2009年05月24日

氷河溶解が引き起こしたこと

 ここ百年来、急激に進行した地球規模の気候温暖化のために、北極の海氷をはじめ、世界各地の氷河が急激に溶けているということは、いまや子どもでも知っています。その結果、南太平洋のサンゴ礁の島々が水没の危機に瀕しているということも知っています。ところが、これとは逆に、氷河が後退したために「海水面が後退した」という場所があるのです。

 この取材記事を見て、正直驚いた。以前、なにかのTV番組だか、雑誌だかに書いてあったことがいまこうして現実に起きていると思うと、背筋の寒くなる思いがする――それもこちらの予想をはるかに超えるスピードで進行中というから、さらに不気味である。どういうことか、というと、記者さんがひじょうにうまい譬えを使ってこう書いています。

Relieved of billions of tons of glacial weight, the land has risen much as a cushion regains its shape after someone gets up from a couch. The land is ascending so fast that the rising seas ― a ubiquitous byproduct of global warming ― cannot keep pace.

アラスカ州州都のジュノー近辺で起きている「異変」とは、氷河という「重し」がなくなった陸地が急激に隆起し、その速さゆえ海水面がどんどん後退している、ということです。話には聞いていたけれども、いざここまでvividに書かれた記事を目の当たりにすると、ほんとうに恐ろしい気がする。もっとも専門家によれば似たような現象はここ200年でグリーンランドとかでも起きている…と言ってますが、ジュノーとその近辺ほど隆起が急激な場所はないとのこと。ジュノー近郊ではメンデンホール氷河などが毎年9m以上(!)も後退し、その結果、おそらくだれもいまだかつて経験したことのない猛烈な勢いの「隆起」と海岸線の「後退」を経験しているという。2007年にはジュノー市長主催の専門家会議が開かれ、「史上最速の速さで」海岸線が後退している事実をふくめ、今後の予測を盛りこんだ報告書が作成されています。

 記事に出てくるゴルフ場オーナー一族が移り住んだグレイシャー湾付近のGustavusという場所は、半世紀前には海の底だったという。それがいまでは陸地化して、結果的に地所が海側へ「広くなった」ので、いまはそこで9ホールのゴルフ場を経営しているという。土地はいまも隆起しつづけているので、将来的にはさらに9ホール増設するつもりというけれども、「あたらしく出現した土地」の一部を自然保護区とすべく、もっかNGOのNature Conservancyと協議中だとか。そして米国地質調査所の地質学者ブルース・モルニア氏によると、まさにこの近辺の土地が北米大陸でもっとも隆起の急激な地域だという――その速度は年間約3インチ、というから一年になんと8cm近くも土地が盛り上がっていることになる(ちなみに駿河湾ではフィリピン海プレートの沈みこみで、陸側のユーラシアプレートが年平均3cmくらい西北西に移動しているらしい)! このように土地が増えた分、「境界線をどうするか」というある意味避けては通れない俗っぽい問題も出てきているけれども、やはり自然環境の急激な変化と固有種の絶滅がいちばん危惧されます(とくに4000エーカーもの野生保護区域の大湿地帯)。海水面が下がる、ということは地下水面も下がり、小川や湿地が干上がり、消滅することでもある。そうなるとアラスカの自然の代名詞とも言うべきsalmon――鮭にも影響が避けられない、とジュノー市長ブルース・ボテリョ氏は危惧する。また氷河溶解とともにかつて氷河が削り取った大量の土砂が海まで運ばれてガスティノー海峡に堆積するという問題も発生している。メンデンホール氷河から流れ下った堆積物は海峡を埋め立て、干潮時には海峡がほとんど干上がってしまうありさま。このままではジュノーの反対側にあるダグラス島もいずれは陸続きになると、専門家会議報告書の執筆者のひとりが言う。最新の水路図をもたずにやってきたシーカヤッカーは、へたするとすっかり干上がって草ぼうぼうの浅瀬で艇を運ぶはめにもなりかねない、そんな場所まであると言うのです。

 またこの地域は日本もふくめた環太平洋の「プレート沈みこみ帯」の一部でもあるので、沈みこみ運動によってさらに隆起が加速されていると見ている研究者もいる。太平洋プレートが北米プレートに沈みこむにつれ、ジュノーとトンガス国有林あたりがさらに隆起するという。地殻変動も加えたこの地域の今後の隆起量は予測不能だというから、ちょっと末恐ろしい気がする。「沈みこみ」ということでは、大陸側プレートは氷河の重しが消えていくぶん軽くなっているわけだから、「プレート境界型」大地震の発生間隔が早まったりはしないのだろうか。このへんもちょっと気になる。

“When you combine tectonics and glacial readjustment, you get rates that are incomprehensible,” Dr. Molnia said.

 地球温暖化の影響を昔の写真といまの写真とならべて実感させる写真集とか売ってますが、写真というのはこういうときに力を発揮しますね――そういった「物言わぬ」被写体を見ていると、どうひっくり返ってもここ百年の急激な温暖化は、われわれ人間の経済活動が原因としか言いようがないとやはり感じます。かつてウェンデル・ベリーの本にも書いてあったけれども、「自分はみんなとおんなじように生活しているだけだ」という意識ではもうダメだということ。温暖化問題は、ひとりひとりが真剣に考えなくてはなりませんね。その点、いまの若い人に広がっていると言う「3ない消費」というのは、定着すればとてもすばらしいことだと思う。もっとも昔ながらの幻想――「大量消費型経済」でなければ景気が良くならないといったような考え方――は、いいかげん捨てなくてはならない。自然環境と折り合いつけた「持続型経済」へと根本から作り変えないといけない。われわれの未来は、この危機を乗り越えられるかどうかにまさにかかっているのではないかと思います(地球気候については、自然変動分というのもあるから、年によっては暖冬ではなく寒冬だったりする。ちょうどセヴェリンがブレンダン号航海に乗り出していた1976-77年は、北半球では世界的に猛烈な寒波に襲われた。そういえばそのころはよく水道管が凍ったし、珍しく雪も降った。また関係ないけれども、当時はいまとは逆に「氷河期が来る!」みたいな本がよく売れてもいた[苦笑])。

posted by Curragh at 12:23| Comment(0) | TrackBack(0) | Articles from NYTimes
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