2016年01月09日

フランス古典期のクリスマス音楽

1). 先週の「古楽の楽しみ」は、「フランス各地のクリスマスとお正月の音楽」と題して、オルガン好きにとってもおなじみ(?)なルイ−クロード・ダカンの「プロヴァンスのノエル」やジャン−フランソワ・ダンドリューの「幼子が生まれた」、クロード・バルバートル( → 以前書いた関連拙記事、ついでにテュイルリー宮殿にもオルガンがあったそうで、バルバートルはそこの楽器も演奏していたそうです )の「偉大な神よ、あなたの慈しみは」などがかかりました! といっても当方にとってこの時代のフランス宮廷の音楽というのはまるで疎いので、カルヴィエールという人の「オルガン小品」とかル・ベーグという人の「オルガン曲集 第3巻から マリアの愛のためのノエル」とかいう作品ははじめて知った。

 今回、気になったのは録音で使用された楽器でして、たとえばカンプラの「クリスマスミサ曲」から「キリエ」、「アニュス・デイ」などで使用されたのはヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂にあるクリコ製作の歴史的名器、かたやカルヴィエール作品は現代フランスの名手、オリヴィエ・ラトリーによるパリ・ノートルダム大聖堂のカヴァイエ−コル製作のいわゆる「ロマンティックオルガン」と呼ばれる大型楽器でした … で、今回はちょっと対比が際立っていたとは思うが、やっぱりこの時代の音楽の演奏には同時代に建造されたオルガンでなくちゃだめだなあ、ということ。これがおなじオルガンという楽器のために書かれた作品かと思うくらい、音響というか、音の鳴り方がまるで別物だったのでした。ラトリーさんがどうしてカルヴィエール作品の演奏に「ロマンティックオルガン」を選んだのか、についてはおそらくそこでかつてこの作品が演奏されたからだろうと思う。案内役の関根先生によると、バルバートルについては笑える逸話も残っていて、なんでもクリスマス時期、ここのオルガンを使ってリサイタルを開いたら大、大、大盛況でして、会堂から聴衆がわんさとあふれてしまって大混乱、ついに教会当局[ つまりはパリ管区を統括するここの司教さんだろう ]から「おまえさんはもうここでオルガン独奏会を開いちゃイカン !! 」とつまみ出されたんだとか。むむむ立ち見も出るくらいのオルガンリサイタルってこれいかに … とつい思うんですけど、譬えはヘンだが彼のオルガン演奏会ってフランス古典期版 X JAPAN みたいなものだったんかな[ ↓ は、ヴェルサイユの王室礼拝堂クリコオルガンによるバルバートルの協奏曲作品から ] ??? 



 話もどりまして … ようするにかつてバルバートルやカルヴィエールがかつて弾いた場所、ということでここの楽器を選んだのかもしれない。でも、直前に聴いたヴェルサイユの歴史的楽器のえも言えぬ精妙なる響き、空間を優しくすっぽり包み込むかのような人間味あふれるあの美しい調べ、とまるで真反対な、ぎすぎすして耳を鋭く突き刺すような 19 世紀フランスオルガン特有のケバケバしさがやたらと目に、いや耳についた。そっちが品のない原色でベタヘダ塗りたくった系なら、ヴェルサイユの楽器の音は繊細な中間色系とでも言おうか。少なくともここにいる門外漢のいいかげんな耳にはそんなふうに聴こえてしまったのでありました。もっともカヴァイエ−コル製作の楽器( フォーレとサン−サーンスゆかりのマドレーヌ寺院や聖トゥスターシュ教会、シャイヨー宮のオルガンなんかもそう )の「音」が悪い、と言ってるんじゃありません。ただこの楽器はたとえばヴィドールの「オルガン交響曲」なら、すばらしい効果を上げたと思う。ちなみに 19 世紀のこれら「ロマンティックオルガン」、あるいは「シンフォニックオルガン」と呼ばれる大型楽器のパイプ列に送られる「風圧」はけっこう高くて、バッハ時代のドイツの楽器からでは想像もつかないほどの高圧だった[ だからわんわんうるさかったりする ]。高圧のため鍵盤も重くなり、重くなった鍵盤を「軽く」するための空気圧(!)レバー[ バーカーレバー ]まで用意された楽器も少なくなかった。もっともそんな楽器では伝統的な「てこ」の原理で動作する「トラッカーアクション」のような機敏な反応は期待できず、当時のオルガニストは目先の利便さと引き換えにこんどは楽器の反応の鈍感さに耐えるはめになった。

