…を、備忘録代わりに書いておきますが、その前に前置き。
いま、小学館から出ている『バッハ全集』に収録されたいわゆる「キルンベルガー収集のオルガンコラール編曲集 BWV.690-713」、「27のオルガンコラール編曲集 BWV.714-740」、「25のオルガンコラール編曲集 BWV.741-765」および解説本を図書館から借りまして、ヘルマン・ケラーの『バッハのオルガン作品』、ときおりウィリアムズのぶ厚い本も見ながら聴いてみました(ついでにつづきの「ノイマイスター・コラール集」もあわせて)。ヴァルヒャの全集盤にはなぜかほんの一部(BWV.700, 709, 727, 733, 734, 736)しか入ってないので、全曲通して聴くのははじめて。とはいえ、BWV.729, 732の降誕節(クリスマス)用コラールはレオンハルトの盤で、BWV.690, 691, 709, 721, 728, 734はレーゲンスブルク大聖堂聖歌隊来日公演で買ったCDで、BWV.754はデンマークのソーレ修道院教会オルガンをもちいたDENONのアルバムですでに聴いていたけれど、そのことを忘れていた(笑)。聴きながら、ああ、なんだこれか…という体たらく(「なんだこれか、とはなんだ」←作曲者の声)。それと、「最愛なるイエスよ、われらここにあり」にもとづくふたつの編曲(BWV.730, 731)も、「わが心の切なる願い BWV.727」とならんで大好きな曲で愛聴しています。それ以外のコラール編曲は、どれもはじめて聴くものばかりでとても新鮮でした。演奏者は英国の名手サイモン・プレストン。使用楽器はDENON盤とおなじく、デンマーク・ソーレ修道院教会の歴史的銘器(1942年にマルキュッセン社が修復したもの)。プレストンはここの楽器がひじょうに気に入っているらしい。たしかに低音のリードストップは独特の響きがして自分も好きです。
で、あらためて聴いてみますと、「キルンベルガー…」以下のオルガンコラール編曲は、青年時代のバッハ初期の作あり、「アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帖」収録の作あり、晩年のライプツィッヒ時代に手を加えた作あり、ヴァイマール時代の作あり、また作風も「わが心の切なる願い BWV.727」に代表される「オルガン小曲集」タイプの編曲あり、北ドイツオルガン楽派ふうのトッカータ・幻想曲ふうの編曲あり、フーガやフゲッタ、トリオありと、はっきり言ってごっちゃごちゃ。聴いているこっちの頭もごっちゃごちゃ(笑)。それでも大好きなBWV.727に負けず劣らずはっとさせられるような、コラール旋律のひじょうに美しい編曲もいくつかあります。
最近発見されたばかりのBWV.1128を念頭において聴いていたのですが、すでにKenさんが指摘されているとおりであのようなトッカータふうの終結部をもつ編曲は見当たりませんでした(BWV.743のみ、終結部に似たような後奏はついてましたが)。ただ、部分的に似ている編曲はありまして、ブクステフーデの編曲でも有名な「暁の星はいと麗しきかな BWV.739」とかは――前にも書いたけれどやはり――似通っています。北ドイツオルガン楽派ふうの「コラール・ファンタジー」として唯一、分類されている編曲「キリストは死の縄目につきたまえり BWV.718」もようやく聴くことができました(比較のためにレオンハルトがハンブルク・聖ヤコビ教会のシュニットガーオルガンで演奏している盤も借りた)。出だしは似ているけれど、BWV.1128もコラール各行で拍子が変わったり、多種多様な一種の「変奏曲」の組み合わせみたいな構造になって、最後に上声3連符に彩られた終結部で曲を閉じるのだろうか。
『バッハ全集』の解説本を繰ってひとつ気になった記述がありました。BWV.771のコラール変奏曲の項目で、「この作品は、『旧バッハ全集』の中心的人物のひとり、ヴィルヘルム・ルスト(1822-92)の遺産として伝えられるが、実際にはパッヘルベルの高弟アンドレアス・ニコラウス・フェッター(1666-1710)の手によるものである(p.219)」ですと。BWV.1128は…どうなんでしょう??? ついでに先月、AOIのオルガン演奏会を聴きに行ったときに買ったNaxosレーベルの「ブクステフーデ・オルガン作品全集 6」には、BWV.1128とおんなじコラール旋律にもとづく編曲(BuxWV.222)まで入ってましたが、こちらのスタイルはまるで別物、ブクステフーデにしてはわりとシンプルな編曲でした。
1). 偽作とされる作品・自由オルガン作品:
「フーガ ト短調 BWV.131a」、「前奏曲とフーガ イ長調 BWV.536/a」、「前奏曲、トリオとフーガ 変ロ長調 BWV.545b」、「フーガ ニ長調 BWV.580」、「フーガ ト長調 BWV.581」、「トリオ ト短調 BWV.584」、「協奏曲 変ホ長調 BWV.597」、「ペダル練習曲 ト短調 BWV.598」、「トリオ ト長調 BWV.1027a」。
コラール編曲:
「尊き神の統べしらすままにまつろい BWV.691a」、「ああ主なる神よ BWV.692/692a/3」(J.G.ヴァルター作)、「キリストは蘇りたまえり BWV.746」(J.C.F.フィッシャー作)、「父なる神よ、われらの内に住みたまえ BWV.748/748a」(J.G.ヴァルター作)、「甘き喜びのうちに BWV.751」(J.ミヒャエル・バッハ作。ヨハン・ミヒャエルはバッハの最初の奥さんであるマリア・バルバラの父親)、「装いせよ、おおわが魂よ BWV.759」(G.A.ホミリウス作)、「天にましますわれらの父よ BWV.760/761」(G.ベーム作)、「光にして日なるキリスト BWV.1096」(J.パッヘルベル作)。
