2009年07月04日

アイルランドの巨石文化!

 いまさっき見た「世界ふしぎ発見!」。個人的にはひさびさのヒットでした。アイルランドの巨石文化! で、くどいようだがニューグレンジやダウス、ナウスの巨大なマウンド(塚)遺跡とか、バレン高原(リポーターの竹内さんの立っていた壮大な海蝕崖「モハーの断崖」のあるところ)のドルメンとかは、紀元前250年くらいから波状的に上陸して定住しはじめたケルト人の作ったものではなくて、彼らが来る以前から住んでいた先住民族がこさえたもの。ケルト人渡来以前のアイルランド古代史を伝える神話のひとつ『アイルランド来寇の書(Lebor Gabála Érenn)』には、聖書の物語と自分たちとを結びつけるような書き方がされていて、はじめにやってきたのがノアの孫娘のひとりケシルで、その後つぎつぎと神話的種族が攻めこんできては興亡を繰り広げていたという。最後から二番目にやってきたのが「ダーナ神族(Tuatha Dé Danann、「女神ダヌーの種族」)」と呼ばれる神族で、アイルランド各地に残る巨石建造物を残したのは彼らだと言われています。この人たちは、イベリア半島から来たらしいから、ひょっとすると現在、独立問題でもめているバスク人の先祖ともつながりがあるかもしれない(バスク人もケルト系)。イベリア半島とブリテン・アイルランド諸島とは紀元前から交流があったことがわかっています。最後にアイルランドに上陸したのがケルト系の「ミールの息子たち(「ミレシアの息子たち」という言い方もある)」。そういえば「ダグザの大釜」というのが「ダーナ神族」の「神器」のひとつだったようですが、11年前に上野の東京都美術館でそんな伝説を彷彿とさせる「ゴネストロップの大釜」というみごとな遺物を見たことがあります(もっとも「ダグザの大釜」とは直接の関連はないけれども。こちらの「大釜」はデンマークで発掘されたもの)。今回の番組では、この謎多き「ダーナ神族」の残した巨石遺跡にスポットを当てて紹介していたし、なんといってもはじめて目にするものばかりでとてもおもしろかった。有名なニューグレンジ周辺にあるダウス(Dowth、「闇の丘」という意味らしい)とナウス(Knowth、こちらは「光の丘」)のふたつのマウンドについては、文字どおり本邦初公開の映像だったのではないでしょうか。ナウスのほうは、以前ここでも紹介した『巨石/イギリス・アイルランドの古代を歩く』の著者サイトにも写真が掲載されていますが、大きな塚のぐるりをかわいらしいケルン状の「小塚」が18も衛星みたいに取り巻いているという、ひじょうにユニークな遺跡です。ここの羨道取材、よく許可がおりたものだと感心した。なにしろこの手の「古墳(と以前は考えられていた)」型遺跡の内部ってなかなか撮影許可がおりないんですよね…ふつうのスティル写真でも。そしてここナウスの墳丘の羨道は、欧州でも最長だというからさらにびっくり。最奥部はニューグレンジとおなじく、円錐状に石が積み重なっていて、そこだけ天井が高く造られていたのも印象的でした。説明役の巨石文明研究家先生の言われるとおり、たしかにここはまちがいなく天文台的施設だったんでしょうね。日時計まであるし(世界最古らしい)。そしてあのぐるぐるの渦巻き文様。これはキリスト教化されたあともずっとケルト人のデザインとして残って、たとえばケルト十字の円環にも現れているし、『ケルズの書』の随所にぐるぐる渦巻いているのが見られますね。この世の無常を象徴するかのようなあの渦巻き文様、起源をたどっていくと、おそらくダーナ神族が残したと言われるニューグレンジやナウス、ダウス遺跡に見られる渦巻き文様になるんでしょうね(→参考サイト)。

 ストーンサークルやドルメンの中に入るとほんわかして暖かい…ダウジングの金属棒が激しく反応してくるくる回転する…というのは竹内さんにかぎらず、『巨石〜』の著者も、そしてほかの人もたいていおんなじこと言っているから、不思議ではあるけれどもわりとだれでも体験できるみたいです。ワタシもほんわか体験してみたい…。

