英国のブレア首相が引退直前、まさに土壇場になって合意にこぎつけた北アイルランド自治政府復活の話し合い。おりしも今月12日(当時のユリウス暦では5月1日)は合同法が成立してから300年。北隣りのスコットランドでは1999年に議会が復活し、現在の「連合王国」から分離独立しようという動きさえあるとか。あんまり評判の芳しくなかったブレア首相でしたが、ではなぜ引き際に北アイルランド自治政府復活合意をなんとかして取りつけようとしたのか。
BBCニュースサイトの記事を見て、ブレア氏がアイリッシュの血を引いていることを知り、やはりそうだったのかと納得。政権発足時から、ブレア首相は対立する強硬主要二政党代表をダウニング街の官邸に呼んだりみずから出向いたりと自治復活にむけて努力していたらしい。首相に就任してはじめて向かった先がベルファストだったり、それまでの首相とはあきらかに北アイルランド問題にたいする姿勢がちがっていたといいます。記事によると母親が北西部ドニゴールの出身らしい。「聖金曜日合意(GFA、→アイルランド外務省サイトの記事。ついでにサイトのバナー画像は美しい逆光でとらえたカラフのみごとな写真ですね…なにかしら暗示的ではある)」をとりつけたのも首相就任から一年以内だし、なみなみならぬ意気込みで取り組んでいたことがうかがわれます。
20世紀前半まで、アイルランドは強大な隣国・大英帝国の支配下にありました。こうなったそもそものきっかけは1169年、アングロ・ノルマン連合軍が侵入したことがはじまり。そのときの総大将ストロングボウがノルマン軍を率いてウォーターフォードを攻め落とし、現在のレンスター地方を掌握したのもつかのま、となりにストロングボウの国ができてしまうことをおもしろく思わなかったヘンリー2世は1171年10月、みずから精鋭一団を率いて上陸、ストロングボウはあっさりレンスター全土をヘンリー2世に献上した…このへんからアイルランドは抑圧と破壊と独立闘争の連続、大飢饉に大量の移民…といったたいへん苦しい歴史を歩むことになります。自分はとおりいっぺんの通史しか知らないけれど、アイルランドが1921年、大英帝国圏内にとどまってはいたものの、その後ゆるやかな「英連邦」内の自治権を認められた「自由国」になり、第二次大戦後の1949年、ようやく共和国として独立を勝ち取る…そんな文字どおりの茨の道のりは日本人からははるかに想像を絶すること。われわれが想像している以上に苛烈な歴史だったと言うほかありません。日本人とアイルランド人は似ている…とときおり言われるが、長きに渡って隣国の圧政に耐えてきた歴史をもつ国と、法治国家のすべての土台をなす憲法を変えられる法案を国民そっちのけであっさり成立させるような国とはやはりたいへんな落差がある。
北アイルランド問題…もたいへん複雑で、うかつにものを言えないのですが、直接のはじまりは1921年に自治を認められたアイルランド全32州(「県」と表記される場合もあります)のうち北部アルスター6州をのぞいた26州が英国直轄領から離脱して、国土が南北に分離してから。当時アルスターは、有名なタイタニック号を建造したことでも知られる造船の街ベルファストやリネン産業のさかんなロンドンデリーを抱え、南半分のほかの地方にくらべて豊かであったこと、アイルランドでは少数派のプロテスタント系住民ユニオニストと英国との利害が一致していたこと、のちのIRAとなる前身組織IRBなど、カトリック系の過激な独立推進派とプロテスタント系の多いユニオニストらの対立が激化したことなどがあって、けっきょく北部アルスター6州のみが現在でも英連邦の一部として取り残されたままになっています。住民同士の対立も根深くて、プロテスタント系とカトリック系とがそれぞれの地区にわかれて住み、またたびたびテロ事件や衝突が起きるなど、いまだ相互理解と和平へは道半ば、というのが現状です。
積年の対立…はそうかんたんには解消されないでしょうけれども、つぎの英国首相になる人も、このブレア氏の「平和的解決に向けた歴史的な一歩」をムダにせず、さらに推し進めていってほしい…と願わずにはいられません。
…最後に北アイルランド問題とは関係ないけれど、「日本におけるアイルランド年」サイトの「あなたのアイルランド人度をはかるクイズ」。けっこうおもしろいです。
2007年05月14日
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