 もうひとつ個人的にうれしい発見だったのは、カトリック系ではいまなお教会オルガニストの重要な役目である「即興演奏」が聴けたこと。それがさっき書いたカンプラの「クリスマスミサ曲」からの抜粋なんですが、当時の即興演奏のようすがありありと目に浮かぶようで、ほんとにすばらしかった。声楽で歌われるパートの合間に、ああいうふうに合いの手ならぬ即興演奏が入ってたんですな[ いまでもたとえば聖イグナチオ教会とかで、ミサにおける「聖体拝領」のときにオルガニストは信徒の背後で即興演奏をしているはず ]。「チャルメラ」にも似たどこか懐かしいような独特な響きのリード管が朗々と歌ってました。イタリアバロックの巨匠フレスコバルディのいくつかの「トッカータ」も、自身の華麗なる即興演奏の記録みたいな感じで後世に残された作品群だと思う。

 この番組は磯山先生のドイツもの、今谷先生のイタリアもの、大塚先生の混在もの( 失礼 )、そして関根先生のフランス古典期ものとわりとカラーがはっきりしてますが、ワタシはどうもバッハびいきのためなのか、この時期のフランスバロック音楽にはたいして興味が湧かなかった。いちばんの理由は、「貴族趣味」な点、ということになるだろうが … いずれパンも食えない庶民の怒りが爆発してあのような革命とその後動乱の時代がつづくことを考えると( その動乱期をバルバートルはなんとか生き延びた )あのキラキラしたクラヴサンのこの世離れした響きとか、外の人間にはまるで解せないバレ・ド・クールの華麗な世界とか … それでもだいぶ前にルイ 14 世時代の音楽とかオルレアン公フィリップ[ フィリップ・ドルレアン ]とかの話を聞くと、「朕は国家なり」も朝から夜寝るまでやれ起床ラッパだやれ着替えだ狩りだ食事だ執務だバレエだダンスだ晩餐だ、と年がら年中ほぼ「衆人環視」状態でフランス国王やってたんだからこれはこれでタイヘンだなあ、とかため息ついてたり。「絶対王政」って言うけれど、王侯貴族もいざその当人になったらこりゃタイヘンですよ、もう。一日のスケジュールを耳にしただけで、カンベンしてくれって感じでしたから。結婚たって愛もなにもない政略結婚がフツーの時代でしたしね。そういう時代背景をすこしでも知ることができたのは、この番組のお陰でございます。そうそう「サックバット」というのも、ちょうどこの時代の金管楽器でしたね。

2). それはそうと … フランスつながりでは悲しい知らせも入ってきました … 現代音楽の巨匠、ピエール・ブーレーズ氏逝去、享年 90 歳。作曲家としてももちろん高名でしたが、近年は指揮者としてその名を知る人も多かったと思う。合掌。

 そして … あの古楽の巨匠、ニコラウス・アーノンクール氏が昨年暮れになっていきなり現役引退を発表したこともちょっと衝撃的だった。まだまだお元気そうに見えたが … やはりそうとうこたえていたのかもしれません。盟友レオンハルトとともに取り組んだ「教会カンタータ全集」録音の偉業、忘れません。

posted by Curragh at 22:37| Comment(0) | TrackBack(0) | NHK-FM
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