今日は節分…ついこの前元旦だと思ったらもう2月か…。きのう2日はローマカトリックでは「主の奉献」日、かつては「聖母マリア御潔めの祝日」と呼ばれていた日で、英語での別名は「ろうそくのミサ(聖燭祭) Candlemas」。じつはこれケルトと関係があったりします…2月1日は「ゲールの聖母マリア」とも称されるアイルランド第二の守護聖人、聖女ブリジッド(ブリギッドまたはブリード Brigid, c.456-c.516)の祝日。ケルト古代神話に出てくる知恵・牧畜・炎の女神ブリードまたはブリガンティアと同一視されたりする、なかば伝説上の女子修道院長です。アイルランド教会の「聖女」については8世紀ごろに編纂された『ケーリ・デ、オエングスの教会暦』によると総勢120人はいるらしいのですが、伝記として現存しているのはブリジッドもふくめて4人のみ。『聖ブリジッド伝』としては6つが現存していて、最古のものは7世紀に書かれたとも言われています。研究書でよく引用されるのは2番目の伝記で、コジトスス作とされるもの。コジトスス版では、ブリジッドは聖パトリックの友人でもあったらしい…とはいえこれは年代的にどう考えても無理があるけれども…。クロンファートのブレンダンを教育した乳母イタ(祝日1月15日)もこの4人にふくまれています。2月2日はもともとインボルグという春の到来を祝うお祭りの日で、光と火の女神ブリジッド(ブリード)に捧げられた祭りだったらしい。具体的にどんな経緯でカトリックの祝日として取り入れられたかは知りませんが、言ってみればサヴァン祭のようなものかな。こちらはハロウィーンとしていまも残ってますし。よくキリスト教は異教徒に不寛容…と言われるけれども、原始キリスト教の時代は当然のことながら欧州は異教徒だらけ、ラテン文明圏の教父にとってまさに暗黒世界というか、野蛮人か人食い民族の世界にひとしいものだったので、それなら異教徒のシンボルや祝日を抱きこんだほうが得策だし改宗もさせやすいと考えたのはむしろ当然ななりゆき。じき40日のLentに入り、今年は4月8日に復活祭となりますね。あのEaster Eggも本来はキリスト教とは無関係のものですが、「生命再生のシンボル」として、いわば万国共通の卵を組み合わせたところがミソなのでしょう。あ、そういえば今月14日のSt Valentine's Dayなんかもそうか。ヴァレンティヌスという名の殉教者はふたりいて、ひとりはローマの司祭、もうひとりはテルニの司教だった人。そして「小鳥たちが愛を交わす日」という民間伝承ではそれが2月14日ということになっているらしい。その連想、というかうまいこと利用して、「恋人の守護聖人」の祝日になったようです。ちなみに英国における「恋人たちの祭」としてのヴァレンタイン・デイは、『カンタベリ物語』で有名なチョーサーの時代にはすでに存在していたらしい。
聖ブリジッド…というと、10年ほど前に見た「フィオナの海」というアイルランド映画の一シーンを思い出します。孫娘フィオナを引き取って育てている老夫婦の家で、おばあさんがかまどの火を消す場面。聖ブリジッドへの祈りを唱えながら火を消すのですが、これもおそらく異教時代の火祭の名残りかもしれません。聖ブリジッドの設立した女子修道院キルデア(Kildare、もとはCell Dara, 「樫の樹の教会」の意)では、ブリジッドが召されたあと、修道女たちが「ブリジッドの火」を絶やさず燃やしつづけていたというから、「火をつかさどる女神」の祭のかがり火→聖女ブリジッドに捧げる祭→教会暦採用…なんかなと妄想しております。ちなみにギラルドゥス・カンブレンシスも有名な『アイルランド地誌』で、この「キルデアのかがり火」について書き残しています(邦訳は青土社刊、「第34-36章」参照)。とはいえこのおばあさん、じいさんのことは「この迷信深い老人が('Superstitious old man!')」なんて毒づきながらかまどの灰を棒でかき混ぜて火を消しているんですが、そういう自分もブリジッドのことを引きあいに出しているくせに…なんて思ってしまった。
西の最果ての島国では「光の春」を祝う火祭、かたや東の最果ての島国では「節分」。…いずれの場合も冬から春への季節の変わり目を重視していたわけで、よく言われることだけれどもアイルランド(ケルト)と日本の古来からの風習にはこうした類似点がすくなくないですね。だからこそ親近感を感じるのかもしれませんが。
「ろうそくのミサ」にもどると、ローマカトリックの公式解釈ではもちろんブリジッドうんぬんは関係なくて、「ルカ福音書」の有名な「シメオン賛歌 Nunc Dimittis(2:22-35)」から。「あなたは異邦人を照らす光」ということばを記念してろうそくをともす、ということが起源になっています(→参考ページ)。
2007年02月03日
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