ここでもときおり触れてきた鎌倉の雪ノ下カトリック教会を本拠地として活動しているグロリア少年合唱団。ここの特徴はたんなる少年合唱団ではなくて、れっきとした教会付属の聖歌隊である点。これは日本ではひじょうに珍しいと思う。この手の聖歌隊は知っているかぎりでは暁星小学校の聖歌隊くらいでしょうか、とにかくようやく彼らの実演を聴く機会に恵まれました(→GBC関連別サイト)。会場は大船駅から歩いて10分くらいのところにある鎌倉芸術館…おとなりは三越とヨーカ堂、その手前には大船郵便局と、ある意味すこぶる便利な一角に建っています(笑、関係ないけれど、三越の2階には百均ショップがあり、だいぶ早く着いたのでそのへんで時間をつぶしておきながらハイポジテープを買うのをすっかり忘れていた。orz 月曜の朝の「バロックの森」、バッハのBWV.1128のコラールファンタジーとかかかるんだけどな…orz)。鎌倉芸術館でなにか聴くのははじめてなんですが、中庭に竹林(!)まであり、このへんは古都鎌倉を意識した造りかと思いました(なんとなく国会図書館新館の中庭にも似ている)。だいぶ実を散らしたムラサキシキブとかも植えてありましたね。
今回の公演、行く気になった決め手はバッハの「マニフィカト BWV.243」がプログラムに入っていたこと。じつはこのことを知ったのはさるblog様の記事で、書いていたのはグロリア少年合唱団員の息子さんを持つ主婦の方。残念ながらいまはこのblogは閉鎖されてしまいましたが、関東圏ではすべて少年の声による合唱団というのはこことちょくちょく触れているTFMくらいのものでしょうから、こちらも一度くらいは聴いておきたいと思ってました。ちなみにチケット代は2500円。はじめて裾野市で聴いた「パリ木」とおんなじ値段でした…もっとも当時といまとでは単純に比較はできませんが、基本的に都心に近い公演会場ほどお高くなります…ま、これはいたしかたないことではある。
バッハのほかはペルゴレージの有名な「悲しみの聖母」。こちらはセバスティアン・ヘニッヒとカウンターテノールのルネ・ヤーコプスによる録音や仏ヌイイの教会少年聖歌隊による録音盤をもってはいるけれど、少年の声で歌われることはあんまりないように思う。もっとも今回は独唱パートの歌い手は成人の女声・男声歌手なので、純粋に少年の声で歌われるわけではありませんでしたが。
演奏会は「悲しみの聖母」ではじまりました。舞台に登場した団員はみな、純白のアルバに身を包んでいました*。冒頭部は少年合唱による高音パートが二手に分かれてそれぞれ重なりあう構成。年少団員さんたちの声は、ちょっと地声の響きが強いかな…という印象を受けました。最初はやや不安定な箇所もありましたが、曲が進むにつれ美しいハーモニーを聴かせてくれました。独唱部も二回ほど、団員の子がソリストとして登場して、それぞれに個性的な声の持ち主だったのでけっこうよかったです。とくに中学生くらいかな、シニア隊員の子が前に出てきて、変声しかかっているような声ではあったものの、4番目の詩行部分(Quae moerebat et dolebat...)のソロを披露してくれました。変声しかかっていたとはいえ、つややかでノビのある声質は、個人的にはとても好感がもてました(ひょっとしたらファルセットで歌っていたのかもしれない)。またここの専属オケ(グロリア室内オーケストラ)も一糸乱れぬすばらしい演奏を聴かせてくれました。やっぱり生のオケっていいなあ!! ホールの響きもすばらしくて、ひじょうに温かい、やわらかな残響に心地よく包みこまれる感じ。少年合唱には最適なコンサートホールだと思いました(残念ながらオルガンはないけど)。またソプラノパートの団員はほとんどが暗譜で歌ってました。
