2008年05月18日

聖ブレンダンにまつわる古い伝説

 先週16日はSaint Brendan's Dayでした。以前、「聖ブレンダンと音楽」と題して「リズモアの書」に収録された民間伝承を取り上げましたが、今回はおなじ書物から、もうひとつの古い言い伝えを拙訳にて紹介したいと思います(この伝説は「レンスターの書」にも収録されているようです)。

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3人の若い巡礼者の伝説

 アイルランドの若い聖職者3人は巡礼の船旅に出た。おおいに喜び勇んで船出した。3人は糧ももたず、ただ三枚のビスケットのみを携えて旅立った。ひとりが言った。「子猫も一匹、連れて行こう」。

 さて大海原に出ると、3人はこう言った。「キリストの名において櫂を捨て、この身をすべて主のご慈悲に委ねよう」。3人はこれを実行した。

 ほどなくして3人はキリストの加護のもと、とある美しい島に漂着した。島には薪も飲み水も豊富にあった。「われらの島の真ん中に教会を建てよう」。こうして若者たちは教会を建てた。連れてきた子猫はいずこへと消えたかと思えば、3匹の鮭をくわえて帰ってきた。こうして猫は、一日分の糧として3匹の鮭をくわえて帰ってくるようになった。若者たちは言った。「おお、神よ! このままではわたしたちの巡礼は巡礼にあらず。日々の糧は連れてきた子猫がたっぷりもたらしてくれるし、子猫が捕ってきた魚をいただくのも悲しい。今後は猫のお相伴にはあずからないことにしよう」。かくして3人は飲まず食わずで過ごしたが、まる一日経ったとき、精白していないパン半斤と魚一匹が祭壇の上にそれぞれの分あるというキリストのお告げを聞いた。3人は言った。「父なる神に代わって糧を賜りしわれらが救い主の御業に感謝を捧げよう」。

 「ではまずわたしは日々の祈りとミサとともに、150の『詩編』を歌うことにしよう」ひとりが言った。

 「わたしは日々の祈りとミサとともに、150の長い祈祷をあげることにしよう」もうひとりが言った。

 「わたしは日々の祈りとミサとともに、聖ヒラリウスの賛歌『兄弟たちよ主を讃えよ』を150回歌おう」3人目が言った。

 それから長い長い歳月、3人はめいめいの祈りをあげたが、とうとうひとりが亡くなってしまった。残ったふたりはレクイエムをあげ、彼を埋葬した。ふたりは150回の『詩編』唱を彼に代わって引き受け、分担して毎日歌った。

 ほどなくしてまたひとりが亡くなり、残る同志ひとりが亡くなったふたりの祈りをすべて引き受けたが、ひとりの身にはこれらすべての務めは重荷になった。

 そこで、たったひとり生き残った聖職者はこうひとりごちた。「神は、わたしなんかよりあのふたりのほうを深く愛されていたのではないのか? ふたりをご自分の御許へ召され、わたしはただひとりここにこうして取り残されてしまった」。

 すると天使がやってきて、彼に言った。「汝の神は、汝のそのつぶやきにお怒りだ。汝は神の恩寵なくして、かくも命長らえることがあろうか」。「ではなぜ神はあのふたりのようにわたしにも死の苦しみをお与えにならないのですか?」。天使がこたえる。「それは汝らが日々の祈りを割り振ったとき、汝らが選んだことだ。この地で『詩編』150編を選びし者は、短命になり、もっとも早く召される。150編の祈りを日課とした者は、あらかじめ定められた生をまっとうする。『兄弟たちよ主を讃えよ』を150編歌うと決めた者はこの地で生き長らえ、その後天の王国で過ごすことになる」。

 「そなたを遣わした主に祝福を。神に深く感謝いたします」。

 かくして聖職者はこの島で生き長らえて年老い、やがて聖ブレンダンが海のかなたから現れて島を訪れ、老人を祝福した。聖ブレンダンは「臨終の聖体拝領」を滞りなくあげると、老人は天に召された。その後この島では、天使たちが3人の眠る墓を守っている。(from Denis O'Donaghue, Lives and Legends of Saint Brendan The Voyager, 1895, pp.273-76)

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 この伝説、じつは『ケルトの聖書物語』に収録された『聖ブレンダン伝』に出てくる「巨大な海猫の島に住む老人」の挿話(pp.136-7)とじつによく似ているのです。『聖ブレンダン伝』では老人は、「12人の巡礼者の最後の生き残り」として登場し、子猫は海猫(!)に化けています。根拠不明ながら、編者オダナヒューはこの古い伝承の解説で、こちらの「伝説」が「原型」となって、『聖ブレンダン伝』に取りこまれた挿話が成立したと書いています。オダナヒューによれば、「12人の巡礼者の話」は8世紀後半に編まれたとされる『聖オエングスの連祷』にも出てくることから、こちらのヴァージョンがアイルランドではひろく流布していたのではと推測しています。

2). アイルランドがらみでは、つい最近こんなのも見つけました。↓



この記事へのコメント
こんばんは。実に面白いお話をどうも有り難うございます。
改めて、いろんな興味深いお話があるものですね、ふむふむ。

日々、益々知りたいこと、読みたい本が増えるばかりで自分の煩悩に呆れるばかりですが、本当に楽しいです♪

手元にある本が一向に片付かないのに、お伺いしたお話の本も読みたくなってきてしまいました(苦笑)。いつも素敵な情報有り難うございます!!
Posted by alice-room at 2008年05月21日 23:40
alice-roomさん

お返事またまた遅くなってしまってすみません。m(_ _)m

アイルランドの歴史を10分以内にまとめてみました、というビデオ、お楽しみいただけましたか(しかし聖ブレンダンが出てこない!)?

いまさっきblogのほう覗かせていただいたんですが、VBAとかPerlとか、名前は知っていてもいざ現物を見せられるとなにがなんだかさっぱり(笑)。おなじ頭を抱えるのならまだラテン語のほうがましかも。

HPの超小型低価格マシン、興味はあるのですが、Linux搭載機はやっぱり商売としては成り立たないのでしょうか。といってもいまだLinuxの呪文みたいなコマンドもさっぱりではあるけれど…(解説本みたいなものはもってはいるのですが、はっきり言って宝の持ち腐れ。きのう本屋に行ったら'Ubuntu'の特集を組んだ雑誌も見かけました)。
Posted by Curragh at 2008年05月25日 20:12
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