2008年12月30日

夕陽は西伊豆の財産

 ここのところ風景写真を撮る暇がなくて、前回西伊豆に写真を撮りに行ったのが――ホルスト作曲の「木枯らし吼えたけり('In the bleak midwinter')」じゃないけれども――冷たい西風吹きすさぶ3年前のクリスマスの日。この時期はやっぱり富士山と夕陽。週末に行ってみることにした。

 いつだったか地元紙夕刊に、ときおり撮影に行く黄金崎(こがねざき)で村営(いまは合併して新西伊豆町)研修センター兼レストラン支配人だった方が寄稿されていて、そのお題がいかにもこの岬にふさわしかったことを思い出します――「夕陽は黄金崎の財産」。たしかにここの夕景はおそらく日本でも、いや世界的に見てもひじょうにユニークで、何物にも代えがたい魅力があります。風化侵食の進んだ、黄褐色・琥珀色の荒々しいプロピライト(変朽安山岩)断崖絶壁が夕陽を照り返し、文字どおり黄金色に染まるさまはいつ見ても感動的だし、駿河湾のかなたに沈む夕陽の眺めも荘厳ですばらしい。だいぶ前に常盤新平氏が地元紙に静岡の山間部を舞台にした小説を連載していたとき、作中人物がこんなことを言っていた――「わさび田の修道院」。黄金崎の荒々しい断崖と大海原に沈む夕陽は、まさに自分にとっても厳かな修道院か、大聖堂の大伽藍から受ける感動に近いものがある。とはいえ駿河湾に沈む夕陽というのは、伊豆西海岸のどこにいても見られるもの。写真を撮るほうから言わせると、四季折々に夕陽の表情は異なっていてそれぞれいいものだとは思うけれど、やはりこの時期、11−12月の、冬至をはさんだ時期がもっとも美しい。撮影地ガイドみたいな本には、ときどき「西風が強く吹きつける時がチャンス」みたいなことが書いてあったりするけれど、そうともかぎらない。かえって大気中の塵を巻き上げて富士山がかすんで見えなくなったりする。西風が収まったあとのほうがくっきりクリアに見えたりする。そんなときは富士だけでなく遠く南アルプスもはっきり望めます。まさに日本一の絶景。これだけお膳立てがそろった海景というのはそうないのでは、と思う。

 ひさしぶりに訪れた日は絶好の写真日和でして、コンパクトデジカメとカラーリヴァーサルフィルムを入れた35mm一眼レフと両方で撮ってました。しかも前日まで吹きまくっていた西風もなくてひじょうに幸運だった。岬背後の山の急斜面を登ったり、磯釣り師の開拓した(?)崖伝いの踏み分け道にも行ってみたり。あちこち登った下りたしていたら、すっかり膝が痛くなった(笑)。でもここの海蝕崖の色ほど、再現の難しい色合いもないのではないかといつも感じる。目で見たようにはなかなか撮れない。露光にもよるとは思うけれども、陽射しを受けると海蝕崖の酸化鉄とか硫黄成分が「焼け」て照り返す、その色合いがうまく出ない。それにしても『獣の戯れ』でここの岬の情景を的確に描写した三島由紀夫はほんとみごととしか言いようがない。「…船首の左に、黄金崎の代赭(たいしゃ)いろの裸かの断崖が見えはじめた。沖天の日光が断崖の真上からなだれ落ち、こまかい起伏は光りにことごとくまぶされて、平滑な一枚の黄金の板のように見える。断崖の下の海は殊に碧い。異様な鋭い形の岩が身をすり合わせてそそり立ち、そのぐるりにふくらんで迫り上がった水が、岩の角々から白い千筋の糸になって流れ落ちた」――風景描写とはかくあるべし、みたいな名文です(この一節は岬展望台の一角に立つ「三島由紀夫文学碑」にも刻まれている。またこのすぐあとに出てくる安良里港入港の風景描写も負けず劣らず巧みで美しい)。

 富士の眺望は最高だったけれども、残念ながらちょうど夕陽の沈む方角になかなか取れない雲がありまして、せっかくの美しい夕陽もかんじんの光が弱くなってしまい、夕景としてはいまいちだった。夕陽に染まる雲の模様はおもしろかったけれども。

 伊豆西海岸には黄金崎のほか、太田子(おおたご)海岸とか堂ヶ島、松崎の南に位置する岩地・石部・雲見の三浦(さんぽ)地区など、松をあしらった奇岩怪石の海岸線がつづき、それぞれに趣のあるすばらしい夕景が見られるし、またおなじ夕陽でも荒々しい断崖から眺めるのと人の住む入江ごしに眺めるのとではだいぶ印象も変わる。入江ごしに望む夕陽は、なんかほっこりしていてなごみます。かつて川端康成は、「伊豆は海山の風景の画廊」と絶賛したけれども、それぞれに個性的な夕景の見られる西伊豆にとって、駿河湾に沈む雄大かつ荘厳な夕陽こそ西伊豆を西伊豆たらしめているかけがえのない財産だと思う(追記。いま画像に埋めこまれたexif情報を見たら、時刻表示がかなり狂っていた。orz さっそくデジカメの設定を修正しておきました。この時期の静岡地方における日没時刻は16時36-40分くらいですね)。

黄金崎の富士

黄金崎夕景

駿河湾に沈む夕陽



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