2007年02月11日

沈黙の冬

 「…どこよりも当地はアエオルス神の送る風とどしゃぶりの雨に見舞われるからである。南部の西風と合わせ、ここでは北西風がどこよりもはげしく吹き、支配的である。この風は西部の高所にある木をほとんど反らせたりひっくりかえしたりしてしまう。確かにこの地はどの側も大きく海に面し風に強くさらされ、それをしのげる場所は島のどこにもない」とギラルドゥスは『地誌』(邦訳書 p.32)に書いていますが、こんな文章を目にしますと自分の頭の中では親の実家のある伊豆西海岸の海とついダブってしまいます…伊豆半島の海岸部では雪が降ることはほんとにめったにないくらい温暖で「南国」のイメージが強い…ようですが、冬の名物、西風が吹き荒れる日は冗談ぬきにこごえるほど寒く、体感温度もかなり下がります…昨年の今頃がそうでした。とくに2005年の暮れあたりは毎日、冷たい北西風が――それこそアイルランド西海岸、ゲールタハト(Gaeltacht)に負けないくらいこれでもか! というほど吹きまくっていた。クリスマスの日に黄金崎(こがねざき)で写真撮っていたときも吹き募る冷たい西風にあおられ、眼下の離れ岩に砕け散る波しぶきが断崖の上にまともに吹き上がって、すっかり潮まみれ…。日没後、帰るころには両手の感覚はほとんどありませんでした。それと下線部、西伊豆の岬や断崖絶壁にへばりつくように生えているクロマツは、どれもみんな西風でへし折れたほうきみたいに変形して、東側にたなびいています。

 …ところが今年はおかしい。いままで、ここまで「ぬくとい(西伊豆地方の方言で「暖かい」)」1月・2月は経験がありません…今冬の異常な暖かさと肩を並べるのは1990年のいまごろですが、急激に暖かくなったのは3月からで、2月は晴れの日がほとんどない雨つづきだったことを覚えています。そのときは、黄金崎公園のソメイヨシノ並木が春分の日にして五分-七分咲きにまで開花していた…ことも鮮明に覚えています。この分でいくと、今年のソメイヨシノもそのとき同様、3月中に満開になりそうな予感がする。昨年のいまごろはひさしぶりの「寒冬」でしたが、今年は冬名物の西風もたいして吹かず、吹いてもさほど寒くはない南西風で、おかげで西海岸特産の「岩のり」もさっぱりで、「のりかき」が解禁されてもかんじんののりがゴロタ石とかにくっついてないので取りようもないと地元の人は嘆いています。

 2005年暮れの「寒冬」のときは富士山にはほとんど積雪がなくて、12月になってもいまだ黒々していました…どっかの週刊誌がさも異変?! かのように記事を書いてましたが、山梨側での異変はいざ知らず、真冬でも地肌をさらすことじたいはたいして珍しい現象ではありません…むしろこれがふつうの冬。富士山に大量の雪が文字どおりドカドカ降るのはじつは春先、いまごろなのです(だから遭難する人も多い)。「西高東低」の冬型が崩れないと雪を降らせる低気圧は太平洋側を通らないから。で、12月はちょっと寒いときもあったけれど、今年は昨年ほどの厳冬にはなるまいと予想していました…西風も吹かないし、雨は多いし、富士山もすっかり雪化粧しているし。ところがここまで高温だとは正直、気持ち悪い。田子地区ではなんと「つくし」まで顔を出したとか。この異常な暖冬は北半球全体の現象のようで、欧州では季節外れの嵐、モスクワでも最高気温がプラスの8度とか、ニューヨークではなんと桜が開花したり…1月ですか、最高気温が観測史上はじめて20度を超えたとか…。

 …寒がりなので、暖かいのはありがたいけれども、このまま夏になったら…と思うとやはりこわい。ここ数年、気象現象も人間とおなじく「中庸」、ほどほどを知らないように思う。いったん晴れれば熱波、降れば土砂降り・豪雪、台風に竜巻…追い討ちをかけるように火山噴火に地震などの地殻変動も加わってしまうともうどうしようもない。…もしギラルドゥスがいまの世界にやってきたらいったいなんと書くのだろうか…たぶん聖職者だから、「終末は近い」とか書きそうですね。

 いま、ビル・マッキベンのかつての著作とか暇なときに読み返しているのですが、もっと真剣に考えなくてはいけないところまできているのしょう…まだまにあうかもしれませんが。例年にくらべてあんまり暖房を使わずにすんでいるのは皮肉なめぐりあわせでしょうか。

 「…山は非の打ちどころがなく、完璧だ。しかし、われわれはこのような無言の証人に注目してこなかった。だからこそいま自然界のほうがわれわれに警告を発しているのである。気温が上昇し、オゾン層が薄くなっている――これらは人間社会の適正規模に関するシグナルなのだ。しかし、われわれは輝かしい未来に心を奪われてばかりで、このシグナルにほとんど気づいていないのである」(ビル・マッキベン/高橋早苗訳『情報喪失の時代』p.127)

この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/3328638
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック