2006年10月22日

「出エジプト記に秘められた真実」後編

 NHK教育「地球ドラマチック/出エジプト記の"真実"」後編を見ました…。前回は録画すらしていなかったので、今回はきちんと録画しまして、あらためてじっくり見直してみました(→Wikipediaの記事)。

 モーセ率いるイスラエルの民がエジプト軍から逃げるために渡ったとされる「紅海」。これは案内役のドキュメンタリー映画製作者シムカ・ヤコボビッチ氏の指摘するとおり、厳密には誤訳でして、ほんとうは「葦の海」、つまり「湖」だったというのはいまや通説ですが、3500年前の「葦の海」は海とつながっていた「汽水湖」だった、というのは初耳。今回もまた専門家の意見を織り交ぜながら自説を展開していって、おおむね好感のもてる番組でした…たとえば1972年にサントリーニ島から発掘されたという壁画の話や当時のエジプトとギリシャ・ミノア(ミノス)文明とは活発な交流活動があったらしい…というくだりはとても刺激的でした(ちなみに「新共同訳」版ではしっかり「葦の海」と訳されています[13:18, 15:22])。

 …でも後編の回にかぎっていえば、仮説の立て方にやや無理があるようにも感じられます…たとえば19世紀、シュリーマンが発掘した有名なミケーネの王墓に建っていた3つの墓石の説明。ヤコボビッチ氏は「虚心坦懐」に見ると、これら3つの墓石に描かれた光景は明らかに「葦の海」が割れてイスラエルの民が歩いて渡り、彼らのあとを追ってきたエジプトの軍勢が大水に呑みこまれるシーンだという。博物館の学芸員によると、墓石に彫られた絵柄は兵士どうしが剣を取って戦う場面、とまったく相反する解釈…もっともこの学芸員のほうも、3つの墓石に描かれたのがなんであるかについては断言できなかったけれども、こうした学芸員の意見を聞いてもヤコボビッチ氏は自説を譲りません。見た感想としては、この点についてはまだまだ調査の余地あり、ヤコボビッチ説にはやや難ありと思う。

 それと伝説のシナイ山がどこなのか、というくだり。先日ここでも書いた、聖エカテリニ(カタリナ)修道院を見下ろす花崗岩の山がシナイ山、ということになってはいるけれど、じっさいのところこちらもほんとうの場所はわかってなくて、いくつかある候補のひとつにすぎない。で、「出エジプト記」と「申命記」の記述をたよりに候補を絞って、最終的にティムナ近郊の台地から200mほど盛り上がったテーブル状の岩山(現地名はハシェム・エル・タリフというらしい)であると推定、取材しようとしたら軍事的に微妙な場所らしくエジプト軍から取材許可が下りない。ここであきらめたかと思ったら、「粘り強く交渉した」結果、なんと小型カメラ(!!)のみでなら山へ登っていいという!? ほんとですかそれ? …一度取材拒否したエジプト軍がそんなにあっさりと許可するものなんでしょうか?? 奇妙、といえば事前調査としてあたりをつけた地域上空を熱気球に乗ってシナイ山を探す、というのもヘンといえばヘン。軍事的に制限のかかる地域の空をなんの許可もなく飛んだらそれこそ一大事になりかねないと思うのですが、常識的に考えて。山頂にあった(?)「聖職者の墓の跡」に「温泉の跡」…このへんもやはりなんともいえない。山頂にある遺構や温泉跡が本物ならば、ザヒ・ハワス博士に頭を下げて、発掘許可をもらってきちんと調査しないと。最後に紹介されていた「契約の箱」についても、「幕屋」はたしかに「出エジプト記」にこまごまとした記述があるから忠実に復元可能だと思うけれども、黄金製の「契約の箱」についてはモーセとともに脱出したギリシャ職人の作品ではないか、「3つの墓石」のある博物館にもそれらしきモチーフの金細工がある…というのも、結論づけるにはまだ状況証拠が足りないように思います(意匠が似ているから、考えられなくはないけど。『出エジプト記』37章では「ベツァルエルはアカシヤ材で箱を作った…」とあり、31章6節以下では「…わたしはダン族のアヒサマクの子オホリアブを、彼[ベツァルエル]の助手にする」とあり、ホメロスもギリシャ人のことを「ダナオイ」と呼んでいたことを引き合いに出して、このダン族の子オホリアブがモーセ一行に混じっていたギリシャ人技術者ではないか…というのがヤコボビッチ氏の主張)。

 …というわけで、前編にくらべてやや説得力不足というか、仮説ばかりが先走ってしまったような印象を受けましたが、前回とあわせて見てみると、知的好奇心をおおいに刺激する科学ドキュメンタリー番組であることには変わりありません。ただ、出だしのジェームズ・キャメロン監督の言い方が若干どうかとは思ったが(大事なのは神を信じる/信じないにかかわらず、エジプトやギリシャ側から見たもうひとつの「出エジプト」を客観的・科学的に解明することでしょう。「出エジプト記」はあくまでもイスラエルの民の視点でしか語っていないので、これだけの天変地異がほんとうに起きたのなら、当然周辺諸国にも似たような話が伝えられているはず。もっともこれはカナダの放送局が制作した番組だし、対象視聴者もクリスチャンの多い北米大陸の人だから、という事情もあってあのように言ったのでしょうけれども)。

 …次回は「ジェラート」か…欧州の人って大人も子どももみんな歩きながらペロペロやってる人、多いですよね…。ロシアだったか、凍てつく真冬でも平然と食べていたり…。ほんと欧州人のジェラート好きはすさまじい(笑)。

 追記。

 …気になる箇所があったのでいま一度、ビデオを見直すと、あきらかに意図的(?)な「意訳(??)」が。

 …問題のシナイ山らしい山のてっぺんに、太古の時代に泉(日本語版では温泉)が噴出していたらしい跡を発見したとき、ヤコボビッチ氏とともに登山した学者先生がつぶやいた科白。TVのスピーカーを、副音声のオリジナル版に切り換えて聞き耳立てていたら、

 「…(山頂の温泉跡は)ここでしか見られません。これは本物(のシナイ山)です」

という訳になっていたところなんですが、ここの本来の科白は

 '... The remains of a really ancient spring, yeah. This is quite unique.'

…すなおに訳せば、「まぎれもなく古代の(温)泉跡です。これはきわめて特異なことです」くらいだと思うんですがね。

posted by Curragh at 05:37| Comment(2) | TrackBack(0) | 歴史・考古学
この記事へのコメント
エジプト時代に 中近東 ナイル川 ピラミッド 文化を 構築した。 賢人 科学者達が 研究して 今日の 文明の 基礎を 形成して 21世紀 科学者文明などが 存在感を ましている!
Posted by たけむら アブラハム at 2010年12月19日 11:37
シナイ山に 温泉 あり得る 現象です 箱根山の 温泉 水上温泉 南極などにも 温泉 鉱泉 があり 裸で暮らせるそうだ!
Posted by たけむら アブラハム at 2010年12月19日 11:48
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