2019年12月04日

南アルプスの恩人、逝く

 日本の山岳写真の第一人者が亡くなった。白籏史朗氏です。

 静岡県民としては、南アルプスの自然を美しいラージフォーマット(大判写真)やハッセルブラッドなどの中判カメラで捉えた写真作品として世界に発信した功績がまずまっさきに思いつくんじゃないかって感じるんですけれども … それと静岡県主催の「秀景ふるさと富士写真コンテスト」の審査委員長を 2010 年度から 10 年間務め、また NHK 静岡主催の「富士山とわたし」写真コンテストの審査委員長も務めていたこともありました。床一面に並べられたプリント写真を長い指揮棒みたいなスティックで仕分けしていく場面も TV で拝見したことがあります。

 白籏氏は師匠にあたる富士山写真の先駆者、岡田紅陽の強力(ごうりき)みたいなことをしていたそうですが、偉大な写真家ながらたいへん気さくな方でして、ここにいる門外漢も一度だけだが、アットホームな講演会を聴きに行って、質疑応答のときに「寒さでシノゴ(4 x 5 インチの大型カメラ)のレンズシャッターのオイルが効かなくなってシャッターが壊れたことがあるのですが、先生はどんなオイルを使っているのですか?」とおよそ一般人が訊くような質問ではない質問をしたことがあります。そのときの白籏氏のお答えは「ぼくは鯨油を使っています」だったが、その後、自身の写真や主宰する写真愛好会「白い峰」の作品を前にだれとでも気さくに歓談しておられたその姿は、まだ 20 代だった自分にもとてもまぶしく、ああ、こんなふうに歳を重ねていったらすばらしいものだと思ったものでした。とにかく人徳と言うのか、まわりにすぐ人が集まる感じのやさしい人柄の方でした。

 ザイルごと転落して九死に一生を得た話とか、活動拠点が高山なので、常人にはおよびもつかないとてつもない「体験」もふつうの人の何倍もされているから、きっとそういう体験の幅の厚みがすなわち人間力だったのかとも思う … とにかく訃報に接したとき、まず思ったのはああ、先生が愛してやまなかった南アルプスをめぐって大問題が持ち上がっているさなかに逝かれてしまった、という悲嘆だった(ご自宅がなんと三島市だったのにはびっくりした。あのへんはよく通りがかっているんですけども … )。生前、「リニア中央新幹線計画はほんとうに必要なのか」という地元紙のインタビューにも応じていたそうで … 「日本の国土を蜂の巣のようにしてなんのプラスがあるのか」。利潤追求の究極のエゴとマイホーム主義で取り返しのつかない結果を招く愚だけは、なんとしても避けなければならない、と静岡県民のひとりとしてつよく思う。合掌。

 もし白籏氏の意を汲んで南アルプス保全のための署名活動とかが始まることがあれば、まっさきに署名したいと考えている。先日も地元のラジオ番組でパーソナリティーの方が、「(リニア新幹線トンネル工事予定地の)南アルプス直下の破砕帯は巨大な地下ダム。ここにトンネルを通すということは、この地下ダムをいっきに破壊する、ということだ」と卓抜な比喩で危機感をあらわにしていたのが印象的だった。

付記:「署名」、ということに関してすこしだけ補足。インターネットの普及とインフラ化にともない、いろいろなサービスがネット経由で行われるのがごく当たり前な 21 世紀前半のいまなんですが、いまひとつフに落ちないのが、いわゆる「ネットで署名運動ができちゃう」プラットフォーム。以前、高尾山古墳の保存を求める署名活動を進めていた市民団体がそこを利用していて、自分もそこを経由して署名したんですけど、他のネットサービス同様、そもそも「署名を集める」ということをまるで理解していないか、悪ノリ、ないし悪用さえしている例が目立つ気がする(いや、気がするんじゃなくて、じっさいにそう)。たとえば昨年のいまごろ、自分の住む街を舞台にしたアニメ作品『ラブライブ! サンシャイン!!』の主人公のスクールアイドル Aqours を演じる声優さんたちが晴れて紅白に出る、ということになったらなったでさっそく(?)、「彼女たちを出演させるな!」みたいなネガティヴキャンペーンもどきな「署名集め」がそのプラットフォーム上で展開されたことがある。

 ワタシ自身、かつて西伊豆町宇久須[うぐす]の旧珪石鉱山だった山のてっぺんにアスベスト処分施設を造る話が持ち上がったとき、ほんとガラにもなく署名用紙握りしめて親戚や知り合い、馴染みの床屋や写真材料店なんかに飛びこんでは、建設計画の白紙撤回を求める署名をお願いしますと頭下げて廻ったもんだ。もちろん、人によっては断られたりもした。ひとさまの署名を集めるって、よほどの cause がなければとてもできませんよ、ふつうは。紅白出場無効を求めた話については署名を集める正当性もないし、だいいちそんなことよけいなお世話もいいところで時間のムダ、ですわぁ〜、とおおいに呆れたことがあります。そして自分がそこで「署名」して以来、迷惑メールよろしく、そのプラットフォームから「署名のお誘い」メールが頻繁に来るようになった。ほんとよけいなお世話。署名すべきかどうかその当人が判断すればいいだけのこと。Amazon のような商売するためのプラットフォーマーとは根本がちがう。

 いずれにせよ署名活動のキホンはしっかり「顔出し」して、なんでそうする必要があるのか、ほんとうに署名を集めなければならないのか、を第三者にわかるように主義主張を訴えたうえで、「よろしくお願いします」と頭を下げるのが常識ではないですか。だれもかれも「署名集め」にかこつけて揚げ足を取ったり誹謗中傷まがいのことをするのはどこの世界に行ったって許されるもんじゃないって思うんですけどどうですかね。ネットが普及していちばん目につくようになったのは、この手のあと先考えない「安直人間」が爆発的に増えたこと。これには疑いの余地がない。

タグ:白籏史朗
posted by Curragh at 15:12| Comment(0) | TrackBack(0) | おくやみ
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