2011年01月29日

紙の楽譜も要らなくなる?? 

 以前、某PC雑誌にて、iPadのようなタブレット端末の使い方はいろいろあれど、バッハのころからちっとも変わってない「楽譜」としてもひじょうに有用なのではないか、というコラムを見ました。そういえば数年前、大画面のノートブックを特製の「譜面立て」に据え付け、フットペダルで「譜めくり」するという珍妙な仕掛け(contraption)が考案されて、どこかのオケかなんかでコンサートで試験的に使ってみたとかいう新聞記事も読んだ憶えがありますが、その後この手の話はとんと聞かないところをみると、やっぱり実用にはほど遠かったのかもしれない。

 でもデジカメ同様、この旧態依然たるクラシック音楽界でもついに(?)「楽譜のデジタル化、電子化」という時代の波が押し寄せてきた…のかもしれない。この記事で紹介されている「ボロメーオ弦楽四重奏団(The Borromeo String Quartet)」では、紙の楽譜の代わりにMacBook Pro を特製の「MacBook立て(?)」にデンと据えて、USBのフットコントローラ(80ドルくらいの品)経由で「譜めくり」し、さらにはプロジェクターでステージ後方のスクリーンに楽譜を大写しにしたりと、こちこちの石頭人間にはにわかには信じがたい演奏会を開いて、大盛況だという(チューナーもメトロノームも、すべてノートブックに入っているアプリが代役をこなす)。彼らのコンサートにはじめて来た聴衆はステージ上に4つのMacbook Pro(画面サイズ15 インチと17 インチの両機種) が用意され、真ん中へんに柄物の毛布で隠された配線類に驚くという(むりもないか)。クラリネットを吹くという記者も試してみたけれど、足で譜めくり、というのはタイミングがどうしてもズレてしまってやりにくかったようです(ついでにアンソニー・トマシーニという記者さんは、ピアノでバッハを弾く)。もっともこれにはそのときベートーヴェンの自筆譜(「弦楽四重奏曲 第9番 ハ長調 Op.59-3」、通称「ラズモフスキー 第3番」)をMacBook の画面に大写しにしていた、という事情もあるかと思う。ここの四重奏団は各自のパート譜ではなく、作曲家の書いた「スコア(総譜)」を見ながら演奏することにしているとか。

 こういう変わった慣行を最初に思いついたのは第1 ヴァイオリンのNicholas Kitchen 氏で、2002年、自分たちの全公演を可能なかぎり記録しようと思い立ったのがデジタル化への取り組みのそもそものきっかけだったようです。あれこれ試行錯誤しつつ、マイクや録音機材のセッティング術とかもすべて実地で身につけたらしい。

“I realized it was such a pity for so many of them not to be recorded,” he said.

Part of the motivation, quartet members said, is the powerful urge to grab onto and preserve those fleeting moments of great performances before a live audience. “For audience members it means a lot to have that memory of what they enjoyed so much,” Ms. Kim said.

もともと販売用だった公演録音ですが、最近ではこの録音作業じたいが徹底的に活用され、なんとプログラムすべてを一度録音したものをぜんぶ、「聴衆の立場になって」全員がひたすら黙って聴きとおすのだと。で、ここをああしたらいいとかこうしたらどうかとか意見を出しあい、本番では「最良の演奏」を提供するという。ここまでくるといやはやすごいもんですね。記事にもあるけれど、「弦楽四重奏」って究極の演奏形態じゃないですか。そしてもっとも保守的な分野でもある。1980年代後半にカーティス音楽院卒業生で結成されたこの四重奏団(名前は北イタリアのマッジョーレ湖に浮かぶ一連の島の名前に由来し、現在、ヴィオラ担当は邦人女性奏者)のデジタル志向には賛否両論あるみたいで、著名なエマーソン弦楽四重奏団ヴァイオリニスト、ユージン・ドラッカー氏はこんなふうに言っている。

But he called the Borromeo members pioneers. “I know they’re not the type of people to get swept up in the technology and forget to make music,” he added. “Probably more and more groups will be doing this as we go along.”

 楽譜の電子化というのも、こうしたボローメオ弦楽四重奏団の公演スタイルのある意味当然の帰結なのか? と思いきや、この着想はまったくちがった方面からやってきたという。

Mr. Kitchen decided he wanted to read his music from a full score − all four lines of the quartet together − rather than from his individual part. That requires many more page turns and makes the use of printed scores impractical.

