2007年06月09日

Sumer is icumen in

 毎日蒸し蒸しして、どうもこの時期は苦手…でも欧州の人にとってはいまがベストシーズン。もっとも近年は高緯度地域での温暖化…が深刻になっているから、そうとばかりは言っていられないけれども…。

 ときどき読んでいるこちらのblog に、英単語の語源本について書評が書いてありまして、古英語による歌『夏は来たりぬ』まで引用してあって、自分もこの『夏は来たりぬ』についてほんのすこし追記してみたくなりました。

 この古英詩、音楽の視点から見ると、現存する世界最古のポリフォニーの例として有名です。手許の本にはレディングで作られた…とか書いてあるけれど、引用先の英語版Wikipedia には写本の出所地はここの大修道院だが、ここで書かれたわけではないかもしれない、とか書いてあってそのへんはよくわからないが、とにかく13世紀中葉(1300年ごろだとも言われる)、逸名作者の手になる6声カノン形式の歌で、下2声のオスティナート声部上で4声部が同度カノンをなし、厳格カノン、バッソ・オスティナート(執拗低音)の最古の例と言われています。Wikipedia の記事で目にとまったのが、ケルト人の年間4大祭のひとつビャオルタネは夏の訪れを告げる5月1日に祝われたと書いてあること…いままでそんなつながりは考えたことなかったが、歌のタイトルとなにがしか関係があるのだろうか。

 この歌のカノン形式を模倣してイタリアでカッチアという形式が生まれ、さらに後年、アルプス北方とくにフランドルから初期ポリフォニーの代表「オルガヌム」が発達、それまで単旋律聖歌中心だったローマカトリックの大聖堂でもしだいに「オルガヌム」を採用した音楽の演奏が盛んになり、ペロタンやゴンベール、デュファイなどを輩出した…と自分はいままでそんなふうに考えてました。

 阿部謹也氏によれば、教会音楽にポリフォニーが侵入した経路について、教会側が民衆のあいだで流行っていたポリフォニックな俗謡の旋律を禁止するよりはうまく組みこんだほうが都合がよかったため、という。これを額面どおりに受け取ると、ヨーロッパ北部では俗謡じたいがすでに原始的なポリフォニー形式だったらしい。また教会音楽のポリフォニー化は、ゴシック様式の大聖堂が各地で盛んに建てられはじめた時期とも一致しています。

 そして春先に読んだギラルドゥス・カンブレンシスの『アイルランド地誌』にははっきりとアイルランド人がポリフォニーの演奏に秀でていることに言及している! ことを知ってからは、ポリフォニーの起源っていったいどこだろ? と妄想するようになった。

 図書館でいくつか音楽関係の大型事典類にあたってみたけれど、「ヨーロッパにおけるポリフォニー音楽の起源は9世紀ごろ」とある。でもどこかについてはわかっていないらしい。ひとつ言えるのは、単旋律聖歌を発達させた地中海文化圏から、聖ボニファティウスなどの宣教者によってアルプス北方のゲルマン系「蛮族」にキリスト教を布教させていった過程で彼らのポリフォニックな様式と出会ったことによって発達したかもしれない、ということ。そうだとすれば、おなじ北方系民族ケルト人も、似たような音楽を奏でていたかもしれないし、大陸を追われて西の果てアイルランドに逃れてきたさい、当時の大陸で流布していたポリフォニックな音楽も携えていったこともなくはないのでは…その後、アイルランドからブリテン諸島や大陸へポリフォニックな音楽形式を「逆輸入」していったこともあるのではないか…とこれは完全な妄想ですが、ありえないことではないかも。

 『夏は…』が大陸の影響を受けているのか、それとももともとイングランドに伝わっていた様式なのかは寡聞にして知らないけれども、現存最古のポリフォニー音楽の曲譜が英国にあるというのは興味深い。そう言えばここでも取り上げたThe English Chorister にも、11世紀ごろ編纂されたと言われる『エクセター曲譜付き写本』の画像が掲載されていて、ほぼおなじ時代に編纂されたと言われる『ウィンチェスター・トロープス集』についてもちょこっと言及しています(写本余白に聖歌隊先唱者がネウマ譜を走り書きした最古の例として。当時のネウマ譜は先唱者の備忘録用で、聖歌隊員はみな暗譜で歌っていた。pp.18-9)。

 ケルトとポリフォニーの起源。いままでアイルランドと自分の好きなジャンルの音楽とのあいだに関係があったのかもしれない…とは思ってもみなかったこと。このへんの事情については、もうすこし突っこんで調べてみる必要がありそうです。

posted by Curragh at 22:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽関連
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