2009年07月20日

ペツォルトとバッハ

 いま「気まクラ」の再放送を聴いています。「キアーロ!」コーナーにて、「アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帖」に収録されている超有名な「ト長調のメヌエット」がかかりました。で、これは――いや、これも、か――じつはバッハの作品ではなくて、他人の作品。ということは知っていたけれども、真の作者がバッハより8つ年上の同時代人クリスティアン・ペツォルトなる人だった、ということをいま知った。ついでだからとさっそくWikipediaをのぞいてみたら、ありました。ほえ、『完全な楽長』のマッテゾンからも絶賛されていたみたいですね。なのに現存する作品というのがこれと、チェンバロ協奏曲とカンタータ一曲ずつというのは、なんとも残念な話ではあります。どこかの図書館から出てくることを期待しますか。ところでライプツィッヒ時代後半、1730年代以後、バッハは度重なる市当局との衝突で、トーマス教会での職務にも嫌気が(?)さしていた(人間だから、いやになっちゃう気持ちはよくわかります)。かわりに「コレギウム・ムジクム」活動に熱を入れていたりしていたものだから、減俸処分まで喰らうしまつ。使用者側から言わせれば、反省するどころか教会音楽はこうあるべきだ、みたいな上申書まで提出して、職責の一部であるトーマス学校の生徒にラテン語を教えるということさえ、ペツォルト学士に「丸投げ」している。とにかくバッハの態度はなってない、とこんな感じ。で、ここで出てくるペツォルト学士なる若い人は、年上ですでに高名なオルガニストだったペツォルト氏とはたぶん、関係ないのだろうと思いますが、思い出しついでにいちおう書いておきます(笑、とくに意味はなし)。

 けさの「バロックの森」ではアンドレア・ガブリエーリのオルガン独奏用の「カンツォーナ」という作品もかかりました。はじめて聴いたけれども牧歌的な感じのカンツォーナでしたね。カンツォーナはその名のしめすとおりもとは「歌」ですけれども、器楽曲に転用されてからはチェンバロとかオルガンとかの独立した楽曲として、たとえばフレスコバルディとかが書いています(1635年刊行の『音楽の花束』、または『トッカータ第二集』とか)。バッハも一曲だけ、オルガンのためのカンツォーナ(BWV.588)を残していますが、バッハの時代にはすでに時代遅れの古臭い楽曲形式になっていた。形式的には同一主題がはじめ二拍子、経過句をはさんでおんなじ主題がこんどは三拍子に転じて現れるフーガ(リチェルカーレ)です。先人のフレスコバルディの場合、対位主題(対唱)をそなえた複雑かつ技巧的なものが多いですね。「対位主題」というのは、たとえばオルガンのための「パッサカリア」後半部フーガ主題や、「フーガの技法」の3番目のフーガみたいに、メインの主題に寄り添うようにくっついている独立した対位旋律のこと(→カール・リヒター演奏による「パッサカリア」後半部分)。

 …いま放送では村上春樹さんの最新作のことが話題に上がってますが…へぇ、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団によるヤナーチェクの「シンフォニエッタ」って、小説冒頭から登場するのですか。驚いたのは、リスナーの方によると、CD屋さんに行っても売り切れてないんだそうだ。とくにジョージ・セル盤が。Amazonならありそうな気もするけれど、村上さんの本ってすごいなあ。そうそう、いまおもしろい本を読んでいるのですよ。ちょっと古いんですけれども『翻訳夜話』っていう本で、名翻訳家の柴田元幸氏との共著。図書館で借りたんですが、とにかくpage-turner、読みはじめたらとまらない。いちいち目からウロコ状態です。とくに文芸翻訳を志している方には必読書だと思いますよ。贅沢にも両氏によるカーヴァーとオースターの短編の「競訳」まであって、しかも原文まで併載されている。これはもうすぐれた翻訳指南書と言ってもいいと思う。カーヴァー作品をはじめて原文で読んだけれども、ミニマリズムというやつですか、ひじょうに簡潔で歯切れのよい文体で書かれていました(おっと、ミニマル音楽ではけっこう知られたライヒの'Electric Counterpoint'もかかってましたね)。

 …今日は「海の日」ですが、40年前のこの日、人間がはじめて月に降り立った歴史的な日でもあります。先日地元紙を見たら、「静かの海」に残された月着陸船「イーグル」の残骸の写った写真が掲載されてました。いまだに「あれはやらせだった」みたいなことを言っている人が米国にいるということにも驚くけれども…。

posted by Curragh at 09:01| Comment(0) | TrackBack(0) | NHK-FM
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