2020年12月30日

「絶対悪」が支配する世界にしてはならぬ

 ようやく仕事にひと区切りつきそうになって、ヤレヤレというか、とにかく肩が痛いです(以前はこんなことなかったのに、トシですかね……)。

 翻訳専業になって、というか、実績的にはまだまだ駆け出しで収入的にもちっともペイしていないとはいえ、自分はまだ恵まれているほうなのだろうと感じています。ヘタの横好きだろうとなんのと言われようが、好きなことを仕事にできているのだから …… たとえ修正を求める校正や編集者からシツコク拙訳原稿が突っ返されても、そのために食うための仕事の予定が狂わされても(書籍翻訳の場合、印税制だろうと買い切り制だろうと、当たり前だが本が出ないことには当方には一円もカネは落ちない)、あまり文句は言えまい。

 そんなこんなで半年ほど過ごしてきたら、あっという間にもう年末。しかも今年は文字どおりの annus horribilis で、ここまで COVID-19 が全世界を席巻し、目には見えない暗闇で覆い尽くすとは思わなかった。

 それでもなんとかかんとか、大きな天災もなく、もちろんコロ助に感染もせずになんとか仕事を続けてこられただけでも、ご先祖さまをはじめとして、感謝しなくてはならない。とはいえ、コロ助のせいで墓参にも行けてない …… これはさすがに申し訳なく、悲しく思っている(ちなみにワタシのご先祖さまには、米国ポートランドへ「密航」して一旗揚げようとしたスゴイ方がおります。当時の西伊豆はいまの沼津市井田地区のような「アメリカ村」があって、「あめりか屋」という屋号の家は例外なく、明治から大正時代にかけてかの地へ聖ブレンダンのごとく船出していった冒険者を出している)。

 新型コロナ関連ではこの前、ここで橋幸夫さんのコラムについて取り上げたりしましたが、いちばん心に刺さったというか印象深かったのは、英女王陛下のクリスマスメッセージでしたね。もっとも印象的なフレーズはすでに既訳がいくつもあるので、たまには女王陛下のオリジナルのメッセージをじっくり味わうのも一興でしょう(ン? だれです、訳すのがメンドくさかっただけだろなんて心ないこと言うのは。ええ、たしかにそれはある。来る日も来る日も〆切を意識しつつノート PC のキーボードを叩き、細かい活字や辞書類を見ながら翻訳作業に追われれば、いくら好きでもさすがに精神的にボロボロにもなりますわ。出典元はここ、太字強調は引用者)。
Of course, for many, this time of year will be tinged with sadness: some mourning the loss of those dear to them, and others missing friends and family members distanced for safety, when all they'd really want for Christmas is a simple hug or a squeeze of the hand, If you are among them, you are not alone, and let me assure you of my thoughts and prayers.

..... “Let the light of Christmas, the spirit of selflessness, love and above all hope, guide us in the times ahead...... We continue to be inspired by the kindness of strangers and draw comfort that − even on the darkest nights − there is hope in the new dawn,
すべての人がクリスマスに心から願うのは、ただハグしたり、手を握り締めてくれることなのに」…… 新型コロナウイルス感染症をもっとも警戒しなくてはならないご高齢( 94 歳ですぞ!)の方から、こんな忝ないおことばをいただいたら、だれだってハッとして胸に手を当てるはずですよ。この期におよんでま〜〜だマスクなんてヤダとかダダこねてる欧米人に日本人よ、「目を覚ませ!」と、呼ぶ声が聞こえる(もちろんバッハの有名なオルガンコラールを思い浮かべながら)。

 ……というわけで、ほんとならば東京五輪の興奮冷めやらぬはずだったのに、激しい憤りと悲しみにまみれた 2020 年もおしまいです(なにに怒ったかって? いろいろあるけど、最近、とくにハラが立ったのは、「選挙はトランプが勝つ。米メディアの予想なんてアテになるもんか」と公共の電波でタンカを切ってその後、いっさいの釈明もせずケロっと忘れていらっしゃるらしい元 NHK キャスターの方。そろそろ引き際じゃないですかね? ほら「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」って言うじゃない?)。

