インタビュアーはアシモフに、「予言者たちは、世界の終わりが来るともう何世紀も言い続けてきました。この地球に終わりが来るとして、それはどんな形でやってくると思いますか」という、あの当時の空気感を知るひとりとしては、ぶっちゃけアリガチな紋切り型っぽい質問から始めている(『ノストラダムスの大予言』シリーズ本なんかが売れまくってた時代。ちなみにスウェーデンの例の方はご存知ないだろうが、あの当時はいまとは逆に、「氷河期が来る !!」っていう予測本が売れていた時代でもある)。
21 世紀に入ってもう 20 年代に突入してしまっているいまに生きている人間の眼であらためて読むと、さすがのアシモフもやや naïve だったかも、という箇所も散見されるけれども、そこは SF の重鎮だけあって炯眼ぶりはさすが、と思うことしきり。
たとえば民間宇宙航空開発会社や EV 製造会社をいち早く立ち上げて期道に乗せているイーロン・マスク氏は、並行して「火星移住計画」みたいなことに大マジメに取り組んでいる。取り組んでいるのはけっこうなことながら、あいにくそれは解決策にはならんと一蹴する。
この太陽系内のほかの惑星を、人類の植民地にすることはできるでしょうか
技術を使って大々的に改造しないかぎり、住めるようになる星は太陽系にはありません。改造の可能性があるのは、月はたしかにそうですが、あとは火星ぐらいでしょう。しかし、太陽が死ぬときにはみんな地球と同じ運命をたどるわけで、長期的にみた場合の解決にはならないわけです。
と答えて、「太陽が死ぬときまでに、われわれ人類がこの銀河系はもちろん、他の宇宙にも散らばって生きていくようになっていることは、ほぼたしかだと思います」と続けてます。
そして話は「光速での宇宙旅行」や「地球がほかの惑星や流れ星と衝突する可能性」、「地球がほかの星から攻撃されたり滅ぼされたりする可能性」と、新型コロナのパンデミックにすっぽり覆われている 2021 年時点で見ちゃうとやっぱり naïve だなぁ、とひとりごちてしまうわけなんですが、そんなインタビュアーの軽薄さを見透かしてか、アシモフは「[その手の危機は]SF ではよく出てきますが、じっさいにはまず起こらないだろう」と述べて、「いますぐ手を打たなければ、この 30 年か 50 年以内に、人類は現在の文明を滅ぼしてしまう危険性がたぶんにあります。そういう方向に人類は突っ走っています」と警告する。こう切り返されてインタビュアーはなんと言ったか。「それはまたぶっそうな話ですね。しかもそんなに早い時期にですか」(!)
西暦 2009 年までには、地球の人口は 70 億から 80 億という数になりますが、食糧を現在の 2 倍も供給することなどできません。30 年か 50 年のうちには、地球の全人類が飢えることになるでしょう。
しかも食べる物がじゅうぶんにないために、病気が増えます。世界的に不穏な状態に包まれるでしょう。……
人類の歴史は、技術の進歩の歴史だったわけです。一時的に技術がおとろえた時代としては、いわゆる暗黒時代があります。人類は過去に何度も、そうした暗黒時代を経験していますが、いずれも特定の地域がそうなったわけで、人類全体の危機ではなかった。……
しかしわれわれはやがては石油を使いつくしてしまい、石炭も採れるだけ採りつくしてしまい、地球の貴重な鉱物を掘りつくして世界じゅうにばらまいてしまい、環境が放射能をおびるようになるところも出てくるでしょう。しかも増え続ける人口をまかなうべく絶望的な努力をして食糧生産にはげみ、そのために地球の土壌を破壊してしまいます。……
もちろん、人類は海洋から現在以上に、食糧を大量に取ることができるようになるでしょう。植物をタンパク源として、利用することもできるようになるでしょう。……
またエネルギーについても、太陽エネルギーが人類の主要なエネルギー源になっていくでしょう。しかし、さきほどから言っているような最終的な危機をさけるためには、いますぐにでも画期的な進歩がなければ手おくれになってしまいます。
そして、アシモフは最後にこう結んでます。
わたしたちが直面しているのは、全地球的な問題です。資源が減り続け、人口が増え続けていること、環境の汚染、そのほかみんなそうです。……
過去にも、人類は何度も危機を乗り越えてきました。たとえば 14 世紀に黒死病が大流行したとき、人類のおそらく 3分の1 が死にました。しかし 3分の2 は生き延びたのです。衛生学の知識もなかった当時の人が、あのもうれつな伝染力を持った致命的な病気にも打ち勝って生き延びたのです。……
人口問題を解決することができたら、21 世紀はすばらしい時代になるでしょう。それは量よりも質の時代であり、知識よりも知恵と洗練さが支配する時代であり、新しい技術と文明が打ち立てられることでしょう。そして人類の未来は輝かしいものになると思います。
最後はなんだか一縷の望みが持てそうなことをおっしゃっていて、40 年以上も前にここまで言えた人って向こうのインテリでもそうはいなかったんじゃないかな。その数少ない例外のひとりは、やはりジョーゼフ・キャンベルだろうと思う。
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