2009年06月21日

「N響定演ライヴ」とバッハのオルガンコラール

 今週の「バロックの森」、月曜の朝にはバッハのカンタータ第一番、「輝く暁の星の麗しさよ BWV.1」がかかりました。これは1725年3月25日の「受胎告知日(Annunciation of Blessed Virgin Mary, ローマカトリックでは「神のお告げ」)」に初演されたと言われているもの。水曜日はハンブルクで活躍した作曲家の特集でして、シャイデマンのオルガン独奏用の「前奏曲 ニ短調」。朗々とした輝かしい音色が美しい小品でした。木曜日にはミシェル-リシャール・ドラランドの「怒りの日」がかかりました。ドラランドの声楽作品じたい、ぜんぜん知らないから、聴けてよかった。「怒りの日」はもとは中世のセクエンツィアで、フォーレの「レクイエム」では「怒りの日」のテキストこそないけれど、本来一部をなしていた「慈悲深きイエスよ('Pie Jesu')」のみ、なんとも言えない天国的な美しいソプラノ独唱用として作曲しているのは有名ですね。英語版Wikipediaによると、「怒りの日」の作者はチェラーノのトンマーゾという13世紀のイタリア人フランシスコ会士らしい(チェラーノという町はラクイラ県にあるから、この前の地震の影響はどうだったのか、ちょっと気になるところ)。

 けさの「リクエスト」もドラランドの「テ・デウム」がかかったりしましたが、ドラランドと同時代人だったフランソワ・クープラン(大クープラン)のクラヴサン曲集第二巻から「昔の偉大な吟遊詩人たちの年代記」というのもかかりました。こちらは中世に隆盛を誇った吟遊詩人たちが、いまやお役御免になって宮廷の寵愛を失った自分たちをかつてのように取り持っておくれと懇願した事件があり、クープランが彼らを動物や鳥になぞらえて皮肉ったという当時の時代背景が透けて見えるような作品でした。ときのルイ王朝の宮廷音楽を牛耳っていたのがリュリとかクープラン、ドラランドといった音楽家だったから、彼らにしてみれば吟遊詩人連中は商売敵、いまやわれわれの時代なのだと誇示したかったのでしょう。とはいえそんな宮廷音楽家の華々しき時代も過ぎ去って、1789年7月14日を境に彼らもかつての吟遊詩人同様、没落の道をたどることになる。以前ここにもすこし書いたけれども、いちばんいい例がマリー・アントワネットのお付きのクラヴサン教師だったクロード・バルバートル。フランス革命後はほんと、流転の人生だったようです(→拙記事)。

 フランス革命後の混沌とした時代に生まれたのが今年没後200年のハイドン。きのうの「名曲のたのしみ」では、ハイドンの少年時代の話とそのころ作曲したという「小ミサ ヘ長調 Hob.22-1」がかかりました。合唱は名門オックスフォード・クライストチャーチ大聖堂聖歌隊で、指揮はこれまた著名なオルガニストにして音楽学者のサイモン・プレストン。はじめて聴く作品だったので、とても興味を惹かれました。こちらの「小ミサ(Missa Brevis)」、キリエからアニュス・デイまでいちおう「ミサ通常文」通作ですが、ひとつひとつの規模がひじょうに小さいので、それで「小ミサ」という曲名なんだろうか(「小ミサ」はクレドのないものを指す場合が多いが、バッハの数曲ある小ミサ曲のようにルター派では「キリエ」と「グロリア」のみの構成になったりする)。少年ハイドンは美声の持ち主で、弟のミヒャエルとともに当時のシュテファン大聖堂聖歌隊で「宮廷付属聖歌隊」、のちのウィーン少年合唱団とともに歌っていたそうですが、変声すると、とたんに追い出されたという。なんともひどい話! 一時は野宿生活なんてこともあったらしい。またハイドンは8歳か9歳くらいでウィーンに旅立って以後、生まれ故郷に帰ってくることはついになかったという。

 それからもうひとつだけ。水曜の夜の「第1651回N響定期公演」ライヴ。急遽ピンチヒッターで登場したロシアの名ヴァイオリニストのヴァディム・レーピン氏によるラロの「スペイン交響曲 ニ短調 作品21」は絶品! でした。アンコールでも――たいへんむつかしいと言われる――第二楽章を再演したりと余裕ですね! ファリャ、ラロとドビュッシーにラヴェルと贅沢なプログラムだったと思うけれども、この生中継番組の最後にかかるテーマ曲(?)がこの春から変わりました。バッハのオルガンコラール前奏曲「おお人よ、汝のおおいなる罪を嘆け BWV.622」ですね。これはもちろん、有名な「オルガン小曲集」にある一曲で、この曲集中、もっとも大きなコラール編曲です(といっても演奏時間にして5分くらいですが)。16世紀の宗教詩人ゼーバルト・ハイデン作の原歌詞は「マタイ」にも出てくるから、聴いたことがあるという向きも多いと思います。とはいえこの「エンディングテーマ」の演奏者はだれなんだろう、気になるな…。

posted by Curragh at 17:20| Comment(0) | TrackBack(0) | NHK-FM
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