2009年05月10日

聴きくらべてみました

 …本題に入る前に、いまさっきNHK-FMで聴いていた「N響定演」のライヴ。ムストネンの「三つの神秘」とベートーヴェンの「ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61」のピアノ編曲版に、シベリウスの「交響曲 第6番 ニ短調」と「フィンランディア」。指揮はシベリウスとおんなじフィンランド出身のオッリ・ムストネンという方。この人はピアニスト出身の指揮者で、いまベートーヴェンのピアノ協奏曲全集を「弾き振り」で録音している最中だという。でもなんといっても驚いたのは、番組最後にかかったムストネンさんのCD。なんとベートーヴェンに、「アイルランド民謡『聖パトリックの日』による変奏曲 作品107第4」なる小品があった! まるでベートーヴェンらしからぬ、ほんとうにチャーミングでウィンクでもしているかのような愛らしいピアノ曲でした。ベートーヴェンってたしか以前、「ベスト・オヴ・クラシック」でやはりアイルランド民謡に取材した弦楽合奏作品を聴いたことがあり、ベートーヴェンのアイルランド音楽好き(?)にも興味津々です。

 本日はLFJ疲れ(?)なのか、なにもやる気が起きなかったので、Naxosの音楽ライブラリーで取り急ぎ「フーガの技法」聴きくらべをして過ごしてました。といってもさすがに全曲再生、というわけにもいかず、カノンなどは除外して気に入ったフーガのみ適当に選択して聴きました。検索結果リストにあれかこれかと食指がそそられましたが、まずは旧東独の重鎮、ヨハネス-エルンスト・ケーラーの弾くオルガンによる「フーガの技法」から。さすがに端正で真摯な演奏、レジストレーションも奇をてらったところがなくて個人的にはひじょうに好印象(いま独語版Wikipediaを見たらヴァルヒャの亡くなった前の年に亡くなっていた)。とくに'Contrapunctus 9'が好演。ヴァルヒャのような、ちょっと重苦しいところは微塵もなくて、まるでグールドのような丁々発止といった演奏でその若々しさに驚いた。長ーく引き伸ばされて定旋律のように聴こえる基本主題を足鍵盤で弾いて際立たせている処理もよかった。また、カナダのオルガニストでチェンバリストのベルナール・ラガセという人の演奏盤ページを見てみると、なんとこの方、「平均律 第一巻」と「ゴルトベルク」までオルガンで弾いているじゃないですか! 「フーガの技法」も悪くはなかったけれども、こっちのほうが印象が強かった。「フーガの技法」では、Contrapunctus 7が、やはり定旋律よろしく長ーく引き伸ばされた変形主要主題を足鍵盤の軽いリード管で弾いていてよかった。ちなみに「未完フーガ」は239小節目冒頭の三和音をコーダとして弾いてそこで終わらせていました。使用楽器はどこのなんというものかわからないけれども、音高はほぼ現代ピッチでした(オルガン演奏盤はどれもほぼ現代ピッチでした)。「音楽の捧げもの BWV.1179」の「3声のリチェルカーレ」も聴いてみましたが、チェンバロで弾くのが一般的なこの曲もたまには気分を変えてオルガンで聴くのもいいですね。「音楽の捧げもの」では、イタリア・ミラノ生まれのアレッシオ・コルティという奏者がやはりおなじくリチェルカーレ(3声と6声)をオルガンで弾いていました。こちらも負けてませんでしたね。オルガンではいまひとりハンス・ファーイウスという人の盤も聴いてみました。出だしの「四声単純フーガ」では柔らかい音色のストップを使用して、ときたまさりげなく装飾音を入れたりしてました。「未完の四重フーガ」第二主題部のときにもちょこっと装飾音を追加していました。また'Contrapunctus 7'では拡大された変形主要主題を足鍵盤の軽いリードストップで弾いて、聴き取りにくくなりがちなこの「拡大主題」をくっきり際立たせていましたね(おんなじような弾き方をしている奏者としてはほかにタヘツィとかもいます)。この中から自分の趣味趣向にぴたり合う盤をどれか選ぶとしたら、ケーラー盤とラガセ盤でしょうか。コルティとファーイウス盤は残念ながら次点、とはいえこれは個人の趣味の問題なので、こっちもすばらしい録音であることには変わりありません。次点にした理由は、たんにテンポと音色・音量の選択がやや気に入らなかった、ただそれだけ。とくに9番目の「二重フーガ」は、弱々しい音色より力強いプレーノ構成のほうが好き(ただしあんまり重々しくてわんわんやかましいのはよくないけれども。テンポについて言えば、Naxosから出ているリュプサム盤2枚組は楽器選択に難あり、そして全体的にテンポが遅すぎ)。
 
