2008年12月05日

9年ぶりの歌声

 今年も Advent、待降節 ( 降誕節前の4 週間。蒸し返しになりますが降誕節は正月をはさんで来月6日までの12 日間 ) がめぐってきました。ここ数年、この季節は BBC Radio3 の Choral Evensong でセントジョンズカレッジ聖歌隊による待降節礼拝に耳を傾けてからはじまります。今年は Radio3 サイトにアクセスしたらたまたま生放送中でした。あいかわらず心洗われる清冽なソロと合唱。最後のオルガンヴォランタリーは、バッハの名曲「目覚めよと呼ぶ声あり BWV.645 ( 6つのシュープラー編纂コラール集 第1 曲 ) 」でした。

 毎年、この時期は名だたる少年合唱団や聖歌隊来日シーズンでもあるのでいつも聴きに行ってますが、そのきっかけを作ってくれたのが「パリ木」、フランスの「木の十字架少年合唱団」公演でした。かれこれ 15 年ほど前のことになります。たまたま近所に来てくれたので聴きに行ったのですが、じっさいに彼らの歌声を耳にしてたいへんな衝撃を受けた。見かけのかわいらしさとは裏腹の、成人歌手顔負けの歌いっぷりに度肝を抜かれたのです。それ以来、憑かれたように ( ? ) 泥沼がはじまる ( 苦笑 ) 。年に一、二回くらいとはいえ、この手の合唱団公演には10年以上も聴きに行っているので、それなりに耳は肥えてきた、と思う。その間CDもずいぶん増えましたし。もっともこれにはやはりインターネットの力が大きい。手に入れにくい文献のみならず、欧州でしか手に入らないようなマイナーな録音盤でもわりと手軽に入手できるようになったのはたいへんありがたいことです。

 思い出深いパリ木ですが、前回彼らの実演に接したのが 1999 年。なので彼らの歌声を聴くのはじつに 9 年ぶりのこと。パリ木を熟知している仏人メル友によると、数年前からヴェロニク・トマサンという女性の指導者に代わり、本拠地もいままでのグレーニュの森にあった城館からパリ市街地に近い場所に移転したらしい。以前にくらべて規律がゆるんでいるというようなことも聞きました。また近年は、入団するのは裕福な家庭の子弟が多いようです。

 かんじんの歌声はどうなんだろ…と思いつつ東京カテドラル聖マリア大聖堂へ ( 意図したわけではないのに、3 年連続ここの会場に通うことに。自分の場合はしばらく連続であるホール、たとえば芸劇、オペラシティ、トリフォニーホール、みなとみらいホールとつづくケースが多いです ) 。晴れてはいたんですが、クリスマス寒波を思わせるような寒い一日でして、聖堂の中に入ってみたら期待していた使いきりカイロはなし ( 苦笑 ) 。かわりにBS朝日だかのTVカメラは入ってました ( 99 年公演時もNHK-BS2のカメラが入ってました ) 。

 総勢24名のうち、まず登場したのは 20 名。これは、オルランド・ディ・ラッソの「ほら ! 楽しいこだまが聞こえてくるよ」という曲を歌うために残り4名は後方、たぶんオルガンロフトのあたりに待機していたのでしょう ( ちなみにこのおなじ曲、去年もここで、Boni Pueri 公演にて聴きました ) 。ここの特徴はなんといっても絶品のア・カペラによる音楽のフルコース。でもたまさかに彼らのCDにはオルガン伴奏版とか入っているから、どうせならうしろの大オルガンも活用してほしいところでした。

 プログラム第一部は「フランス大衆音楽および世界の有名歌曲」となんかやたらと長いタイトルがついてます。服装は紺色の上着と半ズボンで、これも以前とおんなじです。低音パートのソロで歌われるチェコ民謡 'Tecce voda Tecce' とかグリーグの「ソルヴェイグの歌」、フリースの「モーツァルトの子守り歌」とかは定番ですが、'It's all right' はアンティル諸島の歌ということになっているがノリのよすぎるゴスペルみたいで、パリ木というよりまるでドラケンスバーグみたいでした。みんなで体を揺らして手拍子しながら歌う、というスタイルはたしかに近年のものかもしれない。ピアフの「バラ色の人生」や「パリ・パナム」も歌ってくれましたね。このへんのレパートリーは、たぶんトマサン先生になってからなのでしょう。歌声は、以前ほど個性が強くないというか、似たような声質で統一されている印象でした。それでもときおり昔聴いた、懐かしい声を彷彿とさせるソリストがいたりしたので、そんなときは頭の中で昔聴いたソリストくんの声も重なって聴こえたりした。