2). 偽作の疑いがある作品・自由オルガン作品:
「8つの小前奏曲とフーガ BWV.553-560」、「幻想曲とフーガ イ短調 BWV.561」、「幻想曲 ト長調 BWV.571」、「フーガ ト長調 BWV.576」、「フーガ ト長調 BWV.577」、「トリオ ト長調 BWV.586」、「アリア ヘ長調 BWV.587」、「小さな和声の迷路 BWV.591」(J.D.ハイニヘン作?)、「ペダル練習曲 ト短調 BWV.598」。
コラール編曲:
「キリストは死の縄目につながれたり BWV.695a」、「フゲッタ・幼児イエスはわが慰め BWV.702」、「アダムの堕落によりてすべて朽ち果てぬ BWV.705」、「わが身を神に委ねたり BWV.707」、「わが身を神に委ねたり BWV.708/708a」、「いと高きところにいます神にのみ栄光あれ BWV.711」(J.ベルンハルト・バッハ作?)、「イエスよ、わが喜び BWV.713a」、「いと高きところにいます神にのみ栄光あれ BWV.716」、「主なる神よ、われを憐れみたまえ BWV.721」(ブスベツキー作?)、「讃美を受けたまえ、汝イエス・キリストよ BWV.723」、「われらみな一なる神を信ず BWV.740」(J.L.クレープス作?)、「ああ、そもそもわれらの命は BWV.743」、「わがいとしの神に BWV.744」(J.L.クレープス作?)、「深き淵より、主よ、われ汝に呼ばわる BWV.745」(J.C.バッハ作?)、「キリストはわれらに至福を与え BWV.747」、「主イエス・キリストよ、われらを顧みたまえ BWV.749」(G.P.テレマン作?)、「イエスよ、汝わが魂よ BWV.752」、「最愛なるイエスよ、われらここにあり BWV.754」(J.G.ヴァルター作?)、「いざ喜べ、愛するキリストの徒よ BWV.755」、「いまやみな森は眠る BWV.756」、「おお主なる神、汝の神なる御言葉 BWV.757」、「おお父よ、全能なる神よ BWV.758」、「天にましますわれらの父よ BWV.762」(J.T.クレープス作?)、「暁の星の美しさよ BWV.763」、「われら一なる神を信ず BWV.765」、「パルティータ・いと高きところにいます神にのみ栄光あれ BWV.771」。
…「キルンベルガー・コラール」まではともかく、後半の「25のコラール」にいたっては偽作もしくは偽作の疑いのある作品がそれこそぞろぞろ(苦笑)。でもバッハの作ではなくても、ベームとかヴァルターとか名手の作品もあるし、弟子の作でも美しい作品はけっこうあります。ヴァルヒャがどういう基準でこれらのコラール編曲のほとんどを全集盤から除外したのかわかりませんが、確実にバッハの真作のみ取り入れようとしたのでしょう。とはいえBWV.730/1のコラール編曲はせめて弾いてほしかったな。
…余談。今週のBBC Radio3 Choral Evensongはテュークスベリー・アビイから。昨年の水害のことがどうしても思い出されますが…。曲目を見ますとまず導入は、ラフマニノフの有名な「晩祷」から「めでたし、マリア(ローマカトリックで言うところのAve Maria)」。それと、おお、バッハのモテットもある(BWV.230)。カンティクルはギボンズのショート・サーヴィス、最後のヴォランタリーは…バッハの「前奏曲とフーガ ハ長調 BWV.547」! こっちも聴かなくては。
2008年06月02日
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/15632806
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック
http://blog.sakura.ne.jp/tb/15632806
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック
脱帽です!
今後とも参考にさせて頂きます!
BWV771のエピソードは興味深いですね。。。誰がどうやって突き止めたんでしょう?
おもなタネ本はこの前ここで紹介した小林先生の本です。それと『バッハ全集』の解説本とケラー本とかも参照しました。BWV.771はほかの偽作同様、バッハの弟子の筆写譜として紛れこんでいたのかもしれませんね。具体的にはどういう手法で突き止めたのかはわかりませんが、「ノイマイスター・コラール」発見により真の作曲者が判明した事例(BWV.751)もあります。
バッハ オルガン曲全曲演奏目指しています。
コメント返しが遅くなりまして、失礼しました。
上のコメントのやりとりにもあるように、おもに参照したのは小学館から出ている『バッハ全集』、そして小林義武先生の著書になります m(_ _)m
http://curragh.sblo.jp/article/13717613.html
バッハのオルガン作品全曲演奏! はなんとも壮大な挑戦ですね。BWV 順に演奏されるのですか? 進展がありましたらぜひ教えてください。