休憩後、こんどはここのOBもふくめた変声後の団員たちのコーラスによる19世紀後半に活躍した作曲家ラインベルガーの「ミサ曲 ヘ長調」から「キリエ」、「グロリア」、「神の子羊」。はじめて耳にする作品でしたが、ときおりグレゴリオ聖歌調の旋律が混じる、全体的におだやかで瞑想に耽るような作風の曲でした。伴奏はチェンバーオルガンのみの簡素なもの(レジストレーションにもよるかもしれないが、こちらの音もけっこうよかった)。さすがはお兄さんたちによるコーラス、ハーモニーの重なりとかはじつに美しく、これを石造りの大聖堂で聴いたらさぞや美しかろう…と思ったしだい。
最後がお待ちかねの「マニフィカト BWV.243」。曲についてはこちらのサイトで。言うまでもなくこれはルカ福音書1:46-55の「マリア賛歌」に曲をつけたもの。当時のライプツィッヒでは本来ローマカトリックの専売特許みたいなこの「マニフィカト」を大祝日の晩課に奉じる習慣があったらしい。バッハはこのときはじめて本格的にローマカトリックの音楽の伝統に接したようです。それが最晩年の傑作「ロ短調ミサ BWV.232」として結実することにもなる。BWV.243はもともとのBWV.243aを半音低く移調した作品で、これはD管トランペットの輝かしい響きを追加するためだったとも言われています。
冒頭部、そのトランペット3本とティンパニで輝かしくはじまり、長いメリスマティックな'Magnificat anima mea Dominum'という歌詞が少年合唱で入ってきました。やはりここでもやや年少団員の地声が気にはなったけれども、ペルゴレージのときより安定していて安心して聴けました。こんどはさきほどの成人団員も加わっての大編成で、途中の'omnes generationes'のメリスマのきいた合唱や、最後の'Gloria!'という叫びにつづくカノンでの盛り上がりはまるで教会の中で聴いているかのように感動的で、すばらしかった。高音から低音まで、団員の声がつぎつぎと重なってゆく箇所とオケのバランスがひじょうによいと思いました。指揮者の松村先生という方は見た目まだ若そう…ですが、オケも合唱も、独唱者とも息がぴったりあっているし、「悲しみの聖母」ではやたらせかせか走らず、イエスがついに十字架上で息を引き取る場面ではひとつひとつの歌詞を噛みしめるようにテンポをやや落とすなど、随所に配慮が見られてこちらも好感が持てました。最近の演奏傾向はいささか速すぎるきらいがあるので、かえって新鮮。もっとも「マニフィカト」については独唱部、たとえばソプラノとアルトの二重唱、'Suscepit Israel puerum suum...'は、ボーイソプラノとボーイアルトの二重唱として団員の子たちに歌ってほしかったところではあります(BACの'Boys on Bach'アルバムをもっている方はトラック11を聴いてみてね)。
終演後、ロビーではグロリアのOBとおぼしき方や、たぶんシニア団員を待っているらしい中高校生とかもおおぜいいまして、この合唱団が鎌倉という街にしっかりと根付いているのだなあということも強く感じた。なにしろここの合唱団は来年で創立50周年。このような地道な音楽活動を半世紀にもわたってつづけるのは並大抵のことではなかったろうと察します。とくに日本では「少年合唱」というものについてはなはだ馴染みの薄いお国柄でもあるし、一般の音楽ファンの関心もけっして高いとはいえない(これは究極的にはキリスト教会の伝統から発しているからだと思う)。しかしながら、今回実演に接したグロリアと、TFMの子どもたちの実力は、本場欧州の少年聖歌隊/合唱団と遜色ないと思う。来年、国文祭の一環として静岡県内で「少年少女合唱の祭典」が開かれるので、少年のみで構成されるグロリアとかTFM、広島少年合唱団とかが参加して歌声を披露してくれることを心から願っています。
会場では運よくグロリアのCDも売ってました…一昨年、ポルトガルに演奏旅行に行ったときのライヴ録音。収録されているのはヴィヴァルディの「グロリア・ミサ」とモーツァルトの絶筆「レクイエム」、アンコールとして歌われた「ファティマのアヴェ・マリア」で、帰宅後、さっそく聴いてみました。「グロリア・ミサ」、かなり秀逸です。アンコール曲が歌い終わらないうちに会場の聖堂内ではやんやの拍手喝采が聞こえます。耳の肥えた本場欧州の聴衆から賞賛される。日本の少年たちの実力をなによりも雄弁に物語っていると思いましたね。
