2017年06月11日

アルバレス・ブラボ写真展

 静岡市美術館にて先月までやっていたこちらの写真展に最終日に見に行ってきました。

 写真は好きなくせして、寡聞にしてこのマヌエル・アルバレス・ブラボなるラテンアメリカを代表する写真の大家のお名前はまったく知らなかったので、せっかく静岡市で回顧展みたいのが開かれているのだからとのこのこ出かけたわけ( ついでに駿府城天守台跡の発掘調査現場にも行ってみた )。薄暗い会場に一歩入るとそこはゼラチンシルバープリントやプラチナパラジウムプリントの数々、モノクローム特有の豊かな階調の支配する世界。ふだん PC やスマホの画面でデジタル画像のあのギザギザを見慣れている目には懐かしさよりもむしろ新鮮さのほうがつよく感じられた。それにしても人物を撮っても風景を撮ってもどれもみんなサマになっていて、おなじ写真好きとしてはなかなかこういうふうには撮れんよなーとかって思いつつ眺めてたんですが、サボテンとか山並み、街角のショーウィンドウとかの風景はジナー(!)の 4 x 5 判ヴューカメラを使っていたようです( 撮影風景の写真を見るかぎり )。どうりで構図の切り取り方の斬新さもさることながら、美術で言うマチエールというのか、とにかく細かい部分がシャープに像を結んでいて、初期の代表作「ラ・トルテカ[ 1931 ]」なんかは 90 年近くも前に撮影されたとは思えない臨場感にいまさらながら驚かされる( ロラン・バルトふうに言えば「たしかにかつてこの世に存在していた」という紛れもない事実が立ち現れる )。これはひとつにはオリジナルプリントの保存管理が適切だった、ということなのかもしれない。ブラボ氏は 2002 年に満 100 歳( !! )の天寿を全うしたからその後の膨大な原版の管理は娘さんをはじめ遺族の方々を中心にされているようなので、これはけっこう骨が折れる作業だろうと思う( 最晩年のブラボ自身がプラチナパラジウムプリントを仕上げるようすを記録した動画クリップも上映されていた )。

 ブラボ初期の 1930 年代から晩年の 1990 年代まで 4部構成で俯瞰する回顧展を見て思ったのは、キャッチコピーにもあるけれども一貫して流れる「静謐さ」。とくに街角の雑踏の只中で撮影したと思われるお店の看板(「眼の寓話[ 1931 ]」)とかショーウィンドウとかは、どことなくウジェーヌ・アッジェを彷彿とさせる雰囲気がある( じっさいにアッジェの薫陶を受けていた )。いっぽうで「身をかがめた男たち[ 1934 ]」なんかはアンリ・カルティエ−ブレッソンの言う「決定的瞬間」、あるいは「絶対非演出 / 絶対スナップ」のお手本のような作品。トロツキー、ディエゴ・リベラフリーダ・カーロ、『シュルレアリスム宣言』のアンドレ・ブルトン、ノーベル文学賞作家オクタビオ・パスなどの錚々たる著名人のポートレイトもいくつか展示されてまして、一見すると間口の広い器用な写真家のようにも見えて、そのじつ「写風」はブレてない印象がある。展示会場にはブラボ本人の「名言」みたいなのも掲げられてまして、そのなかのひとつがこの大写真家の写真という芸術に対するスタンスというか考え方というかそれをみごとに集約していることばだった ―― 「わたしにとって、写真とは見る技法です。ほぼそれに尽きると思います」。「見る技法」、至言だ !! また「光と影には生と死とおなじ二元性がある」などの引用もありました。もっともオルガン好きなワタシがいちばん気に入った 1 枚は、「大聖堂のオルガン[ c. 1931 ]」ですかねぇ。ブラボ氏だけに、BRAVO !! でした。

 同時代の貴重な関連資料も展示されてまして、ブラボ作品の初出雑誌( Aperture とか )や展覧会図録なんかがあったけれども、1933 年に出会った米国の写真家エドワード・ウェストン( 8 x 10 インチ、エイトバイテンと呼ばれる巨大な組立暗箱カメラで風景や人物や静物を撮りまくった人。8 x 10 インチのシートフィルムは「六切」とおなじサイズ )がブラボ宛てにしたためた賛辞の手紙( 出だしに '... I am wondering if I'm not sure why I have been the recipient of a very fine photograph series from you.' とかって達筆な筆記体[ !! ]で書いてあった )まで展示されてまして、興味津々で見入ってました。

 美術館の外に出ると、その日は地元商店街近くの神社祭典があったらしくて、とてもにぎやか。呉服町商店街ではストリートオルガン弾き( 日曜日午後に見られるらしい )もぐるぐるぐるぐる、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」などを演奏してまして、否が応でも写真撮影熱が高まるわけなんですが、そこはヘタの横好きの悲しさ、「会心の作」みたいにはいきませんねー( 嘆息 )。

posted by Curragh at 17:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 美術・写真関連
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