2007年05月28日

Modified Measles

 いまNHK-FMでオピッツさんのピアノリサイタルを聴きながら書いています。今年はベートーヴェンイヤーでもありますね(3月26日で没後180年)。個人的にはだんぜんブクステフーデ! なんですけれども…。

 いっつも自分が偏愛する音楽がらみのことばかり書いているので、たまには現役中高校生の英語の勉強に役に立ちそうな(?)ことを書いてみます。カテゴリでは語学関連ではない記事でも、あっちこっちに話が飛ぶうちにひょこっと語学関係の話題も織り交ぜたりはしていますが、たまには語学関連の記事も書こう、と思い立ちました(苦笑)。

1). 先日、夕飯食べながら見ていた「クローズアップ現代」。いま、10〜20代の若い人に感染が広がって問題になっている「はしか(麻疹)」のことをやってました…で、ふと耳に入ってきたことばにびっくり。「は? シュウショクマシン??¿¿」。画面を見ていなかったのでなんて漢字を書くのだろう、と思っていた矢先、まったく思いがけずこちらのblog記事にて発見。おお、修飾麻疹!! …しばし絶句。なんなんだこの日本語は??? 

 ちなみにcloseは動詞ならクローズでいいんですが、「近い」を意味する形容詞のほうはクローになります。

 あまりのハジけた表現に、グノーシス文書「ユダ福音書」のイエスよろしく笑いさえこみあげてくるのですが、これmodified measles の直訳らしい。ためしに「英辞郎 on the Web」で確認してみたらやっぱり「修飾麻疹」と出た。

 …いくらmodified の字義通りの直訳だからって、こんなんじゃだれもわかりっこない。医学用語にかぎらず、業界人さえ意味が通ればいいというたぐいの用語にこの手の「わけわからん」訳語が定着している場合がたいへん多くて、はっきり言って困りもの。

 引用元記事中に「引用」されているごとく、きちんと訳せば「ひじょうに軽度の麻疹」くらいの意味。「修飾麻疹」という訳ではまるでイメージがつかめない。

 …かくいう自分もじつは麻疹に罹患したことがなくて、熱海高校で感染確認、臨時休校措置がとられたとか、山を飛び越えてこんどは西伊豆の土肥高校でも感染者が出た…なんて聞きまして、あわててかかりつけの内科へ抗体検査を受けに行った口です(検査には精密なEIA[IgG]法と簡便なHI法と二種類あって、自分がやってもらったのは精密なEIAのほう。結果が判明するまで一週間かかると言われました…本日電話しましたところ、抗体ありとのことで、とりあえず安堵。ふたつの抗体検査法についてはこちらのblogが参考になるかと思います)。麻疹、といえば、だいぶ前に見たApollo 13 という映画で、麻疹感染を疑われた飛行士がミッションからはずされる場面なんてのを思い出した。'I don't get the measles!' という捨て台詞が印象的でした。

2). さて修飾麻疹のつぎは固有名詞について。ときおりほかの話題に便乗する形で横文字の固有名詞の発音表記は困難、ということを愚痴ったりしていますが、2月28日に亡くなられたアーサー・シュレシンジャー(Arthur M. Schlesinger)氏の名前の邦訳もころころ変わってまして…かつてはシュレジンガーと表記されていたり。ほんとのところは本人に訊くしかないのだけれども、「現地語発音主義」とはいえ固有名詞はほんとやっかいです。聖カスバートCuthbert も、当人が生きていた当時の発音はたぶんクスベルトだろうし。どっちをとるかでけっこう迷ったりする(ついでながらチョーサー以前の古英語はまるで別言語で読めないorz …ルーン文字から入ってきたというþ[thorn]とかが頻繁に使われてます。例→'Seyn Brendan, þe holi mon, ...')。

 いつかちょこっと書いたことですが、2000年5月、上野・国立西洋美術館にて「ピカソ/子供の世界展」という美術展を見に行ったのですが、そこで買った図録にピカソ最初の子どもの名前について但し書きがしてありました(p. 88)。ふつうは「パウロ Paulo」もしくは仏語で「ポール Paul」と表記されますが、身内ではなんと「Paulo=ポロ」と呼んでいたらしい。でも混乱を避けるために、Pauloはあえて慣例化した表記である「パウロ」とした、とあります。ほんと人名地名の邦訳表記はややこしい。ちなみにピカソ本人のほんとうの名前はひじょーに長いです。検索してみると見つかるでしょう(すいません、その資料がいま手許にないので)。スペインついでにクレー。最近はポール・クレーと表記されるようですね。以前はパウロだったが。

3). NHK教育の語学番組。いま個人的にヒットなのがこちらダリオさん、ちっとも変わんないなー。一昨年やってた「ハートで感じる英文法」に近い番組で、日本人学習者がいまいちとらえにくいところ、わかりにくいところをわかりやすく、感覚として身につくように説明してくれる番組です。

 じっさいに見ていただければ早いんですが、先週は「受動態」を取り上げてました。もっともすばらしいと感じたのは、たとえばdisappointed about/with/at/by のちがいについて。そう、動詞にくっつく前置詞によって、微妙に伝えたいニュアンスがちがうんですよね。日本人にとって英語特有の冠詞・前置詞はほんとやっかいで、俗に「前置詞3年、冠詞8年」と言われたりします。ようするに、英語一般をひととおり身につけたあと、冠詞・前置詞の習得にそれだけの年月がかかることを意味しています。

 disappointed... については、もっとも「即時性」が強いのがat、つまりいま目で見たそのものにがっかり、という場合に使ったりします。withだと「それについてがっかり」。about もwith に近いですが「まわりにある状況もふくめて全体的にがっかり」。by だと「その行為の結果、あるいは行為者によってがっかり」という感じでしょうか。

 冠詞についてはだいぶ前、「日本人ビジネスマンは'the' を使いすぎるから経済摩擦を引き起こす」となかば冗談交じりで揶揄されたことがあるとか。a もthe もいろいろな意味合いがありますが、たとえば映画や小説のタイトル。The Notebook(米映画「きみに読む物語」原題)、The Secret Garden(『秘密の花園』)なんかのthe。「限定用法だから」とくるかもしれない。でもたとえば関係詞で限定されていても、相手が未知の事柄については不定冠詞のaを使ったりします。昔ある先生の書いた本に、「未知との遭遇にはa、既知との遭遇にはtheと覚えよ」とじつにうまい表現が書いてありました。映画のタイトルのthe はまさにこれです。いきなりthe とくると、英米人は「ほら、あなたも知ってるあの…」という一種の緊張感をおぼえるらしい。それゆえ日本人ビジネスマンの例ですと、交渉の席で、先方がはじめて耳にする事柄だろうとなんでもかんでもおかまいなしにthe を連発するからまずい、ということになります。

 …とはいえ英米の人相手にメールを綴るたびに、つねにアタマを悩ませるのがこの冠詞ですね(冷汗)…。

 付記。大家の工事のため、30日はほぼまる一日、拙blog は閲覧もできなくなりますのでいちおうお知らせしておきます。

posted by Curragh at 21:37| Comment(9) | TrackBack(0) | 語学関連
この記事へのコメント
修飾麻疹。。。。医者が和訳をしたのですか??はあああ。。何と言ったらいいのか。。。しかも英辞朗にまでエントリーがあるとは。。。英辞朗も信用ならないですね・・・背筋が寒くなりました。似たようなおバカをやらかさないように、よくよく注意しなければいけないなと思いました・・・
Posted by Keiko at 2007年05月28日 23:51
うーん・・・・

ちょっと調べていたのですが・・・

「修飾麻疹」という言葉は専門家の間でかなり広く使われていますね・・・!

