2009年03月16日

アイルランド系米国人にとっては

 明日17日は聖パトリックの祝日。きのうは富士山も見えたしおだやかな天気だったので、おそらく東京でのパレードはにぎわったことだろうと思います(いま、NHK-FMでジョン・ギロック氏のオルガンリサイタルを聴きながら書いています。前にも書いた、昨年ギロック氏が開いたメシアンのオルガン作品全曲演奏会からの抜粋)。

 アイルランド人にとっても、「新世界」へ渡ったアイルランド移民にとっても「聖パトリックの日」は自分たちのアイデンティティを再確認するための重要な日だろうとは思いますが、半年ほど前、まったく偶然にもWall Street Journalオンライン版になぜか(?)こんなコラムが掲載されているのを発見。書かれたのはけっこう古くて、2005年3月11日。たしかに書き手の言うとおり、アイルランド系米国人にとっては聖パトリックよりもむしろ聖ブレンダンのほうがお祝いするのにふさわしいかもしれないですね。コラムはわりとくだけた調子で書かれてはいますが、セヴェリンたちの実験航海に触れ、また「ブレンダンは北大西洋を横断して北米大陸に到達したかもしれない」という立場をとる海事史家サミュエル・エリオット・モリス*なども引き合いに出していることからして、この書き手もまた「アイルランド人修道士がレイフ・エイリクソンより一足先に新世界へ到達した可能性はある」という説を受け入れている人のようです。ひるがえってラテン語版『航海』では「聖人たちの約束の地」の位置はだいたいドニゴール海岸沖の「歓喜の島」からそんなに離れていない海域ということを暗示していて、また『航海』は文字どおりの記録というよりは文学的要素の強い「航海物語」ですので、ブレンダンにかぎらずマーノックとかほかのアイルランド人修道士がはたして北大西洋を渡って北米大陸までやってきたのかどうか、なんてことはけっきょくわかりません。でもすくなくともセヴェリンの実験航海によって、彼らの使った「牛の革を張った舟」というものにはじゅうぶんな耐航性能があるということは証明されているので、その可能性が100%ないわけではない。「ランス・オー・メドウ」のような考古学的証拠が見つかれば、そのときこそ彼らがヴァイキングより早く北米大陸に到達していたことが立証されるとは思うけれども、わからないままでもこれはこれでロマンがあっていいのではと思います。そしてこれは関係ないことながら、カナダのノヴァスコシアあたりの伝統音楽はアイルランド色が濃くて、ゲール語を理解する住民もけっこういるらしい。というわけでわたしも飲もう(笑)。Slàinte! 

*…モリスの著書The European Discovery of America: The Northern Voyagesには「聖ブレンダンとアイルランド人 A.D.400-600」と題して、北米大陸発見との関連でブレンダンと『航海』が紹介されています(pp.13-31)。

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