2009年10月17日

新聞週間に合わせたわけではないが

 15日からはじまった毎年恒例の新聞週間(知らない? さては新聞、読んでませんな)。いままで書いた記事でも「地元紙」ネタが数多く出てきますが、自分は印刷媒体・活字メディアの新聞というものはぜったいに必要なものと考えています。理由は基本的にラジオとおんなじでして、「いろんな立場にある、いろんな人の意見が読める」こと、「自分の知らない情報・見たことのない世界を手軽に知ることができる」こと。そしてときおり、いいかげんな記事も見られるとはいえ――あのNYTでさえ、「記事捏造報道」で大騒ぎになったことがある――プロ記者の取材記事は徹底的に「裏を取る」ことが大前提になっているので、いちおう信頼して読めるということ。また、リーマンショック以降のあまりに急激過ぎる世界的な金融恐慌の流れをかいつまんで説明してくれたり、最新技術について、あるいは想定東海地震の現状について、簡潔にわかりやすく書いてくれる記事とかはとても役に立つし、ありがたい。また読者の投書欄もわが意を得たりといい件もあれば、目からウロコの卓見ありと、これまた読んでおもしろい。書評欄も好きで、おそらく読むことはなさそうな新刊本の内容とかもかんたんながら知ることができるし、文化・芸術欄の記事も各方面の識者の寄稿文とかも手軽に読めたりする。また「時の人」というインタヴュー記事も読んでいて楽しい(囲碁の最年少名人位についた井山裕太さんと、第41回体操世界選手権でみごと日本人最年少優勝を果たした内村航平さんという、ともにはたちのお二方の快挙がきのうと今日連続で載っていた)――こういう多彩な情報・報道を掲載してくれるということが新聞の最大の利点。とはいえいまはネットニュースというものがあり、またGoogleによるニュース検索サービスとかが幅を利かせている時代で、自分より若い人のあいだでは新聞を取っていない人のほうが多数派になりつつあるようですね。でも新聞の肩を持つというわけではないが、たとえば日本のIT業界を引っ張っていると言われている人たちのほうが、じつは新聞を人一倍、熱心に読んでいたりする。以前、そんな人たちに取材した特集記事を読んだことがありますが、たとえばある若い経営者は朝、5つ、6つの全国紙をテーブルに広げてじっくり読み較べすることから一日をはじめるという。

 そんな折、Googleがまた(?)あらたなサービスを開始したと先月14日付NYTにありましたFast Flipというもので、じっさいにその「実験」サイトに行ってみると、NYTはじめ、BBC NewsIHTWashington PostNewsweekなど、30社(TechCrunchなど電子版のみの媒体も含まれている)ほどの電子版の紙面がそのままキャプチャされた画面が並んで出てきます。ページを繰るような感じでどんどんスクロールして、見たいと思ったらその記事を掲載している新聞社サイトに直接ジャンプして閲覧、という仕掛けらしい。2002年に「Googleニュース検索」システムを開発した担当者(名前からはどうみてもインド系)によると、従来のネットニュースは紙の媒体にくらべてブラウジングのスピードが遅すぎ、これをもっとスピーディにすればより多くの記事も見てもらえるし、版元の広告収入も増える、ということで開発したんだとか。もっともこれは表向きの主張にすぎず、米国の新聞各社はどこも青色吐息、広告収入の激減をGoogleが提供しているような「ニュース記事検索サービス」が自分たちの記事に「ただ乗り」しているせいだという怒りの声を沈めるため、Googleは彼らの敵ではなくて味方であることをアピールすべく作った、というのがほんとうのところでしょう。

