2010年06月27日

いろいろな「ゴルトベルク」とブルーンス

1). 先週の「バロックの森」はオルガン作品が多くて、けっこう楽しめました。とくに月曜のニコラウス・ブルーンス特集がよかった。ブルーンスという人はリューベックの聖マリア教会オルガニストにして高名な作曲家、ディートリヒ・ブクステフーデの弟子でもあった人だったが、わずか32 で没した不遇なオルガニストでした ( 以前結核で死んだとか書いた記憶があるけれど、ほんとうの死因は不明らしい )。ひょっとしたら後年、はるばる中部ドイツからやってきたはたちそこそこのバッハに、マリア教会の師匠は亡き弟子の面影を見ていたのかもしれない。早世したために現存する作品じたいも少なくて、自由オルガン作品が 4つのみ。生前はカンタータの作曲家としても名をなしていて、音楽批評家のマッテゾンをして、「もろびとよ、われらのニコラウス・ブルーンスの死を悼め。職業においてかくもすぐれた、しかも人品温和なる者が、もはやこの世にいないとは」と言わしめたほどの才人だったという。そしてブクステフーデの教えを受けた若きバッハのオルガン曲にも、あきらかにブルーンスを彷彿とさせる個所があったりします。今回、はじめてブルーンスのコラールファンタジーを聴いたけれども、たしかに若いバッハの書いた、北ドイツ様式によるコラールファンタジーとよく似ていますね。勉強熱心なバッハのことだから、師のブクステフーデ以外にもきっとブルーンスの作品も筆写したにちがいない。なにしろ「足鍵盤でベースラインを弾きながらヴァイオリンをもって即興演奏」したくらいの天才でしたから。

 北ドイツオルガン楽派は前にも書いたとおり、ファンタジー豊かな自由な即興性が最大の特色ですが、それを可能にしたのもアルプ・シュニットガーをはじめとする名オルガン建造家の活躍あってのこと。17世紀にはすでに巨大なペダルタワーがオルガンケースの両側に屹立するように造られ、「ヴェルク構造」といって各風箱のパイプ群がそれぞれ独立したケースに入れられて音色や旋律線の対比の鮮明な楽器が主流になっていった。ブクステフーデ、ブルーンス、そして土曜の朝にかかったゲオルク・ベームなどの北ドイツ楽派は、シュニットガーに代表されるこうした北ドイツオルガンの構造的特徴を全面に押し出すような作品をつぎつぎと生み出していったというわけです。その流れの最後に位置していたのがほかならぬバッハ、ということになるのかな。バッハ最晩年の作品群にも幻想性にあふれる北ドイツ様式がひょっこり顔を出していたりするし … もっともその表現する内容はさらに深くなっていますが。たとえば「前奏曲とフーガ BWV.548 」のフーガ中間部のトッカータ風のパッセージなんかそうですね。

 土曜朝にかかったベーム。リューネブルクの聖ミカエル教会の朝課聖歌隊に入隊した 15歳のバッハも教えを受けたらしいけれども、この人もまた北ドイツ楽派を代表する巨匠のひとり。あいにく 3曲のコラール編曲 ( うちひとつはコラールパルティータ ) はどれもディスクのもちあわせがないけれども、ヴァルヒャ盤 (「バッハ以前のオルガン音楽の巨匠たち」) とチェンバロ作品の「カプリッチョ ニ長調」と「組曲 ヘ短調」はともにレオンハルトの演奏家活動50周年記念盤でもっている音源からでした。ちなみにけさかかったバッハの「前奏曲 フーガとアレグロ 変ホ長調 BWV.998 」というのはチェンバロでも演奏されるようですが、BWV 番号ではリュート曲に分類されている。この作品じたいはめたに耳にしたことがないから、聴けて大満足。ちなみに「変ホ長調」という調性についてひじょうにおもしろいブログ記事がありましたので、そちらもあわせて紹介しておきます。

 それと火曜朝にかかった「ゴルトベルク」弾きくらべもたいへんおもしろい企画だった。チェンバロではスコット・ロスなんかいいですね。たぶんかかった音源は図書館で借りたものだと思うが … スカルラッティばりの「両手交差」があるのは最初の活発に走りだす変奏とデュエット形式の第20変奏、自由な第28変奏。後半ふたつの交差が見られる変奏ではそれぞれアンジェラ・ヒューイット、アンドラーシュ・シフのピアノによる名演。シフのほうは、原盤は名門 ECM盤かな? 

2). いまさっき見た「N響アワー」。グレゴリアンチャントの「怒りの日 Dies iræがとくに 19世紀、いかに多くの作曲家によって「引用」されてきたか、ということに焦点を当てていて、へぇ、あれもか ! という感じ。ラフマニノフってそんなに「怒りの日」好きだったんですねぇ。… 合唱交響曲「鐘 作品 35」にも、もっと有名な「交響曲第二番」にも出てくるらしい。蛇足ながら浅田真央選手が冬季五輪で使用した楽曲はピアノ作品の「 ( モスクワの ) 鐘 作品 3 - 2 」のほう。

 …そういえば先日、地元紙に「ツタンカーメンの死因 / 血液疾患新説・独研究者らが指摘」というおもしろそうな記事が掲載されてました。… ?? 、ツタンカーメンって、この前エジプト考古最高評議会が中心となって出した結論によれば、「骨折とマラリア感染」が死因だと言ってなかったっけ ? しかもこの新説、おんなじ『米国医師会誌(JAMA)』に掲載されているという! というわけで探してみると … どうもこれみたい( letters の項目にあるから、記事というより私信のやりとりか ? )。とにかくベルンハルト・ノホト熱帯医学研究所のクリスティアン・マイヤー医博の投稿によると、致死性熱帯マラリア原虫の感染は流行地域ではふつう 6 - 9 歳までで、ツタンカーメンのような免疫系統がほぼできあがっている十代後半の若者が感染してそれが原因で死亡することはないと主張しているようです。骨組織の薄い部分と第二指欠損については骨壊死、骨髄炎か潰瘍性関節炎のあったしるしかもしれないとしている。あとは … きちんと全文を見てみないとよくわからない。AFPBB サイトにも関連記事が出てますが、ほえっ、ツタンカーメン王のミイラの「複製」なんてものもあるんだ ! …姿かたちといい色合いといい、ほんとよくできているな ( 汗 ) … と、その向こうで不敵な笑みを浮かべているのは…またもやあの博士か ( 笑 ) ! 。

posted by Curragh at 23:30| Comment(2) | TrackBack(0) | NHK-FM
この記事へのコメント
はじめてのメールです。ニコラウス・ブルーンスの世界と題してオルガニストの松居直美さんが10月18日金曜日武蔵野市民文化会館小ホールでコンサートを開きます。オルガン作品を中心にカンタータなども何人かの演奏者と共に奏します。問い合わせ東京コンサーツ
電話03−3226−9755。3000円です。
Posted by 小林信一 at 2013年05月31日 16:09
小林信一さん、

情報、ありがとうございます。m(_ _)m

ブルーンスのカンタータ … 国内での実演は、おそらくそうは行われていないでしょうね。金曜日なので行けるかどうか微妙ですが、可能であれば実演に接したいと思っています。武蔵野文化会館小ホールのオルガンは、たしかマルクッセンの楽器でしたね。
Posted by Curragh at 2013年06月01日 17:40
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