 チェンバロ演奏盤ではLFJ会場でも試聴したロバート・ヒルとセバスティアン・ギヨーを聴いてみました。ヒルのほうは全体的にきびきびと快速テンポ、きわめて歯切れのいい演奏(12番目の「鏡像フーガ」は聴いたなかではたぶん最速。後述のクラヴィコード盤も速かった)。'Contrapunctus 7'ではずいぶんと装飾音を入れて弾いてます。ただでさえかったるい(?)複雑なフーガなのに、余裕綽々ですね。使用楽器は鍵盤の幅の詰まった楽器なのかしら? 最後の和音をアルペッジョ風に処理したのもいいですね。ギヨー盤はさらに快速、曲の配列もちょっと変わっていて、4つの二声カノンがフーガのあいだにはさまれてます。これはこの演奏盤が「初版」ではなくて、「ベルリン自筆譜 P200」版にもとづいているからこのようなちょっと異質な曲順になっています。自筆譜版なので、たとえば'Contrapunctus 1'とか'10'なんかはかなり曲の印象がちがいます('1'では最後のテノールの主題の入りがなくて、'10'では12小節目から、ソプラノに現れる転回された変形主要主題から唐突にはじまる)。このCDは銀座の楽器屋にもあったので、「自筆譜」にもとづく「フーガの技法」を聴いてみたい! という方にはおすすめ。
 
 またクラヴィコードでこの大作を弾きこなしている人もいてこちらもちょっと驚き。たしか銀座の楽器屋にもそんなCDがあったけれども、そちらは邦人演奏家による盤。ここで聴いたのは1953年生まれの米国人奏者、リチャード・トレーガーによる演奏盤。出だしではクラヴィコード特有のこもった音色とあのビョ〜ンという残響に少々戸惑ったものの、何曲か聴いているうちに耳が慣れてきた(笑)。この人の演奏も好感がもてました('7'がずいぶんせっかちでしたが)。使用楽器はレプリカなのか本物の時代楽器なのかわかりませんが、音高は現代ピッチでした(チェンバロ盤はどれもほぼ半音低かった)。そしてこのクラヴィコード盤、「未完フーガ」を独自の補筆完成版として録音しているのもおもしろい特徴です。いままでヴァルヒャ、モロニー、ロッグと補筆完成版を聴いてきましたが、こちらもいいですね、気に入りました。それにしても、バッハはどんなふうに曲を終えるつもりでいたのだろうか…ある人が書いていたみたいに、終結直前で一、二度「基本主題」と結合してさらりと終わらせるつもりだったのか、それとも一度四つぜんぶ組み合わさったあと、しばらく進んで偽終止して、そして最後に結合されてこの壮大なフーガを閉じるのであろうか…。そしてクラヴィコードの中声域って、ときおりなんだかギターのようにも聴こえます。ああそういえばだれだったかギター一本でこの大作を録音した人がいましたね。そっちはあいにく聴いたことがないけれど…と、ポケットスコア片手にメモりながらえんえん「フーガの技法」ばっかり聴くのもだんだんくたびれてきたのでそろそろ寝ます(笑)。

 …そういえば日曜夜の「ビバ! 合唱」。たいていハンガリーとか東欧の合唱団ものがかかったりしていますが、ようやく(?)英国の少年聖歌隊が登場ですね。キングズカレッジにオックスフォードのニューカレッジ、ウィンチェスター大聖堂聖歌隊も出てくるので、こっちも楽しみ。

posted by Curragh at 00:10| Comment(2) | TrackBack(0) | 音楽関連
この記事へのコメント
Curraghさん、ききくらべ、お疲れ様です。
NMLは、未知の演奏をチェックするなど、わたしはけっこう重宝しています。ただ、解説や歌詞のたぐいがほとんどないのが残念。広く浅くききたいかたには、NMLはとてもよいと思います。
ただ、わたしは、そのあたりが気に入らなくて、全曲きける壮大なサンプラーとして使い、未知の演奏で好きなものがあれば、そのCDを購入するようにしています。せめて、録音や使用楽器などのデータがあれば、と思ってしまいます。
Posted by aeternitas at 2009年05月10日 20:23
aeternitasさん

コメントありがとうございます。いまはNMLのほうはちょっと一休みして、日曜深夜の定番(?)、BBC Radio3の'Choral Evensong'を聴いているところです。

たしかに使用楽器さえ一言の言及もなしで、毎月お金を取れられるとなると、ちょっと考えてしまいますね。気に入ったものはどのみち買わなくてはならなくなるし、やはり無料会員として登録しておくのがいちばん得策ですね。たしかに「薄く広く」渉猟するには最適かと思いますが、有料会員向けのサービスにはせめて録音・使用楽器などのデータくらいはほしいですね。同感です。ケーラー盤やヒル、トレーガー盤、そしてお奨めのムジカ・アンティクァ・ケルン盤ですね。ラインハルト・ゲーベル率いるこの団体は「バロックの森」でもおなじみですが、そういえば「フーガの技法」は聴いたことがありませんでした(ケラー弦楽四重奏団盤はもってます)。以上のディスク、なるべく今月中に入手するつもりではおります(笑)。
Posted by Curragh at 2009年05月11日 01:00
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