先週の「ベスト・オヴ・クラシック」は「ヨーロッパの古楽」と題しておもに今夏に録音された音源をかけてくれました。月曜は名門ヒリヤード・アンサンブルによる中世ルネッサンスの宗教声楽曲。パレストリーナはまだしも、アレティーノという人はあんまり聴いたことないから、興味深かった。また「レスポンソリウム『罪をあがなうあなたは進みゆかれます』」は東方教会から伝播したらしい11-2世紀のノナントラ写本と呼ばれる手稿譜にもとづく演奏でして、グレゴリオ聖歌の成立を知る上でもひじょうに貴重な作品らしい。もっともグレゴリオ聖歌はアルプス北方、「カロリング・ルネッサンス」、つまりカール大帝時代のフランク王国内のベネディクト会系修道院で歌われていた旋律が採譜されているものが大半だと言われています。個人的には、当時のアイルランド・ケルト教会やイングランド教会で歌われていた聖歌の影響ははたしてあるのだろうか…という点にも関心がありますが。とにかくこのとき歌われたのは、アルバニアあたりから直接ローマ教会に入ってきたもののようです。たしかに東方的な節回しというか、響きを感じました。北方系の聖歌とは異質です。ヒリヤード・アンサンブルは男声のみの声楽アンサンブルとしてつとに有名ですが、それにしても高音部の歌い方もみごとと言うほかない。すばらしいハーモニーを聴かせてくれました。心洗われます。ちなみに先週末のBBC Radio3のChoral Evensongはジョン・ブロウ没後300年記念、ということでブロウ尽くし(ついでにその約百年前にはジョン・ブルというオルガニストも活躍していた。ブルは「マッパ・ムンディ」で有名なヘレフォード大聖堂の少年聖歌隊員だった人。晩年は大陸のアントウェルペン[『フランダースの犬』のネロが死んだ大聖堂のあるところ]にとどまり、北ドイツオルガン楽派の祖スヴェーリンクにも会っている)。弟子のパーセルのほうはわりとよく聴かれますが、師匠のほうはあんまり(苦笑)。なのでとても貴重な機会だったと思う。ついでにChoral Evensongは日本の聖公会用語では「唱詠晩祷」と表記するらしいけれども、これだといまいちわかりにくいから自分はいつも「夕べの祈り」としています。モンテヴェルディに「聖母マリアの夕べの祈り」がありますが、こっちだって本来は8つある聖務日課のひとつ「晩課 Ad Vesperas」です。ついでながらレスポンソリウム responsoriumというのは聖書朗読箇所の応答(response)として歌われる聖歌で、アングリカンの「夕べの祈り」冒頭で歌われる「唱和」とは別物です(両方ともresponsesと表記されることがあるのでややこしいと言えばややこしい)。
火曜のエウローパ・ガランテによるオール・ヴィヴァルディ・プロもよかった。ヴィヴァルディって当時としては珍しいチェロとかファゴットとかマンドリンとかを主役に据えたすばらしい協奏曲を残していますね。有名なハ長調のマンドリン協奏曲とかファゴット協奏曲とかかかってました。木曜のドレスデン・バロック管弦楽団によるバッハやテレマン、ハッセらのコラールカンタータも秀逸です。ライプツィッヒの、バッハゆかりの教会での公演、これだけでもいいなあ!
最後はコンチェルト・コペンハーゲンの演奏会から。指揮者モルテンセンの解釈が前面に押し出された演奏。とくにかの有名なパッヘルベルの「カレンとジーグ ニ長調」は…めちゃ速い! 指揮者みずからチェンバロで通奏低音弾きながらの「弾き振り」で、右手でしっかり即興も弾きながらのひじょうにきびきびとした、一方的感傷に陥らない演奏は、これはこれでたしかに作曲者パッヘルベルの意図した演奏に近いかもしれない。リタルダンドしてカノンが終わるかなーと思いきや、さっさと舞曲ジーグに転ずる変わり身の軽やかさはバロック時代の演奏慣習という点ではかなっているのかもしれない。でもちょっとせかせかと急ぎすぎ? のような気もしました。
今日は祝日。「気まクラ」の再放送聴いていたら、おお、以前、録音しそこなった現代の作曲家ファーイの「古戦場」がかかりました! さっそく録音。そうなんですよね、これ廃盤じゃないんですが、在庫なしで、再発売も未定。録音するほかなし。今回はじめて知ったのですが、ファーイがアイルランド北西部コナハト地方のある古戦場に想を得て作曲したものらしい。アイリッシュ・ホイッスルのなんとも郷愁を誘う響きがとても印象的な作品で、けっこう好きです。で、そのあとは…なぜか「今日は一日鉄道三昧」!! 鉄道唱歌…たしかにこれ一気に流すのもすごいとは思うが、なんか節回しがいつもおんなじで――「桃太郎」に似ている? ――ちょっと飽きますね。東急東横線の各駅名を連呼したヘンテコな歌には笑いましたが。しかしみなさん…ほんとうに鉄道がお好きなんですね…。走る列車のあのリズム、たしかにあれ変拍子の習得にはうってつけかも。鉄道つながりでは、ドヴォルジャークは若いころ、乗っていた列車の異音にいちはやく気づいて停めさせ、大事故を未然に防いだとかなんとか…そんな逸話を昔読んだことがあります。うろおぼえなので確証はないけれど…。バッハの「無伴奏ヴァイオリンソナタ」と踏切の音…おもしろい視点ではあるけれど、このへんにくるともうついていけない(苦笑)。とはいえ杉ちゃん&鉄平による「山手線上のアリア」は思わず笑ってしまった。…リクエストがくるということは、CDとかあるんだろうか…? あと鉄道つながりということで、オネゲルの「機関車パシフィック231」もかかってましたね。この作品は以前NHK-FMで聴いたことがあります。
それと、そうそう、土曜の「名曲リサイタル」。リコーダーとチェンバロ二重奏による…チャーリー・パーカー! もうびっくり。リコーダーもさることながら、チェンバロであのジャズ特有のビートをたたき出しているのにはほんと驚きました。でも…意外といいではないですか、チェンバロでジャズ! しかもマルケッティの「魅惑のワルツ」までかかりました。ジャズオルガン(ハモンドとレスリースピーカー)というのはふつうですが、チェンバロもけっこういいかも! もっとも故ポール・モーリアみたいに、増音チェンバロでないと音量的に負けそうですが。それと、「名曲のたのしみ」。プーランクがランドフスカのために書いたという「クラヴサンと管弦楽のための田園協奏曲」なんて作品があるんですね、知らなかった。こっちはモダンチェンバロでオケに負けじと張り合ってましたね(笑)。
2008年10月13日
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