「総譜」で演奏したい、そのためには紙の譜面じゃむりがある、というわけでたどりついたのが現在のスタイルだという。しかもこの「電子楽譜」というアイディア、なんと友人のピアニストから教示されたもので、その人はすでにおなじようなスタイルで演奏しているのだという。ピアノの譜面台にノートブックPC なんか、いったいどうやって置くんだろ? ひょっとしたらiPad なんかな?? あれだってもうちょっと軽くしないとね…背面が丸っこいのも危なっかしいといえば危なっかしいし。ピアニストといえば、

The quartet’s other pioneering work lies in its use of laptops as music readers. The technology has been around for a while. Several pianists, including Christopher O’Riley, the host of the public radio program “From the Top,” are regular practitioners. But the Borromeo is a rare ensemble that has adopted the laptop stands.

なんて記述もあります。オルガン弾きの場合は…どうなんでしょ?? 楽器じたいはコンビネーションストップとかも装備されてデジタル化は進んでいるといえるし、NHKホールの楽器かな、たしか演奏を録音する装置まで備えたオルガンまであるくらい。演奏台に造り付けになっている譜面台にiPad みたいな画面を埋めこんで、USBメモリーとかSDカードに入っている楽譜データを読み出して表示して、そいつを見ながら演奏する、譜めくり箇所は自動的にページ送りする、なんてのが万が一できるようになったら、…いっきに普及するかもね??? 

Now the members obtain scores from Web sites offering free editions, like imslp.org, PDF files provided by composers who write music with programs like Sibelius, and their own scanning. They bought advanced versions of Adobe Acrobat that allow annotations.

…ええっと老婆心ながら、ここの箇所は背景知識がないとうっかり誤読するところ(しばらく字面をニラんでいた自分…)。シベリウスっていうのは、「フィンランディア」の作曲者じゃなくて、譜面作成ソフトのこと(→日本版公式サイト)。最近の作曲家先生って、こんなんで曲を書いているんだ! そういえば以前、英国のメル友が弦楽合奏作品をコンペに出したとき、録音を聴いたワタシが楽譜がほしい! って言ったら「シベリウスもってる?」と訊いてきたのでなんのことやらさっぱりわからなかったことがありました。ほほうこれか、と思って価格を見たら…入門向け(?)の'Sibelius 6 First' でも、万札が飛ぶ(「通常版」は当然ながらもっと高い)。楽譜作成ソフトねぇ、こういうのは知っているけれど。ふつうにPDF にしてくれればよいような気も…しないわけではないですが。

 紙の楽譜…手許に「フーガの技法」とか「音楽の捧げもの」とかあるけれども、最近、マイナーなバッハのオルガン曲はもっぱらここを利用してDL して利用している自分がいる。MacBook Pro で譜面を見ながら演奏…というのはスマートフォンとおんなじであるていどは「慣れ」の問題かもしれない。でもこの前、家電量販店にていじくった某タブレット端末で電子書籍を「立ち読み」してみたけれど、どうも「すわり」が悪い。ネタにしたNYT の元記事だって、いちいちプリントアウトして鉛筆で線引きながらこのへんを書こうかなとかいまだにアナログな作業をしているし。「電子ペーパー」型の端末でも同様に立ち読みしたけれど、思っていた以上に「白黒反転」が気になって、ああじっくり読みにはまだまだ紙の本にかぎるわとひとりごちたのでした。PC 画面で新聞・雑誌を斜め読みするくらいなら抵抗はないが、『親鸞』なんかはやっぱりムリ。新聞紙面の連載を読むほうがよっぽど理解も速いし、すんなり読める。画面経由の読書って、あんがいアタマには残らないのではないかという気がする。知らず知らずのうちに読み方が雑になって、読んだ気になっただけになるんじゃないかって気がしますね。と、けっきょく電子書籍批判になってしまった(現状ではまだまだ発展途上だという印象)。なんでもかんでも電子化、というのもどうかと思うころごろなんですが、デシタル化先進国の米国では、なんと国税の納税をiPhone 経由でおこなうアプリまで登場…もはやとどまるところを知らない、「効率原理主義」。こういう話を耳にすると、心配性なワタシなんか、ついセキュリティはどうなの? と突っこみたくなる。そうそう、Android ユーザーの方はこんな話も出てきたので、いよいよ注意が必要かと。

<追記> 記事を読んで、バッハのオルガン曲「パッサカリア ハ短調 BWV.582」の弦楽四重奏編曲(!!)というものがあることを寡聞にしてはじめて知った。というわけで、こちらにも動画を貼っておくことにします。↓



posted by Curragh at 23:51| Comment(0) | TrackBack(0) | Articles from NYTimes
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