たとえば、
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/11/s1112-6d.html
(国立感染症研究所の資料)

私の翻訳ソフトでは「異型麻疹」となるのですが、「異型麻疹」と「修飾麻疹」とは別の症状であると定義もちゃんとありますね・・

定訳が決まっていないんでしょうね。

バイオで「修飾」っていうと核酸の変化について使いますが・・麻疹の場合関係ないと思うのだけど。。。

きゃーー もし私に来た和訳の仕事で、modified measlesがあったら、何て書いて納品しよう!!
Posted by at 2007年05月29日 00:21
あれ??2番目のコメントも私です。。確かに名前入れたんだけどなあ・・・m(__)m
Posted by Keiko at 2007年05月29日 00:23
Keikoさま

> バイオで「修飾」っていうと核酸の変
> 化について使いますが・・麻疹の場合
> 関係ないと思うのだけど。。。

おお、核酸変化ですか! それはまた初耳でした…。あ、そう言えば「遺伝子組み換え」ってgenetically modified って言ったかな…。

自分も興味があったのですこしそちら系のサイト、見たりしました。で、解説を見ると、やはり「変則的経過をとる(軽い)麻疹」くらいの意味になりますね。

今回は、あまりに強烈な語感だったので、今後忘れることはないかと思います(笑)。

'modified measles' の訳ですが、ためしにあるオンライン英英辞典を見てみると、

'To limit or reduce in extent or degree; to moderate; to qualify; to lower.'

と、「ていどを減じる」の意で使われることもあるので、「緩慢型麻疹」くらいならまだましかと…。ほんとは「軽症麻疹」くらいにしたいところですが。
Posted by Curragh at 2007年05月29日 02:24
↑のコメント、引用した定義はもちろん動詞modify についてです。

Posted by Curragh at 2007年05月29日 02:29
>おお、核酸変化ですか! それはまた初耳で>した…。あ、そう言えば「遺伝子組み換>え」ってgenetically modified って言ったかな…。

あっ。。。技術的にいうと、そのmodifyとは全然別物です。

genetically modified cellとかいう時のmodifyは、改変する(遺伝子の配列を変えたり他の遺伝子断片を持ってきて挿入したりとかいろいろ人為的に変える)ということですけど、日本語で「修飾」と訳しているのはは、DNAがRNAに転写される過程で自然に起こる様々なメカニズム(100種類くらいあり)のことで、人が手を加えて改変するのではありません。

すみません、全然関係ないことを私が持ち出したため、かえって混乱させて。「修飾」という日本語自体は医学バイオ分野でも使われる場面があるといいたかったのです。。

いずれにせよ、modifyされたmeaslesという表現からは上記の「修飾」の意味になるはずもありませんから、専門家の間で使っているのも変だと思いますね。。
(この辺Deoさんならぴしっとした見解をくださるんでしょうが。。。(笑))

>'To limit or reduce in extent or degree; to moderate; to qualify; to lower.'

>と、「ていどを減じる」の意で使われることもあるので、「緩慢型麻疹」くらいならまだましかと…。ほんとは「軽症麻疹」くらいにしたいところですが

賛成です!

Posted by Keiko at 2007年05月29日 07:38
>'To limit or reduce in extent or degree; to moderate; to qualify; to lower.'

これ、なんていう辞書ですか?わたしが調べたのには(OALDとかウェブスターとか)こんなわかりやすい定義はなかったんですよ。

おかげさまで勉強になりましたー
Posted by Keiko at 2007年05月29日 09:52
Keikoさま

Webster's の第2版です。とはいえリンク先サイトはもっぱら仏英辞書として使ってますが…(笑)。

http://machaut.uchicago.edu/?resource=frengdict
Posted by Curragh at 2007年06月02日 16:29
おっ。やっと復活ですね!なんか随分長かったような・・・

辞書のリンクありがとうございました。Websterは、Merriam-websterの方だったら仕事上もちょろちょろ見ますが、こちらだと、
to make less extreme という定義だったんですよ・・・
http://mw1.merriam-webster.com/

Posted by Keiko at 2007年06月02日 17:34
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/4140842
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック