2009年01月30日

ゴルフリゾート開発のときとまったくおなじ

 アスベスト。英名asbestos、もとはラテン語経由のギリシャ語で、「消されないもの」から。アスベストは角閃石系と蛇紋岩系と大別され、日本では2004年に全面使用禁止されるまで、温石綿とも呼ばれるクリソタイル(白石綿)がふつうに(!)使われてきた。かくいう自分も小学生時分、理科の実験でビーカーに入れた水溶液をアルコールランプであぶったとき、「石綿」付きの金網をビーカーの底に敷いたりして、ふつうに(!)触っていた。そういえば体育館の屋根には剥き出しで吹き付けられていたような気がする(いまはもちろん、そんなことはない→文科省のページ)。

 世界的に見てアスベストの使用禁止状況はどうなっているのか…と思ってしばらくWebを検索してみると、愛媛労働安全衛生センターのサイトに簡潔に説明してあるページを見つけた。そして日本でいままで使われてきた白石綿は、ほとんどがカナダから輸入されたものであることもはじめて知った(→参考ページ)。今後、解体工事から回収されたり既存建物のアスベスト除去工事から出るアスベストの総量が急増するという。現在、こうしたアスベストの処理はポリ袋で二重に密閉してから埋め立てる方法が主流ですが、今後は埋め立て処分場じたいが不足する。そこで、環境省は税制上の優遇措置を打ち出して、アスベスト無害化処理を推進しようとしているらしい。ようするに無害化処理事業は商売になる、ということです。

 こんな前置きをしたのも、このたび突然、以前のNHK-FM廃止問題のごとく、まったく「藪から棒」に、大都市圏から廃棄されたアスベストを大量に持ちこみ、「高温溶融炉」で溶かして有害な繊維を除去して無害化し、ふたたび道路用資材として再利用するための処理工場を西伊豆町宇久須(うぐす)地区に建設するという話が持ち上がったからです。この話を知ったときはほんとうに驚いた。アスベストの無害化処理…についてはたとえばすでに除去現場で処理できる可般式小型融解炉が造られている。実用化されているのかどうかまではわからないが、けっきょく今回の話に出てきた、「国内最大級のアスベスト高温溶融炉」というのも、実用に耐えられるレヴェルではないと思う。こういうご時世、建設業者はすぐ「環境」とか「リサイクル」とか「雇用」とか甘言を並べたてる。「雇用」といっても地元から雇い入れるのは十数人。しかも首都圏や中部圏といった大都市からかき集めたアスベストに暴露されるような職場にはたしてどれだけの人が集まるのだろうか。この誘致話に賛成している人は、御殿場・小山RDFセンターの失敗例を思い出すべきだ。そしてこういう業者の最後の決まり文句はたいてい「地域の利益」だ。ようは業者のセールストークに騙されないことが肝心かと。そしてこの話を知ったとき、ただちに思い出したのがバブル絶頂期のゴルフリゾート計画。今回とまったくおんなじで、「はじめに開発ありき」で話は進み、現地事務所も建てられた。このときたまたま区長をつとめていた伯父さんと言い争いしたことをいまでもよく憶えている。そんなもん造ったところでなんの利益にもなりゃしない、と。当時は全国でこんな開発話がもちあがり、反対運動も盛り上がったけれども、ゴルフ場開発話が持ち上がった地区にとっては住民どうしの対立から禍根が残ったところも多いはず。旧西伊豆町・旧賀茂村のゴルフリゾート開発計画はけっきょく対象区域山林を所有している地権者との交渉がまとまらず、またこのあとすぐにバブルがはじけたこともあって、けっきょく開発業者はみずから撤退したのですが、その後地元紙記事では業者の話としてこんな「捨て科白」が引用されていた。「西伊豆の人は人がよすぎる」。事前説明会が開かれたとか聞きましたが、しょせんこれは「はじめに工場誘致あり」の出来レース。少数の利害関係者が「秘密裏に」ことを進めておいて、あるていど話がまとまった段階ではじめて地元区民に説明会と称して了解を取りつけようとする。こんなだいじな話をなぜ広報紙に載せないのかといぶかる住民もいるがまったくそのとおりだ。この話、宇久須全六区の合意が取りつけられればそれでよしなんて話じゃないでしょう。安良里(あらり)や仁科、田子(たご)地区だってある。町長はじめ、行政側の責任は重大だと思う。説明責任もなにもあったものじゃない。それに今回はアスベストの再処理。こういう話が出ると決まって業者側は「ぜったい安全」とのたまう。ぜったい安全なんていう無責任なひと言ですませるなと言いたい(そしていざことが起きれば「想定外でした」と言い逃れするのが最近の悪しき風潮)。また溶融炉の保守にはいくらかかるのか。RDFセンターの失敗例とか、またこちらの記事のような事例もある。業者はそのへんのランニングコストもきちんと説明したのか。ぜったい安全ならば、東京から出たアスベストは先方で処理していただきたい。なんでまた毎日トラック40台(!!)も連ねて西伊豆くんだりまで運ばなければならないのか。エゴもいいところだ。運送途中で事故がおきたらだれが責任を取るのか。そしてこの問題は西伊豆町宇久須地区だけにとどまらない。アスベスト輸送路になる沼津市・三島市・函南町・伊豆の国市・伊豆市すべての住民の生命にもかかわってくる、きわめて由々しき問題でもある。

