2006年11月20日

北村くんがんばれ!

1). 浜松で開催中の国際ピアノコンクール。せんだって地元紙コラムにも、「たとえば東×芸術劇場のようなコンサートホールを、経費300億円をかけて建設するか。それとも、300億円を分割し、一回の経費3億円のコンクール100回を重ねるか。音楽の街づくりにはどちらが効果的か」と書き、あらためてこのような一般市民にひろく開かれた、時間はかかるが着実に根付く文化事業にこそ投資すべきと主張していましたけれども、まったくそのとおり。浜松の国際ピアノコンクールにかぎって言えば、前回最高位を獲得したポーランドのラファウ・ブレハッチさんのように、ここから巣立って世界的な若手演奏家の仲間入りした、という人もすでに何名か輩出していますし、3年に一度の開催とはいえ応募者も増え知名度も高まり、名実ともに日本発の国際コンクールに発展してきた感ありです。

 この国の文化行政、とくに地方ではなぜか器ばっかり作ることのみ最優先され、そのあとどう活用するかという議論がまるでされないなか見切り発車してしまう事例が昔もいまもひじょうに多い。結果、こちらの事例のようにまことに本末転倒な事態があっちこっちで発生しています。このような時間はかかるけれども一度根付いてしまえばほんとうの意味での街の活性化に役立つお金の使い方としていまひとつすばらしいと思うのは、静岡市の大道芸ワールドカップ。こちらはついこの前、大盛況のうちに終わったばかりなんですが、回を重ねること今年で15回目、おまけに今年の優勝者はなんと大会とおない歳のチェコの天才少年ジャグラー。

 先の地元紙コラムにも引用されてましたが、かのショパンコンクールでもほんとうにコンクールを支えているのは400円ほどの立見席を埋める熱心なワルシャワ市民らしい…大道芸ワールドカップも浜松国際ピアノコンクールもこの点ではおんなじで、ほんとうに街を活性化させたいのならこういうソフト面にこそ投資して充実させなくてはいけない。この国では為政者が自分の任期中に手っ取り早く「業績」を作りたいがためなのか、それとも特定業者と癒着しているのか、いずれにせよみんなの血税をドンブリ勘定で注ぎこんでは見栄えばかり立派な「器」だけ作ってあとは知らない、良きにはからえ、なんてことが多すぎます。ハコだけ作っても、その後どう利用するかという議論がないからです。そうではなくて、時間はかかるしすぐにはモトの取れない、このような文化事業こそ目を向けるべきでしょう。税金を払う市民からしてもおなじ税金を使うんなら、維持費ばかりかさんでけっきょく放置されるハコモノより、自分たちも参加できるこのような文化事業に使われるほうがよっぽどいいに決まってます。おんなじことが、かつてリゾート開発ブームで乱開発されかけた西伊豆地区にもあてはまる。貴重な生態系を破壊してまで客の来ないゴルフ場ばっか作ってどうするの? と当時、まだ若造ながらほんとうに心配していた。結果、バブル崩壊後、第3セクター方式の現地会社は解散、けっきょく山の自然環境は守られたわけですが、知恵を出し合えば浜松や静岡のようなことはできるはず。それでもいまでは地の利を生かした観光、たとえばダイビングとか、体験型観光関連の事業とかがいろいろと出てきているので、バブル当時にくらべればよい傾向かなと…。過疎化の深刻化で財政負担がますます大きくなっているとはいえ、もうリゾート開発して活性化、なんてことやっている時代ではない。その点、黄金崎クリスタルパークはまだましで、これはすばらしいと思う。世界のガラス工芸作家の作品展とか定期的にやっているし、着実に地元に根付いていると思う。経営状況はそうとうきついみたいですが、ぜひがんばってつづけていただきたい。それと伊豆がらみではもうひとつフィルムコミッション活動があります。こういう方面にお金と人を使えばいい。とにかく長くつづけられる事業で、おおぜいの人が参加できるようなものにしないとけっして成功しないでしょう。

 今回の浜松のコンクールでも多くのボランティアが裏方として汗を流していますが、とくにすばらしいと思ったのは各出場者ごとのストリーミング配信。先日地元紙記事にてはじめて知ったのですが、地元大学の学生とも連携して今回はじめて実用化させたとのこと。おかげで家にいながらにして出場者の演奏が聴ける、というか、世界中で聴ける。

2). その浜松の国際ピアノコンクール。明日からいよいよ最終予選に入るのですが、日本からはなんと全出場者中最年少(まだ15歳)、あの北村朋幹くんがたったひとり、残ったとのこと。もっともご本人は、「一次と二次の切り替えがうまくいかず、納得いっていない。自分の思うようなステージを作りたい」と答えたそうですが、ぜひベストを尽くしてほしいと願っています。

