2010年03月07日

こんどは「アニュス・デイ」!

1). 合唱ファンにはすでにおなじみ(?)の感なきにしもあらずの「町中みんなで合唱団」シリーズ。前回の放送分はなんと! あのバーバーの名曲にして難曲の「アニュス・デイ」を歌おう、というものでした。

 まず当然、予想されたことながら教会とはおよそ縁のない、毎日の生活だけで精一杯、といった感じのごくごくふつうの労働者層が大部分な土地柄か、ラテン語で歌うなんて冗談でしょ、みたいな拒否反応が出てましたね。ある女の子は「あたしたち英国人なのよ!」と叫んでました。うん、ごもっとも。でもみなさんの母国語には「外国語」であるラテン語からもいっぱい語彙を借りているというのも事実なんではあるんですが…それはさておきそんな泣き言をこぼしていたわりには子どもの合唱団、やるじゃないですか。単純に歌詞だけ比較したら、「カルミナ・ブラーナ」のラテン語歌詞のほうがよっぽど難易度は高いと個人的には思いますよ(余談ながら、ラテン語のみならず英語に独語、伊語にロシア語の作品まで歌いこなすTFM少年合唱団もすごい)。

 サウスオキシーのコミュニティ合唱団率いるマローン先生の今回のもくろみは、「クラシック、それも心洗われる教会音楽(ラテン語のもの)を歌えるようにならなければ本物じゃない」ということにあったようです。たしかにそれはあるかも。歌いやすい、とっつきやすいものばかりこなすだけでは真にすぐれた合唱団にはなりません。食べ物だってそうですよ。やっこい(=やわらかい)ものばかり食べていたらアゴがやわくなって、それが原因となってさまざまな不具合が起きやすい、というのとおんなじで。これは勉学にもスポーツにも通じることだと思うけれども、いつまでも自分がラクしてできるレヴェルのことをつづけていてはダメ。すこし(場合によっては、かなり)背伸びしないと獲得できないもの、多少難儀しないと到達できないような高いレヴェルのものの習得を自らに課してはじめて上達するものです。そのためには「反復練習」のようなドンくさいことも必要不可欠。

 とはいえ音楽の場合は、寝っ転がってただ聴くのはともかく、とくに自分で演奏する、自分で歌うとなるとじつにたいへんなことではあります。でもそこは若き名伯楽マローン先生の手にかかるとはじめはイヤイヤ歌っていた町の人も、どんどん変わっていくから見ていて楽しい(そういう番組だから、というのは抜きにして)。ほんとこの先生は教え上手だし褒め上手だ。'Matty's Men'だったか、見るからに音楽とは縁のなさそうないかつい男たちをよくあれだけ歌わせたものだと思います(最後のパブを出るときはなんか往年のマッドネス? みたいなことをやってましたね。もっとも、縁がなかっただけできっかけさえあればこういう人たちこそ「開眼」するとガラっと変身したりするもの)。

 最初の回で見たソリストの少女や窓拭き職人のショーンさんとかも真剣に「アニュス・デイ」に打ちこんでいたし、マローン先生も先生でカシオの電子ピアノかついで一軒一軒、レッスンに廻るという熱血指導ぶりです。こうでもしないと、自身の望むレヴェルにまで町の合唱団を引き上げることができないということがわかっていたからとはいえ、その生真面目さには頭の下がる思い。

 作曲者バーバー自身はこの曲のもとの作品(「弦楽のためのアダージョ」)ばかりが取り上げられることについて憤慨していたらしいですが、そんな作曲者みずからこれを宗教声楽曲として仕上げているのだから、内心はまんざらでもないと思っていたのかもしれない。とにかくこの作品はマローン先生の言うとおり、20世紀に作曲されたこの手の声楽作品としては最高だと思う――あの最後の、「われらに平安を与えたまえ!」と八つの全声部が登りつめてありったけのフォルテで絶唱するクライマックスとか、この曲の収録盤をいつ聴き返しても鳥肌が立ってしまう(もちろん、ニューカレッジのアルバム。蒸し返しになるが2001年・2003年に実演を聴いたときは全身が身震いするほど深い感動をおぼえたものです)。

 最上声部を担当する子どもたちのコーラスも加えたサウスオキシー合唱団、晴れの舞台はなんと、セントオールバンズ大聖堂じゃないですか(セントオールバンズは3世紀後半の聖人オールバンに由来)。Choral Evensongでもおなじみですが、英国の大聖堂にしてはわりと造りがちんまり(?)した印象を受けました。とはいえここの大聖堂のスクリーン(身廊と内陣とを仕切る障壁)はすごく立派。英国の大聖堂で中世以来の石造りのスクリーンが残っているのはそんなに多くはないはずです(古い石造りのスクリーンが残る大聖堂としてはたとえばチチェスター大聖堂やエクセター大聖堂、カンタベリー大聖堂とか)。

 たぶんBSで放映しているものは全曲ノーカットだろうと思いますが、あいにく地上波版は――はじまったと思ったらいきなりクライマックスで(苦笑)なんとも言えないのですが、とにかくこれだけの難曲を短期間でよく歌いこなしたものです。だいぶ前、某音楽教室の講師から発表会を聴きこないかと言われて聴きに行ったことがありました。生徒さんたちはみんな一所懸命にヴァイオリンを弾いたり、ピアノを弾いたり、電子オルガンを弾いたりと披露していましたが、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」をときどきつかえながらも演奏しているさまを見ていると、この曲ってじつはこんなにむつかしい曲なんだ、と思ういっぽうで、演奏者のこの作品にたいする強い思い入れ、自分はこの曲が大好きなんだという思いが伝わってくるのです。…番組を見ながら、そんなことを思い出してました。次回は最終回らしいので、忘れずに見るとしよう。とにかくこれはすばらしい企画だと思う。「合唱大国」らしい番組ですね(セントオールバンズの聖歌隊ってコリスターが24人もいるんだ)。

2). この前の「芸術劇場」、後半はなんと! NHK-FMでもオンエアされたピエール・アンタイでした! バッハの「イギリス組曲第2番 BWV807」やフローベルガーの「トッカータ ホ短調」やルイ・クープランの「フローベルガー氏を模倣して」のみごとな弾きっぷりを赤ワインを飲みながら、じっくり見ることができてうれしい。ピアノリサイタルしか行かない人にとっては意外(?)に思うかもしれないが、たいてい古楽器のリサイタルは暗譜ではなく、楽譜を見ながら演奏という場合が多い(アンタイの師匠のレオンハルトも同郷のコープマンもそう)。画面に大写しになっていたクラヴサン(チェンバロ)は溜息がでるほど黒光りして美しく、お値段はいったい…なんてよけいなことをつい考えてしまったが、それよりも右手側の側板に楽譜を照らすライトがのっかっていてややびっくり。あそこのホール(武蔵野市民文化会館小ホール)って暗いのかな? またオルガンもしくはチェンバロの企画よろしくお願いします、NHK教育さん。

 それにしてもアンタイって10年ぶりの来日公演だったんだ…自分は指揮者としてのアンタイさんを昨年5月に見たけれど、こんどはぜひ鍵盤楽器奏者としてのアンタイさんを聴きに行きたい。

posted by Curragh at 14:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽関連
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