 参加している数社でさえこの「実験」を、業界最大の懸案である「広告収入の激減」を食い止める解決策にはなりえないといぶかっている。米国の新聞業界における広告収入の依存率は日本より高いらしいから、名前の知られた版元がつぎつぎとつぶれ、雇われている記者たちが突然、路上に放り出されたりしている。NYTでさえ運転資本まで危なくなるという自転車操業状態で、まだ建て替えたばかりのあたらしい本社ビルを売却したりと台所事情はひじょうにきびしい。Googleのこの実験サービス、へたするとただでさえ苦しいのに、さらに首を絞められかねない。でもいまの危機的状況ではGoogleにうまいこと言いくるめられているかもしれないが、しかたないという。

Of course there is a concern,” said Martin A. Nisenholtz, senior vice president for digital operations for The New York Times Company. “That doesn’t mean you don’t participate.”
He added that Fast Flip could help showcase sites like The New York Times better than current aggregators like Google News do.

かなり苦しい胸の内のようですね。

 手許にいまひとつ地元紙から切り抜いておいた記事があります。「危機に立つ新聞の課題・情報の一覧性大切に」という大学の先生が寄稿したコラム。米国新聞業界の窮状を引き合いに出した上で、あらためて活字ジャーナリズムに問われているものはなにかを論じています。よく言われる「速報性」。ネットのほうが紙の新聞より情報伝達という点では速いが、ネット上の情報というのは基本的に読み手が無意識のうちに選択したものに限定されやすいという欠点がある。これはようするに自分と相容れない意見・情報には耳をふさぎ、目をつぶることにひとしい。「このことは、主権者である市民にとって大切な、自分と違う意見や直接関係のない情報にも触れ、公の立場で物事を考える、という仕事を難しくしかねない」。「伝えるべきことをいち早く伝え、論ずべきことをいま論じ、権力や社会の動きに警鐘を鳴らす。それがジャーナリズムの仕事だ」。

 …地元紙については、誤植が目に付くだの、わりとケチつけていることが多かったりするけれども、たとえば浜岡原発一号・二号機の「廃炉」問題とか、全国紙よりも先駆けて取材したことは評価されていいと思う。地域密着型の地元紙の存在は、自分にとってはやっぱり大きい(そういえばいま開催中の「浜松モザイカルチャー(浜松立体花博)」のこととかもくわしく書いてあって読んで楽しい。ちなみに浜松市の出品作品は楽器の街・音楽の街浜松を表現したすばらしい作品でして、中央部分はオルガンをかたどっている)。

 情報をいち早く得るというのは目的ではなくて手段にすぎない。多様なものの見方、そして議論の場を提供するということは、新聞(そしてラジオも)という既存メディアにとってやはり大切なことかと感じます。もしそれがおろそかになったら、そのときこそサイバー空間上を飛び交う雑多でごたまぜになった「情報の嵐」に呑みこまれてしまうかもしれない。

posted by Curragh at 17:08| Comment(4) | TrackBack(0) | Articles from NYTimes
この記事へのコメント
こんばんは〜。
拝見していて、新聞の一覧性・記事の信頼性等、まさに同感!と思いました。

学生時代から、日経新聞と朝日新聞を購読し、図書館や職場で他紙を時々眺めるという読み方をしていました。

最近は、ネットからの情報やニュースの割合が多いものの、やはりそれだけではバランスを欠く感じがしてなりません。

関心のある記事はgoogle alertやRSS readerでドンドン情報は集まるものの、関心がないもの、そもそも知らないものはネットだけに依存していると情報が入らず、自分が偏った情報だけを元に判断することの怖さを感じます。

専門性のある雑誌(や業界誌)の一覧性も重宝しますが、より一般性のある新聞も捨て難いと本当に思います。

何よりもTV等と異なり、ぱっと見出しだけで膨大なニュースを視認し、取捨選択する機会を一瞬で与えてくれることが貴重なような気がします。

その度ごとに、自分の中で瞬時の判断が求められ、未知の情報への関心の呼び起こしとかの刺激も与えられるのは、素晴らしい気がします。

各種メディアが苦戦する中でも、一番心配なのはまさに新聞だと思っていたので、改めて考えさせられました。う〜む。

この素晴らしい媒体の健全な発展・継続を願ってやみません。無料は確かに魅力的ですが、適正なサービスに適正な対価が払われる仕組みもないと今後が大変気になるなあ〜と思わずにいられません。