3). それにしてもクラシック音楽のコンクールほど非情で厳しい競争社会もないのでは、といつも思う。もともと音楽というのは理解に時間のかかるものというか、ありとあらゆる芸術分野のなかで習得するのがもっとも難しいもののような気がする。西洋音楽の歴史を見ても、絵画・建築でバロックと呼んでいる時代区分のおおよそ1世紀あとになってようやくイタリアでバロック音楽が花開いていますし。オルガン音楽で言えば、ノートルダム楽派以降、バッハをへて800年近い歴史があり、両手両脚を使わなければならない高度な演奏技法、そして楽器そのものの理解もふくめてプロのオルガニストになるにはたいへんな時間がかかる(楽器製作職人になるにもたいへんな年月がかかる)。このような西洋音楽演奏家の登竜門としてのコンクールには努力したからどうのというなまやさしい世界ではとうていない。まさしく天から授けられた才能に恵まれたほんのごく一握りの若者のみが選ばれる。はじめから図抜けた人というのはいるもので、たとえば巨匠ミケランジェリなんかもすごい逸話が残っています…コンクール主催者が、出演時刻を過ぎても現れないミケランジェリを探し回っていたら、なんと近くの公園のベンチで昼寝していた! あわててたたき起こすと、むっくり起き上がってステージ衣装に着替え、そのままコンクールに臨んだんだそうです…そうしたらそのすばらしい演奏に審査員一同、度肝を抜かれ、文句なく優勝! したという…ようするにはじめから勝負がついている場合もあるということです。こうなると競争以前の問題ですね(リンク先、聖フランチェスコの末裔とは初耳!)。

 クラシック音楽のコンクールはもっともデジタルとはほど遠い分野でもあります…客観的な数値基準なんて決めようがないですし。当然のことながら技術的には全員が一定レヴェル以上なので、あとはいわゆる芸術点。判断基準はひとえに審査員の耳にかかっている。音楽批評家でさえおんなじ指揮者によるオケの演奏を聴いてもひどい場合、「金字塔!」と書く人がいるかと思えば「疑問だ!」とけなす人がいたりと評価がまるで正反対になったりする世界なので、このへんの功罪はなんとも言えません。審査員の先生には世界的巨匠クラスもおいでですが、人の子ですので多数の出場者の演奏を連続して聴いていれば判断にフラつきがでてもしかたない。じっさい掲示板をのぞいてみたら、「○○が最終予選に残ってないのはおかしい!」みたいな投稿が何件かありましたし。審査があるていど恣意的になるのはどんなコンクールでも避けられないことですね…。写真コンテストなんかもそうか。ときどき、「え? これが…」みたいなことがありますし。そういえばこの前のBBC主催のYoung Choristers of the Year もそんなだったが…。

 …とちょうどそんな折、きのうの地元紙日曜版にもそんな話が。二期会会員のオペラ歌手、林正子さんのインタヴューで、こんなことが書いてありました。

 「…学内(東京芸大)の演奏会でも、コンクールでも、選ばれるのはいつも一握り。『上手な子がごろごろ。私は学年で何番なんだろう』。学生たちは、楽器や譜面を抱えて速足で歩く。毎日が厳しい競争だ。『その中で生き残る。皆同じ思いを背負って毎日通ってくるんです』…」

 『のだめ〜』は漫画とはいえ、現実の音大生はたいへんですねぇ…。

 静岡県内でもこれから大化けしそうな才能ある若手ピアニストは何人かいまして、田辺晃一くんや佐藤元洋くんのお名前はときおり見たりします…田辺くんは、12歳だった3年前に浜松ピアノアカデミーでの公開レッスンの模様をTVニュースで見たので(そのとき弾いていたのはスカルラッティのソナタ)、今年、地元紙記事でふたたびアカデミー受講生としてひさしぶりに見たときには正直うれしかったり。佐藤くんのほうは今年、「第7回ショパン国際ピアノコンクール in Asia」小学5-6年生部門で最高位の金賞を受賞した逸材。今後がとても楽しみなおふたりです。

posted by Curragh at 21:37| Comment(3) | TrackBack(0) | 音楽関連
この記事へのコメント
きたむうがんばれ!!
同じ学校のHでしたあ
Posted by きたむうがんばれ at 2006年11月22日 19:29
おなじ中学校の生徒さん(同級生かな?)なんですね。北村くんの本選出場が決まりましたね。日曜のオケとの共演が楽しみです。
Posted by Curragh at 2006年11月24日 02:32
はあ・・
計画された結果だったから、北村さんが早くから独走態勢になり。ファイナル3位になったと思いますが・・・。実際を会場で聴かれましたか?配信だけではまったくわかりません。ヤマハに関係している、していた人が通過するコンクールです。
Posted by あきら at 2007年01月14日 22:08
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