 第二部になってから、彼らの正装とも言える木の十字架つき純白のアルバ姿で登場。こちらも300円で買ったプログラムに記載されているタイトルが長くて、「クリスマスキャロルおよび聖歌で構成」。というかこのプログラム、巻末にただ曲目を羅列してあるだけでなんの解説もなし。しかもラッソの名前がオ・ディ・ラッソとはいくらなんでも省略しすぎ(苦笑)。「ジングルベル」、「荒野の果てに」、「シューベルトのアヴェ・マリア」と定番ぞろいでしたが、ムーアという人の「カルヴァリ山の十字架」というのははじめて聴きました。こちらもひじょうにノリのいい曲でした。シューベルトのソロもよかったけれども、ラモーの「夜」と 'Carol of the bells' がいかにもパリ木らしい美しいハーモニーを聴かせてくれてよかった。フランス生まれで英国に伝わったキャロル「御空にこだます」はアングリカン系聖歌隊の十八番であるけれども、パリ木でははじめて聴きました。英語歌詞ではあるけれど、どことなくフレンチな歌い方。最後の「ホワイトクリスマス」も、以前とおなじような、パリ木スタイルを踏襲したイントロつきで歌われました。グルーバーの「きよしこの夜」は、独語・英語・日本語で歌ってくれました。

 アンコールは ―― 古いファンの方にはおなじみかな ―― 山下達郎さんの「クリスマス・イヴ」、'Walking in the air' の日本語版「空を歩いて」。最後にもう一曲歌われましたが、記憶があいまいでたしかなことはわからないですが、映画「コーラス」のサントラの一曲だったかもしれない ( 確認しようと思って本棚あさっても出てこないから、くだんのメル友に贈呈したかもしれない…ということに思い当たりました orz ) 。アレッドでおなじみの曲も、日本語で歌われるとなんだか別物みたいでこれはこれでおもしろい。思うに、パリ木の歌うこの日本語ヴァージョンはだれが作ったのだろうか … 10 年前にリリースされた仏国内盤にも「空を歩いて」が収録されていますし。

 全体的な印象として、いまのパリ木はいい意味でくだけた雰囲気があるように思います。以前はそれこそピンと張りつめた空気みたいなものが感じられたので。97 年に来日したとき、一度だけ在京オーケストラと共演したことがありました。もちろん生のオケも抜群によかったし、彼らの「先輩」たちも声量面でなんらオケと引けをとらなかった。でもたとえばソリストの子は歌い終わるとさっさとみんなのほうに引っこんで、オケの指揮者先生が鳴り止まない拍手にこたえるように手招きしても首を横に振ってけっして前に出ようとはしなかった。つまりソリストだけが目立つようなことはしなかった。いまはそんなことはなくて、トマサン女史もソリストたちを前に出させてめいめいお辞儀させているし、演奏中にソリストが三々五々ぞろぞろと出てくるというのは以前だったらちょっと考えられなかったと思う ( 最前列に並べてから歌いだした ) 。そしてソロを歌える子もずいぶんいました。曲によってはふたつ三つの大きなアンサンブルを作って歌うというようなこともありました。歌声は、以前ほど強烈な個性はさほど感じられなかったけれども、ソリストはいずれも安定しているし、あの特有な色彩感豊かなハーモニーがひじょうに美しく、世代交代による出来不出来のないところはすばらしいと思いました。だてに 100 年以上も歌っていませんね ( ↓は、メル友から贈られたパリ木創立 100 周年記念 DVD と CD セット ) 。

PCCB100


 今回は、パリ木公式サイトによると中国・韓国と回ってから来日したらしい。日仏交流150周年記念、と謳うわりにはたったの3 公演で、以前のような30公演以上という強行スケジュールを知っている者としてはせめて10公演くらいはやってほしかったかも ( あんまりむりしなくてもいいですが。空気が乾燥しているせいか、エヘン虫の団員くんがちらほらいた ) 。とにかくひさしぶりに実演を聴けて、個人的には大満足です。

posted by Curragh at 23:36| Comment(5) | TrackBack(0) | 音楽関連
この記事へのコメント
はじめまして、パリ木を検索して貴方のサイトに辿り着きました。

昨年のパリ木再来日からもう9ヶ月が経つのですね。私も昨年のパ日本公演に足を運び彼らの歌声を聴いてきました。

私にとって一番最初の少年合唱団のコンサートがパリ木でした。もうかれこれ22年前の’87の来日組です。この時のハーモニーは本当に素晴らしくて、後々も昔からのファンの方から’87はとりわけレベルが高かった、と評判でした。学生だった自分はアルバイトしてお小遣いを貯めては、彼らのコンサートに通ったり、CDなどを集めたりしたものでした。
社会人になってからはしばらく少年合唱から離れましたが、数年前にyoutubeで現在のパリ木の歌声を聴いて、指揮者が交代して変わっていった部分はあるけれど、パリ木の音色は変わらずで、昔自分が夢中になって聴いていた歌声と重なって、胸がいっぱいになりました。今の音色の方が温かみがあって私は好きですね。
ウーディ氏の指揮の頃は、緊張感のある甲高い声の子がいたので、聴いている方も緊張してしまいましたが、今はそういうタイプの子はいなくなりましたね。
低音パートがしっかり組織されていてバランスがいいような気がします。ベースなど中間の低音パートまでいて驚きました。ソプラノやアルトで変声しても、低音パートで長く合唱団に在籍できるのも、歌うことが好きな子にとってはいいことなのだと思いました。

