「'Te Deum' による即興曲」では「二重ペダル」技法によって、うねるような16分音符進行が奏されておお、これはすごい、さすがトゥルヌミールだと感嘆しました( ボエリーとメシアンの「鳥たちの歌」にもときおり「二重ペダル」技法が出てきた )。また「上の鍵盤を弾きつつ、親指で下の鍵盤を押して定旋律を弾く」という技法も見ました( たしか出だしの曲 )。最後の曲の終結部はトゥルヌミール特有のフルオルガン、なおかつペダルカプラーによる全鍵盤連結、ものすごい大音響。プログラム解説にもあるとおり、文字どおり「音の洪水」状態、一歩まちがえばたんなるクラスタになりかねない圧倒的迫力で作品は閉じられましたが、そうは言ってもただ「ワンワンやかましいだけじゃない」ということに気づきました … グレゴリアンチャントを思わせる旋律とか、有名な聖歌にもとづく定旋律が、一見自由奔放、多調というか無調というか、そんなとりとめのない旋律と絡みあっているのですが、じつに効果的に楽器を「歌わせている」ということに気づきました … 「歌わせている」即興曲を作ったトゥルヌミールという人もすごいが、いまここで弾いているうら若きオルガニストもすごいもんです。長尾春花さんのみならず、静岡出身の演奏家もやるなぁ、という感じ( いま「オーケストラの夕べ」でマーラーの「6番」を聴いてましたが、トゥルヌミールの先生ってマーラーだったんですね。知らなかった。たしかに「どこが山でどこが谷か、まるでわからないとりとめのなさ」という感じは似てるかも )。
ダカンの「ノエル」は、わりとよく聴くほうではなく、はじめて聴く作品だった。印象的で装飾豊かな旋律が2段目の鍵盤で弾かれていましたが、音色はヴァルヒャの弾いた「人よ、汝のおおいなる罪を泣け BWV.622 」のコラール旋律みたいな響きでした( Nazard 2 2/3'+Tierce1 3/5'+Larigot 1 1/3' あたりのミューテーションストップの組み合わせ?)。バッハの「幻想曲 ト長調 BWV.572 」は、自筆譜では 'Pièce d'Orgue' とバッハのオルガン作品では唯一、フランス語表記をもつ作品。終結部の急速なパッセージの連続ではテンポがいきなり速くなって、このへんちょっとコープマンっぽい感じがしました。若さ溢れるバッハ、という印象。
演奏を終えたあと、演奏者の大木さんは挨拶されましたが、アンコール … になるのかな、友人の若い作曲家先生がオルガン用にアレンジしたという「富士の山」が最後に演奏されました( いっきに身近な曲!)。わりと静かな、牧歌的なアレンジで、最後はなんかバッハの「オルガン小曲集」を思わせるような終わり方でした( 笑 )。そういえば「オルガンで綴る日本の童謡」なんて CD も見かけたことがないなー。あってもよさそうなもんだ( 意外としっくりくるものです。話は飛ぶが、下田にはなんとオルガンをもってる保育園があり、以前地元ニュースかなにかで、オルガンで奏でられる童謡にあわせて楽しそうに「お遊戯」する園児たちを見たことがある。オルガンのやわらかいフルーストップ系の音色は、童謡の演奏にはぴったりですね )。
→参考: AOIのオルガンのストップリスト。またオルガンについてひじょうにわかりやすく解説してあるページも見つけたのであわせて紹介しておきます( ストップを重ねるとどんな響きになるのかもじっさいに聴くことができます )。解説で使われているのは AOIの楽器です。
…そしてこちらは本日のおまけ。先日、YouTube にて見つけたもの。はっきり言って人の投稿作品をつないだだけなんですが、けっこうおもしろかったので紹介しておきます( 著作権関係が気になるところではありますが。それと譜面台にさりげなくヘンテコな画像まで挿入されてますが、はっきり言ってこれは蛇足でしょう )。↓
2008年05月11日
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