 この仕事するようになってすっかり生活が夜型になってしまい(その前は朝2時半起きの超朝型で、出勤途中で朝陽に染まる富士山とか見ていたのに)、新聞配達の方が朝刊を新聞受けにいれるとほぼ同時に速攻でそれを取り出すんですが、こっちも重くなってきたまぶたをこじ開けて、「はへ? ラテ欄、いつ最終面に変わったんだ?」なんてぴろっと一面見たらなんとなんと○日新聞じゃないですかぁ ?! ウチは静岡のローカル紙だっちゅうの。すぐ新聞屋さんに電話して、駆けつけてくれたおじさんに誤配された朝刊を返そうとしたら、「差し上げますから、ぜひお読みになって……」と。かくして、誤配された朝刊とこっちが読みたかったほうの朝刊とふたつもらってしまった。できれば「東京新聞」を入れてくれればよかったかなん、とかバカなこと考えつつ、さっそく誤配朝刊にも目を通した。

 すると、元外交官で評論家の佐藤優氏の「核といのちを考える:核禁条約発効へ」というインタビュー記事に目が吸い寄せられた。佐藤氏は数か月前、「ラジオ深夜便」にてたいへん興味深く、示唆に富むお話をされていたし、かつての『ユダの福音書』騒動のときも初期キリスト教とグノーシスについて的確に指摘されていたのが印象に残っていた(というか、「深夜便」でも話されていたように、大学は神学部のご出身なんですよね。どうりでお詳しいわけです。こういう人が日本には少なすぎる。だからとくにキリスト教など宗教がらみの話になると、とたんに頓狂なこと言い出す人が出てくる)。

 日本は被爆国でありながら、核兵器禁止条約にはなぜか参加しなかった。物理的に核兵器をなくしていこうという動きはきわめて重要な一歩であり、日本はオブザーバー的立ち位置でもよいから、とにかく行動を、という佐藤氏の主張は説得力があります。なかでも開口一番、「核兵器は絶対悪と言っていい」という一文。Couldn't agree more! でしたね。ワタシはそもそも相対主義者で、たとえばスウェーデンの例の少女の言動とか見てるとなんかお尻のあたりがモゾモゾしたりするんですが、核兵器に関しては「絶対悪」でぜったいまちがいない。新型コロナ対策にしてもそうだが、ほんとうに医療従事者に拍手を贈りたいのなら、まずもってあなたが生活を見直すしかない。マスクもしないで忘年会? それせいでだれかが死んだら? 世の中にはぜったい守るべき最低限のことが突如として現れる場合がある。いまがそう。できることをしっかり実行したうえで罹患するのはしかたないことで、だれも責めたりはしない。しかしそうでない場合は …… その限りではないでしょう。日本だけでなく、どこだってそうずら。ってオラは思う。来年、五輪大会ができるかどうか、まったく未知数ではあるが …… それでも、ワクチンは年内に開発できた。希望はまだあると思いたい。以下、佐藤氏の発言を引用しておきます。
「シニシズムに陥ってはいけない。……あるタイミングで、すっとできる時がある。歴史の一種のめぐり合わせがあるんです。時の印を絶対に捉え損ねてはいけないと思うんですよ。あきらめてはいけないんですね、絶対に」
…… 来年こそ、"annus mirabilis" となりますよう祈りつつ。

タグ:佐藤優
posted by Curragh at 23:48| Comment(1) | TrackBack(0) | 最近のニュースから
この記事へのコメント
コロナ禍の今年もあと2時間ほど。
来年は多少とも明るい兆しが見えるとよいのですが。

寒くなってまいりました。
ご自愛されて、よいお年をお迎えください。
Posted by aeternitas at 2020年12月31日 22:12
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