著者の言を待つまでもなく、この季節は――商業主義であれなんであれ――巷には音楽、それもクリスマスにまつわる音楽、音楽であふれます。クリスマス用に作曲された「歌」だけでもそれこそ膨大な数にのぼります。音楽好きにとってもこの季節は特別なもの。12月がくると、信徒であるなしに関係なく、やっぱりクリスマス音楽が聴きたくなるものです。クリスマス音楽には、古今東西を問わず作品としてすぐれている曲/歌も多い。クリスマスコンサートとかに行きますと、「天にはさかえ」とか、「荒野の果てに」とか演奏されたりします。でもこれらは「耳なじみ」でありながら、じつは知っていそうで意外と知らなかったりする。この本はその数え切れないほど存在するクリスマスの歌のなかから「正統派」に絞って――著者はご自身がプロテスタントゆえ、収録した曲もおもにプロテスタント系だと断ってはいますが――収録しています。とはいえそんなに「偏り」はないような気がする。たとえば英国キャロル(「ひいらぎとつたは」、「グリーン・スリーヴズ」旋律による「古いものはみな」、「牧人ひつじを」)あり、フランス古謡(「荒野の果てに」、「たいまつ手に取り」)あり、英国国教会(アングリカンチャーチ)賛美歌(「天にはさかえ」、「もろびとこぞりて」、「まぶねのなかに」)あり、中世ドイツのキャロル(「エッサイの根より」、「マリアは歩みぬ」、「いまこそ声あげ」)あり、ルター派のコラールにもとづくもの(バッハ作と言われる「まぶねのかたえに(「シェメッリ歌曲集」、BWV.469)」、ルター作詞の「いま来たりませ」、「暁の星のいと美しきかな」)あり、そのほか古謡にもとづくもの(「ウェンセスラスはよい王様」、「いざ歌え、いざ祝え」)あり、しかもこれらが教会暦にしたがって、つまり「待降節第1主日」から1月6日の「主の公現日(顕現日、エピファニー)」まで順番に並んでいて、どの歌がどの日に歌われるものなのかがわかるように書いてある点がいい(教会暦では待降節から「新年」がはじまる)。章ごとにコラムがあり、たとえば「サンタクロース」についても、子どもたちにプレゼントを渡す日はもとは12月6日の聖ニコラオスの祝日だったとか書いてあるし、ドイツ語でなんで大晦日がSilvesterと呼ばれるのかとか、教会ではなぜクリスマス当日ではなくて前日のイヴが重要なのかとか、読んでいておもしろい(そしてためになる)薀蓄もさりげなく織り交ぜてあるところもいいですね。たしかに耳で聴いてそれでよければいい、という向きもあろうかとは思うが、その歌がどの日に歌われ、あるいはどんなふうに生まれたのか、どんな歌詞なのかということがわかればもっと楽しいし、歌にたいする理解もおのずと深くなるはず。なのでこの本、意外と類書がありそうでじつはなかった分野かもしれない。そしてこの本、すばらしいことに著者(教会オルガニスト)自身による演奏CDまでくっついています。ご本人は謙遜されていますが、演奏もすばらしい。なんだかオルガンによる、クリスマス・カラオケメドレーみたいな趣きさえしてきます。「キリスト教会におけるクリスマス音楽」について、もっと知りたい人にはまさにうってつけの入門書だと思います。各曲にはそれぞれかんたんな譜例も掲載されているので、じっさいに音を出してみるとさらに楽しい気がしますね。かくいう自分も、絶対音感がないゆえ、「久しく待ちにし」ってどんな曲? と思ってじっさいに音を出してみたら、なんだ、行列聖歌の「来たれ、エマニュエルよ('O Come, O Come, Emmanuel')」でした(苦笑、拍子線なしのグレゴリアンチャントの譜面なので、見ればわかりそうなものだったが)。
またシャルパンティエの「真夜中のミサ」、ダカンの「ノエル」、バッハの「クリスマス・オラトリオ BWV.248」、コレッリの「クリスマス協奏曲」といった名曲もあわせて紹介されています。これらの作品は、すべて今週の「バロックの森」でかかりますから、聴いたことのない方はぜひ。
評価:

確認ですが・・・歌詞は英語(orラテン語とかドイツ語とか)で載っているのですよね?日本語の賛美歌集というわけではないですよね??
イギリスで買ったクリスマスキャロル集みたいなものは持っているんです。単に楽譜と歌詞が載っているだけで、そういう解説は一切ないのですが・・・
曲譜付きキャロル集をもっているのですね。そちらもいいですね…弾けそうなのがあったら音を出してみたいと思うほうなので、本場のキャロル集にも興味があります。