2010年10月16日

バッハ一族の音楽

 本題に入る前に…チリの鉱山落盤事故で70日近くも過酷な地下生活を強いられていた労働者33名がひとりも欠けることなく、ぶじ救出されたのはとても明るいニュースでした。とはいえたいへんなのはむしろこれから。ここの鉱山は以前にも事故がたびたび起きているし、安全対策が後手に廻っていたツケがこういうかたちで降りかかってきたようなところがある。大統領みずから現場で陣頭指揮、という姿を見ますとどこぞやの国の元首ももうすこしがんばってもらわんと、と思わなくはないが、今後の事故再発防止策とか原因究明とか、やるべきことはいっぱいある。いっときのパフォーマンスで終わらなければいいがと懸念するのは、たんなる杞憂か。たしかに「33」という数字はnumerologyにおいては、縁起のいい数字だったかもしれないが…。

 で、ここでなかば強引に本題に入ると、音楽において3という数字を象徴的に使ったのは、たとえば大バッハなんかがそう。前にも書いたけれども「フーガ 変ホ長調 BWV.552」の場合、「三位一体」の象徴としての3という数字がじつに効果的に響いている。フラット三つ、三つの主題をもつ三重フーガ、というぐあいに。その大バッハも一日にしてならず。今週の「バロックの森」はそんな音楽家バッハ一族に焦点を当てた好企画。現存するもっとも古い楽曲を書いたヨハン・バッハから、バッハ47歳にしてもうけた息子ヨハン・クリストフ・フリードリヒに、その子のヴィルヘルム・フリードリヒ・エルンストの音楽まで、なんというか音楽の一大絵巻ものでも聴いているかのような、壮観としかいいようのない贅沢なプログラムです。

 手許の古い新潮文庫版『バッハ』によりますと、バッハは1735年末、というから50歳のとき、自分たちの「家系図」をまとめています…もちろん誇り高き音楽家一族としての系譜です。1577年に亡くなったというご先祖さまのファイト・バッハからはじめて、末子のヨハン・クリスティアンまで、53名の音楽家を登場させています(自身はほぼ真ん中の24番目として記述)。…それにしてもこのツィター好きの粉職人ファイト・バッハの住んでいた「家」というのがいまだ現存するってすごすぎ…もっともこの本じたいが古いから、21世紀のいまも残っているのかどうかは知らないが、ハイドンがWSKの前身である聖歌隊の少年隊員として採用され、任地のヴィーンに旅立つまでのあいだ過ごしたとされる生家もしっかり残っているし、いずれも地震のないドイツならではだなあ、と思うことしきり(→Wikipedia日本版の関連記事)。

 「アイゼナハのバッハ」として知られるヨハン・クリストフ作曲のオルガン曲「前奏曲とフーガ 変ホ長調」とか、きょうだいで、バッハ最初の奥さんマリア・バルバラの父親でもあるヨハン・ミヒャエル作曲のオルガンコラール編曲とかははじめて聴くもので、とても興味を惹かれた。音源が入手できるのなら、こちらもぜひほしいところ。またこちらの拙記事にもあるように、小学館の『バッハ全集』所収のオルガンコラールには、ヨハン・ミヒャエルの作品も「誤って」含まれています。ヨハン・クリストフつながりでは、「奇想曲 ホ長調 "ヨハン・クリストフ・バッハをたたえて” BWV.993」もかかりましたね。

 バッハの息子たちの作品も当然かかりましたが…ヨハン・クリストフ・フリードリヒ・バッハの独唱ソプラノのためのカンタータ「アメリカ女(!)」では、もはや父親のカンタータでよく見られた通奏低音書法は消滅、主唱 対 伴奏声部という構図が全面に押し出されている。すごくおもしろいと感じたのは末子ヨハン・クリスティアンの「BACHの主題によるフーガ」というオルガン(!)作品。「フーガの技法 BWV.1080」最終フーガにおいて、バッハ自身も展開を試みたB-A-C-H音型。「ロンドンのバッハ」がこれをいかに料理したか…偽終止をはさんで最後はわりと軽やかに(?)終りましたが、たしかにポリフォニーだし古めかしくは聴こえるけれども、あきらかにハイドンやモーツァルトの作風。本特集の締めくくりに聴いたのは、バッハ直系最後の音楽家、ヴィルヘルム・フリードリヒ・エルンスト・バッハの「トッカータ ハ長調」というこれまたオルガン作品。こちらもまたじつに明快で、典型的な古典派の「擬古調」オルガン曲といった感じ。

 とにかくこの企画はすこぶるおもしろいから、とりあえず第二弾を期待します(笑)。バッハ一族の音楽をこうして体系的に辿って聴かせる、という企画はこの番組ならでは。ぜひシリーズ化してつづけてほしいところです。

posted by Curragh at 23:37| Comment(0) | TrackBack(0) | NHK-FM
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