2011年01月28日

「キルンベルガー・コラール」とか

 いま、図書館から借りている小学館の『バッハ全集』第10巻を聴いています…以前、ここで「バッハ・オルガン作品偽作一覧」を書いたときにも触れたんですが、あらためてBWV.690 から765までの一般的にはほとんど知られていないようなオルガンコラール編曲の数々をじっくりと聴いてみますと、「オルガン小曲集」もいいけど、こっちもなかなかだなあ、という印象です。後半にいくほど「偽作」もしくは「偽作」の疑いのある編曲が頻出するんですが、それでもいいものはいい、という感じ。

 晩年のバッハの弟子だったヨハン・フィリップ・キルンベルガー(1721 - 83)は、1754年というから師匠バッハの死から4年後に、ときのフリードリヒ大王の妹のアンナ・アマリア王妃の音楽教師になった人で、著名な作曲家の作品を収集していたことでも知られる。キルンベルガーの集めたコレクションはのちにアンナ・アマリアの所有する「音楽文庫」の一部となり、いまはベルリン国立図書館にある。その一部が、こんにち「キルンベルガー・コラール」と呼ばれている一連のオルガンコラール編曲…なんですが、作曲者自身はいっさい、これらの「編集」には関わってはいない。すべてはアンナ・アマリアに仕えていた筆写生が書き写したものなので、あきらかな「偽作」もふくまれている(BWV.692, 3はヴァルターの作品であることが判明している。ほかにも疑わしい作品あり)。このなかで個人的に気に入っているのがBWV.706 の「最愛なるイエスよ、われらここにありて」かな。またBWV.711 なんかはひじょうに珍しく「ニ声部」のみの書法で作曲されていますが、一説によればバッハの遠縁の人ヨハン・ベルンハルト・バッハ作だとされている。また逆に、「ノイマイスター・コラール集」の発見により、かつてはヨハン・クリストフ・バッハ作と言われていたBWV.719 がじつはバッハの「真作」だった、なんていう場合もあったりします。

 「キルンベルガー・コラール」につづくBWV.714 - 740 まではかつては「27のオルガンコラール」とか呼ばれていたもの。こちらも偽作もしくはその疑いのある編曲が紛れこんでいるし、バッハの自筆譜で伝えられている編曲はほんのわずか(4曲ほど)しかない。そのうちBWV.739 の「暁の星はいと麗しきかな」による大規模な「コラール・ファンタジー」は、現存するバッハ最古の自筆譜(1705年)によって伝えられているもの。「マニフィカトによるフーガ BWV.733」とか、大好きな「わが心の切なる願い BWV.727」もこの「27のコラール」に含まれています。でもこのコラール集でもっとも顕著な特徴は、いわゆる「アルンシュタット会衆コラール」という一連の編曲が多く含まれていることでしょう。たとえばBWV.732 とBWV.736 。両者はよく似ています。また「甘き喜びのうちに BWV.729」なんかはクリスマス音楽を集めたアルバムにときおり収録されたり、またクリスマス時期に演奏されたりするから、聴いたことのある向きもいると思う。1706年2月、「リューベック詣で」から帰ってきた若き教会オルガニストのバッハを待っていたのは聖職会議でのきびしい叱責。勝手に休暇を延長したあげく、いざ信徒みんなで歌うコラールの伴奏をさせれば「奇妙な変奏をおこない、多くの耳慣れぬ音を混入」したわけのわからない演奏をするものだから当局者はじめ、一地方都市の一般信徒もたまったもんじゃない。こんなんで歌えるか(怒)!! というわけで、大目玉を喰らったバッハ。またあまりにも長々と演奏したことについても非難されると、こんどはあっという間に演奏を終えたりと、雇い主側からするとはっきりいってかなり使いにくい人であったことだけはまちがいない(苦笑)。ほかにもこの北ドイツオルガン楽派流儀で編曲されたコラールとしてはBWV.715, 722, 738とか。コラール各行提示のあいまに、自由奔放なパッセージが挿入されているのが典型的なパターンです。「コラール幻想曲」という作風の編曲もあります。いずれにせよこのアルンシュタット時代のバッハにとってコラールの編曲というのは、たんなる伴奏作品ではなく、独創的な音楽作品として聴かせようとする野心みたいなものがつよく感じられます(ヘルマン・ケラーも似たようなことを指摘している。『バッハのオルガン作品』、p.253)。

 つづくBWV.741から765までは、自分もそうだがよっぽど聴きこんでいる人でも実演はおろか、録音でもおそらくめったにお耳にはかかれない作品ばかり。大半は偽作もしくはその疑いありですが、そうはいっても「最愛なるイエスよ、われらここにありて BWV.754」とかはけっこう好き。これもじつはヴァルター作だということがわかっています。そしてBWV.753と764 は、ともに途中で中断されている「断片」。演奏者プレストンは欠落部分を補って演奏しています。またBWV.760 と761 は、北ドイツの巨匠ゲオルク・ベームの作品。

 ほとんどの作品がデンマークのソーレ大修道院教会の歴史的オルガンで収録されています。以前DENON レーベルでここの楽器をもちいた音源をもってますが、ほんとここのオルガンの響きはいいです! 演奏者プレストンをして、「7時間も演奏していましたよ!」と言わしめるくらい。ヴァルヒャの弾いたストラスブールのジルバーマンオルガンみたいに、わりと暖かみのある柔らかい音色とコラールの定旋律(cantus firmus)がぴたりマッチしていて、寒い真冬に聴くにはまさにうってつけ。返却期限まで、これ聴きながら寝るのがもっかの楽しみ。

おまけ:つい最近見つけた天才(?)指揮者。この子、ただ者ではない! と思っていたら、ドヴォルジャークの「ユモレスク」までヴァイオリンで弾きこなしてしまう幼児でした。↓



追記:↑の「神童」ジョナサンくん。このたびめでたく(?)、こちらの番組でも取り上げられまして、ご同慶の至りです。そうそう、本物のオケを指揮したんですよね!! やっぱり将来は指揮者かな? 歌うために生まれてきた…ような子がいるのだから、この子も生まれながらの指揮者、なのかもしれない。

posted by Curragh at 23:56| Comment(0) | TrackBack(0) | バッハのオルガン作品
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