* …アルバ(英語表記alb、ラテン語のalbusから)は本来は修道士の服装(habitという)で、「貞潔」をしめす長い腰紐を巻き、頭巾がついています。現在のローマカトリック教会ではたとえば待者(ミサ答え、acolyte)が着る式服。グロリアの子どもたちがまとっていたアルバは、基本的に「パリ木」の子どもたちがまとうアルバとおんなじものでした。
2008年10月19日
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/21474349
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック
http://blog.sakura.ne.jp/tb/21474349
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック

http://6623.teacup.com/yosimasa/bbs
もひとつ、私のところでもちらっと触れましたが、Winchester College Chapel Choir の新しいCDがまもなく出るのですが、Harryが在籍する最後となるアルバムになりますね。。感慨深いです。。
このような門外漢の書き散らした記事を紹介してくださってかえって恐縮です。m(_ _)m
鎌倉ケーブルテレビの動画、見ました。インタヴューにつかまらなくて、なによりでした(苦笑)。まさか地元メディアまで来ていたなんて、思ってもみませんでしたから。TV取材、といえば、横浜でのLibera公演のときもそんなのがいましたねー、ま、いいか(笑)。
取材に応じていた子が、「悲しみの聖母」でソロを歌っていたシニア団員ですね。そのあと動画にも紹介されていた、年少さんたちふたりがソロを歌ってました。どちらもよかったですよ。
団員さんをもつご家族の方はほんとうに献身的ですね。それはTFMのクリスマスコンサートのときにも感じましたし、英国の聖歌隊でもそうですね。団員の家族どうしで懇親会を開いたりとか。ハリーも今年で在籍が最後ですか。どんなアルバムなんでしょうね…。またTFM定演のときは、開場前に待っていたら、団員の親御さんたちが「うちの子は選ばれなかったけれど、だれだれくんはソロに選ばれたよー」というかなり内輪な会話(?)もけっこう耳に入りました。
鍵盤にナイフを突き立てたというキース・エマーソンのほうはどうでしたか? ちょうど来日とGBCの公演時期がいっしょでしたね。エマーソンを聴きに行き、なおかつ少年合唱も聴くというKeikoさんのようなファンの方って、やはり少ないのでしょうか。自分は、時間と財布の余裕さえあれば、それこそジャンルを問わず、コンサートのハシゴをしたいくらいですが。
ところでバッハのマニフィカトは、私も大好きで、Christ Church のを持っているのですが、それもソリストはエマ・カークビーら成人ですものね。(ま、カークビーはノンビブラートという点でも、勿論適任ですが)BACでも録音ありましたっけ。。忘れてた。。といいうか、Boys on Bachはあまり好きじゃないのであります。。。(苦笑)あれを最初に買ったばかりに、、大失敗しちゃいましたからね・・ぶつぶつ・・
Keithのこと、よくぞ聞いてくださいました。さすがにナイフ刺しは3年前(もっと前かも)からやっていませんが、その分ほんとにもう神がのりうつったかのごとき素晴らしい演奏でした。記事書く時間がなくてもう(なにせ35年も愛しているので、、、ほんとに好きなものについては、中途半端に語りたくないですからね)、、フラストレーションたまりっぱなし。。笑