 それはそうと、メイヴ女王の話まで出てきたけれども、あれってれっきとしたケルトの「英雄物語」伝承ではないかと…「アルスター物語群」のひとつで、英雄クー・ホリンが活躍することでも知られる「クーリーの牛捕り」なんかに出てくる、おっかない女王さまじゃなかったかしら? でも伝説の女傑メイヴって、立ったまま埋葬されていると伝えられているんですね。それは初耳でした。

 …「ミールの息子たち」に征服されてしまったダーナ神族は、体が小さくなって、地上世界を彼らに明け渡すかわりに、自分たちはドルメンなどの巨石建造物から「シイ」と呼ばれる地下世界(異界)へと退いたという…つまりは「妖精」になったという。数多く残っているアイルランドの妖精伝承はここからきています。またおなじくケルト色の濃いブルターニュ半島では海の中に「イスー」という「異界」があると言われています。とはいえ…映画版の『ハリー・ポッター』の魔術の世界と「ダーナ神族」とを結びつけるというのは…いささか飛躍しすぎ? まぁたしかにあとからやってきた「ミールの息子たち」とその子孫にしてみれば、ニューグレンジ遺跡なんか魔術以外の何者でもなかったんだろうけれども…べつの言い方をすれば、新石器時代の欧州各地に巨石建造物を残して消えていった「謎の文明種族」の高度な知識や技術も、ここですべてゼロになって彼らととともに永遠に消滅してしまった、ということ。ここで過去の記憶にひとつの大きな断絶があったわけですね。それゆえケルト人たちには彼らがどうやってこんな巨大な建造物を造ったのか、まるでわからなかった。またガーゴイルの語源についてはおもしろかったけれども(「うがい」して体から禍々しいものを出すということですね。もとは古フランス語の「のど」から)。たしかにあれ、アイルランドや英国のみならず、欧州大陸各地の大聖堂にはかならず「雨どい」としてガーゴイルたちが乗っかってますね。「グリーンマン」についてはケルト起源というよりは古代ローマ起源説をとるけれども、ガーゴイルの起源はどうなんだろ? こちらを見るとどうも古代地中海地方起源みたいですけれども…。

 20年ほど前にNHK教育で放映された「幻の民 ケルト人」というBBCのドキュメンタリーで、案内役のフランク・ディレイニーがゴルフ場の電動カート(?)みたいな小型乗用車に乗って、でっかい赤い風船を追いかけるシーンがありまして、「'Celtic'ということばはつかみどころがない」というようなことを言ってました。「ケルト的」と言われていたものが、捕まえてみたらじつはそうではなかった、というのはわりとよくあることだったりする。「ケルト的」ということばには注意する必要があります。

この記事へのコメント
Curragh さん

日立のこの回は、とても興味深いものでした。
ケルトに関心を抱いてきた小生ですが、その前の神話の時代が今や歴史の中に姿を見せつつあることに、視野を広げてもらった思いです。

Curragh さんのこの記事は、とても優れたもの。
この記事を最初に見て、自分が書く意味がなくなった…なんて感じてしまいました。

とにかく、とても参考になりました。
Posted by やいっち at 2009年07月13日 00:32
やいっちさん

コメントとTB、ありがとうございます。

自分はブログを書くよりも、人様のブログをあっちこっち見て回るのが好きなのです。おなじ話題でも書く人それぞれの視点が感じられておもしろいし、またときおりはっとさせられたり、膝を叩きたくなるようなみごとな書き方とか言い回しがあったりで、とても刺激になりますし勉強にもなります。もっともヘンテコなブログ「もどき」みたいなものもだいぶ多くなってしまいましたが…。

ケルト神話に興味がおありのようなので、いま自分が図書館から借りている本のこともすこし紹介しておきますね。名著普及会刊行の『世界の神話伝説体系41・アイルランドの神話伝説I/II』という本なんですが、古代アイルランドの伝承文学とかけっこう細かく書かれていて、おもしろいです。
Posted by Curragh at 2009年07月13日 23:02
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「消えた魔法の民ダーナ神族」の周辺
Excerpt:  昨夜、「日立 世界ふしぎ発見! アイルランド 消えた魔法の民ダーナ神族を追う」
Weblog: 壺中山紫庵
Tracked: 2009-07-07 00:06