2007年05月20日

D.I.S.と『受胎告知』

 ダ・ヴィンチの『受胎告知』のことを書いたとき、「気になったことがあるけれども、それはまたべつの機会に」と書いておきながら、書いた本人は――すこし前まで少々体調不良だった、というのもあるが――すっかり忘れてました。

 平成館での膨大な手稿類展示を見終えたあと入った部屋で、こんどは『受胎告知』の精密な原寸大複製が目に飛びこんできた。で、その複製画の前で来館者相手になにやら得々としゃべっている小太りなおっさん人が。なんだろ…と思ってよくよく話を聞いてみると、「今回、『受胎告知』が来日できたのも、もとはと言えば日立のD.I.S. 技術のおかげ」という。

 話の枝葉末節はほぼ完全にアタマから飛んでしまっているけれども、ようするにウフィッツィ美術館から日立のD.I.S. 技術で『受胎告知』製作当時を再現してほしい…そのかわり本物を無償で貸し出してやる、と言ってくれたという!! つまりは今回の特別展、日立のD.I.S.という技術がなかったら実現してなかった、ということらしい。ついさっきまでイタリアから○○さん(だれだか忘れた)が来てたのに帰っちゃった、残念だねぇ、とも言ってました。

 その社員の方の説明によると、D.I.S. というのはデジタルカメラ(? デジカメと言っても千差万別、おそらく解像度がきわめて高い超高級機種だろうな)を何台もつなぎあわせて撮影して得られた画像をCG合成したもの…らしい。そういえば『源氏物語絵巻』の復元もこのD.I.S. を援用したとか聞いた気がする。で、このD.I.S. で『受胎告知』をすみずみまで調べてみたら、なんと書見台に乗っている本のページに書かれたラテン語の文字まで発見できた、という。

 ここで、写真についてはガチガチにアナログ派の自分はふと疑問に思いました…従来、こうした絵画の複製に欠かせなかったのが、8x10インチ判(エイトバイテン、六つ切り判)などの大型カメラ。フジフイルムのVelvia など、銀塩フィルムじたいもいまでは昔にくらべてたいへん高性能になっているので、このようなフィルム+大型カメラで撮影すると、たとえば髪の毛の一本一本なんかもバッチリ、木の葉一枚一枚もバッチリ、人間の視力の限界を超えた精密描写が可能です。で、昔は乳剤の性能もあまりよくなかったものだから、商品撮影とか絵画の複製制作用にこのようなバカでかい暗箱カメラを使うことは常識でした。D.I.S. を使わなくても、ふつうに8x10で撮っても文字くらい写りそうなもんだが、と思ったわけ。

 やはりおんなじことを思ったのか、社員の話を黙って聞いていたお客さんが、「じゃあなんでいままで学芸員は、毎日毎日オリジナルを見ているのに文字に気づかなかったのか?」。一瞬、間をおいたあと、やおら「人間の目ではわからなかった。今回、D.I.S. をもちいて画像解析した結果、はじめて発見できたんです」とかそんなふうにこたえてました。

 デジカメで撮影した画像、というのはバイナリつまり1と0の集まったデータ。それの「合成」ではじめて発見した…というわけですが、髪の毛一本まで写しこめる8x10判で『受胎告知』を撮影してルーペで仔細に調べても同様に発見できたのでは…とそのとき門外漢は思ってしまった。得意げになってしゃべる社員にそのへんのことを突っこんでみようかとも思ったが、しょせんは「こちらの中くらいの大きさの複製がたったの75万円! ね、安いもんでしょう!」とどこぞやのTV通販さながらにD.I.S. 複製画を売りつけているたんなる販売員にすぎないので、「ポストカードを買おう!」ということしか考えていなかった小心者はさっさと逃げ出してしまった(あ、そういえば最後のショップで特別展限定のキャンティを売ってました。2000円くらいだったかな。でも買わなかった[笑])。

 …D.I.S. というのはある意味本物以上に「美しく」見せることはできると思うし、利き酒よろしく二枚並べて、本物はどっちですかとやられたら、はたして本物を言い当てられるかどうか、はなはだ心許ない。とはいえ本物のもつ迫力、オーラみたいなものはあんまり感じられないなぁ…とやはり思ってしまいます(もちろんD.I.S. そのものを否定するつもりはない)。

 …今夜のNHK-FM「気まクラ」、ニューカレッジの「ミゼレレ」がかかりますね。音源は、10年くらい前にヒットした国内盤に収録されたものらしい。

posted by Curragh at 15:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 美術・写真関連
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