あっ、長文で失礼致しました。でも、新聞頑張って欲しいですね。本当に!
Posted by alice-room at 2009年10月25日 20:28
alice-roomさん、まことにごもっともなご意見、ありがとうございました。m(_ _)m

たしかに紙の新聞は、パッと広げた瞬間に目に入る情報量という点でも、また一覧性に起因するわかりやすさという点で、いまだに有益な媒体であると考えています。NYTだって、ほんとのところを言うと、紙のほうを購読したいくらいです(もっとも向こうの新聞の宅配って庭先にポイポイ投げたりするものらしいのですが)。

日本の新聞も苦戦しているのですが、やはり広告依存度の高い米国にくらべればまだましかもしれません。ただひとつ気になるのは、Kindleに日本語版ができたときのことです。印刷媒体が電子媒体になれば、紙のゴミは減るからそれはそれでいいことかもしれませんが、Kindleのような端末は故障したときがしまつが悪い。現時点では信頼性という点で? なので、日本の新聞があんな端末に飲みこまれたらたまらんなぁ、とつい思ってしまうのです。

ご存知かと思いますが、新聞とかメディアとネットとの関係については、こちらのブログがとてもおもしろいですよ。もっとも『週刊アスキー』の連載記事なので、コンビニとかでも立ち読みできます。↓

http://blog.a-utada.com/chikyu/

…いましがたalice-roomさんのブログも見ましたが、洋書を買われたそうですね。Pitkinって英国の薄っぺらいガイド本を出している版元ですね? それとおお、『ダロウの書』ですか。こんなページも見つけましたよ。

http://www.unc.edu/celtic/catalogue/manuscripts/durrow.html

最後のはマンテーニャですか? マンテーニャとくると、40年以上前の先日、ボリビアで処刑されたゲバラの遺体公開写真と「死せるキリスト」の構図が似ている…と指摘した米国の写真評論家のこととか思い出してしまいました。

…そういえばこの前、ダ・ヴィンチの描いた絵だということが判明した女性の肖像画のことがニュースになってましたね。
Posted by Curragh at 2009年10月25日 23:54
kindle、気にならないと言えば嘘になりますが、うまく紙媒体と共存する方向になって欲しいですね。

選択肢の豊富さが、逆に本の世界を狭めることにならなければと切に思います。

個人的には読み終わって、ぱっと捨てられる新聞や雑誌の手軽さが、なんとも捨て難いです。kindle旅先で邪魔になっても捨てられませんし・・・(笑)。

アスキーの記事も見てみたいです。

Pitkin、本当に薄いです。以前、chartresの本でも読みましたが、雑誌感覚で眺める本ですねぇ〜。

ダロウの書の情報、有り難うございます。素敵な画像ですね♪ 後でゆっくり読んでみたいです。知り合いは、実物を見たこともあるようでやっぱり良かったそうで、百聞は一軒に如かず。行ってみてくるべきかなあ〜と思わずにいられませんでした。

先々週もその友人はアイルランドへ行ってたようで、モルトウィスキーを相当買い込んで帰国した模様(笑)。

羨ましいです♪
Posted by alice-room at 2009年10月26日 22:48
B&NがNookなる端末をリリースしたようですね。これからどうなることやら…。わが身を省みても辞書はたしかに「電子化」してしまったけれども、本や新聞まで…というのはやっぱり抵抗があります。旧世代? 

お知り合いの方は『ダロウの書』の現物を見てきたのですか。ある意味うらやましいです。

アイリッシユ・ウィスキーも有名ですが、お足のない人は缶入りの「ギネス」で気分だけでも味わってます(苦笑)。
Posted by Curragh at 2009年10月31日 03:03
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