長くとりとめのない内容ですみません!
また、お邪魔させていただきますね。
パリ木だけではなく、昔よく来日した合唱団にも又再来日して欲しいですね。
Posted by sternlein at 2009年09月02日 22:09
sternleinさん、はじめまして。

'87年来日組を知っているのですか! 
じつは自分がほんとうにはじめて「パリ木」の歌声に接したのは、NHK-FMのクリスマス関連の番組で、ベルナール・ウーディ指揮による彼らのディスクから数曲、かかったのを聴いたのが最初だったのです。そのとき、じつに印象的な歌い方をするソリストがいまして、そのことが頭にあったものですから、93年に彼らが近くに来て歌ってくれる、という話を聞いてそれなら行ってみようか、という気になったのでした。その「緊張感のある甲高い声の子」というのは、ひょっとして自分がNHK-FMで聴いたときのソリストだったのではないでしょうか(かかったディスクは仏国内盤の'Noel Christmas'というものです)。

「パリ木」関連では、すいさんのブログもおすすめです。いろいろ情報が載っていますよ。

http://lapereauensommeille.blog48.fc2.com/

それはそうと、コメントが反映されなかったようで、失礼しました。たぶん大家の調子が悪かったか、なんらかの制限をかけていたものと思います(ここのところヘンテコなスパムコメント攻撃がつづいていたというのもあるかもしれません)。よければ最初のものだけ残してあとは削除しますが、どうしましょうか。
Posted by Curragh at 2009年09月05日 12:14
curraghさん

お返事ありがとうございます。
ウーディ氏指揮の87年の録音(当時はカセットで売られていました)のノエル、私も知人経由でフランスから輸入してもらい持っています。この録音のソプラノのトップは、ファビアン君という子で、当時12歳でした。彼の声はどこまでも伸びやかで艶やかで美しく、甘いビブラートで観客を魅了していました。とても素晴らしいソリストでした。
この時のグループは、ソプラノ、メゾソプラノ、アルト1、アルト2の編成でしたが、非常に完成度が高く、各パートが実力者揃いでハーモニーのバランスが見事でした。彼らが私の中ではパリ木の中でベスト1です。聴けることならタイムスリップしてまたあのハーモニーを生で聴いてみたいです。

書き込みました「甲高いソプラノ」君は、91来日組のソリストの子で、今彼はパリ木のマネージメントに関わっているようです。
こうして卒団してからも、また古巣に戻って後輩達のサポートに携わっているのも、団員のパリ木への愛着を感じて素晴らしいなと感じます。
すいさんのブログ私も拝見させて頂いています。以前は2年に一度来日していたパリ木も、当時は全国にファンがいて交流もありましたが、今の状況の中で、こうし
Posted by sternlein at 2009年09月06日 00:20
(すみません、今度は後半の書き込みが途中で切れてしまいました...)

すいさんがパリ木をブログで取り上げてくださっているので、パリ木を好きな方々が集える場所を提供してくださっていることに感謝しています。

今のパリ木はいい意味でフランクな感じですが、団員の1人1人が伸び伸びと楽しそうに歌っている姿が私は好きなので、そういう点ではとても理想的なグループになったな、と思っています。

重複した書き込みですが、本当に申し訳ありませんでした。
お手数ですが、余分な分は削除下さい。よろしくお願い致します。

またお邪魔させていただきます。
Posted by sternlein at 2009年09月06日 00:34
sternleinさん

87年来日組のすばらしいソリストはファビアンくんという子ですか。たしかにあのつややかで子ども離れした歌いっぷりはひじょうに印象的ですよね。手許にいくつかある歴代の録音のなかでは、彼はまちがいなく最高のソリストだったと自分も思います。もっとも95年来日組のハーモニーとソロもけっこう好きなんですけれども。

91年来日組の方は、パリ木のマネジメントをされているのですか。でも少年合唱団というのはわりとそんな話を聞きますね。国内でもたとえばTFMのクリスマスコンサートや定演では、けっこうOBが手伝いに来たりしてますよ。やっぱり多感な子ども時代に音楽を通して「おなじ釜の飯を食った」体験というのが、仲間としての絆を深くしているのかもしれませんね。絆の強さについて言えば、たとえば英国では、ある大聖堂の音楽監督が女子聖歌隊員を導入しようとしたらかつての聖歌隊員OB連がこぞって反対、なかには涙を浮かべる人もいたという話を読んだことがあります。彼らの団結力たるやすさまじいものがあると感じ入ったしだいです(笑)。もっともこれは「男声合唱の伝統を重んじる」がゆえに抗議した、ということでもあります。

余談ですが、前回の公演を聴きに行かれたのですね。招聘元がこの手の公演を専門にしていないということもあるかと思いますが、プログラムの貧弱さには閉口しました。昔の伊藤音楽事務所時代が懐かしい! 
Posted by Curragh at 2009年09月06日 06:00
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