2007年01月02日

アイルランドゲール語がEU公式言語に

 Irish Gaelic(Gaeilge)、アイルランドゲール語が今年の元日から晴れてEUの21番目の公式作業言語になった、という一報をBBCのサイトではじめて知りました…ご当地アイルランドの新聞社サイトを見たら、これは2005年6月にすでに決定していたらしい。なお公式作業言語 official working language というのはEUの「公用語」ではなくて、たとえば欧州議会で可決された主要法案がアイルランドゲール語に翻訳されたり、EU関連業務に応募するさいアイルランドゲール語でもOK、という実務レベルでEU各国で通用する言語になった、という意味。とにかくこの話はまるで知らなかった。またBBCの記事によるとアイルランドゲールとともにルーマニア語とブルガリア語も元日から公式言語として扱われるということでこれはめでたいことではないですか。ちなみに英語が主語+動詞…という語順であるのにたいし、アイルランドゲール語は逆の動詞+主語…の順番みたいです。こちらのアイルランドのサイトに、ちょっとした日常会話文例集が掲載されていました。

 日本人はとかく「一国=一言語」のような誤った先入観をもちがちです…もちろん現実はそんなに単純ではなくて、公用語がいくつもある国のほうが多い。各民族ごとにしゃべることばがまちまちという多民族国家のほうがはるかに多いわけで、日本みたいな国はほとんど例外的といってよいと思う。イタリアやドイツだって各地方に固有の言語があります(フリウリ語やラディン語、シュヴァーベン語テューリンゲン・オーバーザクセン語など)。でもこれらは独立言語というより地方方言といったほうがいいので日本ではたとえば「ケセン語」みたいなものかな…とこれは勝手な妄想です。

 アイルランドゲール語は1800年の英国併合後に使用人口が激減したり、その後の「ジャガイモ飢饉」で大量のアイルランド国民が北米大陸へと移住したせいもあって壊滅的打撃を受けたという歴史があります。1922年にアイルランド自由国として独立後、本格的な復興がはじまるのですが、それでもアイルランドゲールを話す国民の割合はいまだに全人口の半分にも達していませんし、日常的にしゃべっている人の数はさらに少ないのが現状のようですね。

 アイルランドゲールを話す国民が集中しているのがいわゆるゲールタハト(Gaeltacht)と呼ばれるアイルランド西海岸地域(北よりのドニゴール地方もふくむ)に限定されます。アイルランドで学校の教師になるにはこのゲールタハトへ行ってアイルランドゲール習得のための言語研修を受けなければならないという話を読んだことがあります。でも道路標識とかは英語併記がふつうですし、強いアイルランド訛りがあるとはいえ、大多数の国民は英語話者です。Irish Times新聞社サイト記事にも書いてあるように、EUの公式作業言語になったからといって手放しでは喜べないのがアイルランド国内の現状です(記事中のTDという略記はアイルランド下院議員の意。Fianna Fáil [フィアナ・フォイル]は「共和党」のこと)。

 おなじ島国でありながら、この点では日本語(および日本人)はほんとうに恵まれている。敗戦直後GHQに占領されたとき、志賀直哉がやけっぱちになって「いっそフランス語にしちまえ」と言った…という話を読んだことがありますが、いくら当時の困難な状況を考えてもこれはとんでもない放言ですね。アイルランドでは伝統的なダンスさえ禁じられていたときもあり、英国人憲兵に窓越しに見られてもそれと悟られないように上半身は動かさず、足だけでステップをとって踊っていたという話もあります。

 BBCの記事によるとなんとカタルーニャ語とガリシア語、バスク語はEUの半公式作業言語になっているらしい…いわゆるスペイン語と言っているのはカスティーリャ語のこと。「言語の多様性」を重視するEUの姿勢はすばらしいと思います(ただし極端な原理主義同様、偏狭なナショナリズムに陥らないようよくよくの注意が必要ですが)。

 …アイルランドゲールでふと思い出したのが、トマス・ムーアが編んだ『アイルランド歌曲集』に収められた詩のひとつ、'The Last Rose of Summer' (「庭の千草」)――そしてこの哀愁に満ちた旋律を歌うBACのエドワードの歌声も。バロウズ家のご先祖もアイルランド系みたいですね。

 …そういえば、年末、サイト関係でお世話になっているアイルランドの古地名に詳しいトラリー在住の考古学者、Breandán Ó Cíobháin 先生宛てSeason's Greetings を出したら、返信になんと「いま、日本人の若者がホームステイしているよ」!! なんでもこの若い方はアイルランド古謡に興味があるんだとか。で、アイルランドゲール語を勉強しにゲールタハトのひとつディングルに来たらしい。

 …伝統漁船カラフにも乗せてもらえるといいですね。帰国されたらわたしにもぜひアイルランドゲール語を教えてほしい…と言ってみる

この記事へのコメント
ネットの普及によって新たな国境(?)が生まれる。それを分けるのは地理的環境ではなく、言語的環境である。とは最近よくあちこちで語られる説ですね。
だから日本は取り残される。という結論がお決まりです。英語を第一言語としないまでも『日常的に理解できる』人々と『日常的にも理解できない』人との格差はでるでしょうね。
でも、ぜんぜん悲観しないのは、だからこそ『秘密のコミュニティ』を作りやすいという、お楽しみもあるのですね。
その昔、エスペラント語をかじった時に「少数派言語で遊ぶ喜び」を知ってしまってから古代文字を含む少数派言語が面白い!と思うのでした。
いっそルーン文字も公用語に・・・・
Posted by 邸主 at 2007年01月03日 20:10
邸主さま :

今年もよろしくお願いします!

いま欧州ではラテン語が復興しつつあるみたいで…でもいまだにラテン語までカバーするオンライン辞書が見当たらない(自分が知っているのは米国ノートルダム大学のサイトだけ)ので、このへんもうすこしなんとかなるとたいへんありがたいのですが…。

ルーン文字で思い出しましたが、講談社現代新書から刊行されている『英語の歴史』という本の177ページに、ルーン文字の彫られた石造十字架の写真が掲載されています。
Posted by Curragh at 2007年01月03日 22:01
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