 大量のアスベストがもたらすかもしれない人体への危害ももちろんだが、西伊豆地方は豊かな自然を売り物にしている地域でもある。そこにアスベストがあるというだけで風評被害が伊豆半島全域に広がるのは容易に想像がつく。それを知ってか知らずか、当の開発業者は地元紙記者にたいして「観光産業との共存は可能だと思う」なんて平然と言ってのけた。「思う」ですと?! 取材した記者は、なにを根拠にしてそんなことが言えるのかと詰め寄ってもいいのではなかったか(また数日前から地元TV局もこの問題について報じています)。

 建設予定地は、旭硝子の子会社・東海興業が1937年ごろから昨年までガラス原料(近年は「ヘーベルハウス」とかの建材用)を採掘していた白土山のてっぺん。名前のとおり白く輝く珪石を大量に産出し、宇久須地区を代表する産業でもありました。現在、東海興業も出資した第三セクター会社によってガラス美術館が運営されているのは、そういう経緯があってのこと。はじめから地元にあった「宝」を生かしたこういう施設なり産業なりはまことにけっこうなことで、しかもいまは漁業体験とか農業体験とか、いわゆる「体験型グリーンツーリズム」というのがかなり注目されてもいる。黄金崎(こがねざき)はじめ、西伊豆町の美しい海岸線の沖は、いまや全国からダイバーたちを集めるようになってきてもいる。今回のアスベスト再処理工場誘致話は、「グリーンツーリズム」に汗水流してきた人たちの努力をすべて無にしてしまうものとしか言いようがない愚の骨頂と思うのですがいかが。また安心・安全が売り物の「地産地消」としての地元の食材が提供できなくなるかもしれない。西伊豆町は、いま公開されている「誰も守ってくれない」という映画のロケ地としても登場しているようですが、毎日160トン以上もアスベストを運んでくるようになったらこのようなロケ誘致もままならなくなるような気もする(ついでに「世界の中心で〜」というTVドラマは、となりの松崎町がロケ地でした)。風評被害、ということでは伊豆市土肥新田の国道136号が地滑りで落ちたとき、TV取材にかんして「風評被害」を訴える人もいた。そんなに「風評被害」が気になるのならば、「静かな時限爆弾」とも言われる有害廃棄物を大量に持ちこむ施設建設にどうして賛成できるのだろうか、とも思う。賛成している人たちには悪いが、矛盾してますね。また山のてっぺん、ということは、冬の西風をもろに受ける。万一アスベスト粉塵が飛散したらそれこそ目も当てられない。伊豆半島の西側の尾根なので、北西寄りの強風が吹きまくればいともかんたんに、「踊り子」の格好をしたバスガイドさんの乗車するボンネットバスの行き交う天城峠あたりまで飛んでいくでしょう。また「ならい」と呼ばれる冷たい北東風が吹けば、こんどはアスベスト粉塵がダイバーや漁師さんたちのいる駿河湾まで飛散するでしょう(↓は、1996年に撮影した西天城高原の育成放牧場。後方に白っぽい切羽を見せているのがアスベスト再処理工場建設予定地である白土山の珪石採掘場)。

西天城高原から白土山


 今後は廃棄アスベストが大量発生するので、たしかにこの手の施設は必要なんでしょうが、わざわざ長距離輸送してまで地方にもってくることはない。国とお役人の怠慢のツケを地方に押しつけるな。好景気だろうと不景気だろうと、結果的に地方を食い物にするだけの開発話がなくなることはない。不幸な話としか言いようがない。言いようがないとばかり嘆いていてもはじまらないので、ここは草の根で、ひとりひとりが動くことが大事だと思う。なので自分も反対署名を集めることにしました。ご賛同いただける方は、ぜひとも協力してほしいと思います(↓のバナーから署名用紙がダウンロードできます。なおこのバナーは、本家サイトのトップページにも貼ってあります)。

 自分が子どもだったころ、夏休みを過ごしたお婆さんの家の前の旧国道をひっきりなしにダンプが往き来していたのを思い出した。砕石場のある関係で田舎のくせにダンプ街道だったし、当時の地元広報紙を見ても交通事故を心配する親御さんの声が載っていました。もしアスベスト再処理施設が稼動しはじめれば、毎日40台も猛毒物質を満載したトラックが排ガス撒き散らしながら伊豆西海岸を往復することになる。これで道路が傷めば土建屋は儲かるかもしれないが、目先の利益とそこに住む人、とくに子どもたちの将来とをトレードオフにしてほしくない。宇久須の柴地区には正月行事として、「賽の神」という小正月の伝統行事があります。子どもたちが出崎神社に奉られている石仏を持っては各家を回り、「払いたまえ、清めたまえ」と一年間の無病息災を祈願するものです。願わくばこの話も賽の神さまに「払って」もらいたいものです(追記:署名は2月末をもって締め切りました。5千名以上の方の貴重な署名が集まったとのことです。まだ業者は正式に撤退していませんが、先月おこなわれた町長選挙で当選した新町長も、住民投票の結果を尊重するということですので、おそらくこの計画は白紙撤回されるものと思います)。

黄金崎夕景


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