監督さんがデヴィッド・フィンチャーということもあってか、ストーリー展開はけっこうスリリングで小気味いいというか、キビキビした印象を受けました。もっともジェシー・アイゼンバーグ扮するザッカーバーグのあの「弾丸トーク」には耳が降参してしまったが(当方が観たのは吹替版ではありません。もっとも洋画は字幕版のほうが好きだからべつにいいんですけども)…。
観ている途中で思ったんですけど、この映画で描かれているザッカーバーグ青年は、ありとあらゆる意味において米国資本主義を体現しているなあと。とくに動きの速すぎるIT業界って、シェアを取るためには一にも二にもまずscaling-up 、つまり規模の拡大をはかることを最優先にしたりする(Twitter なんかもそう)。もっともSNS ってWeb 草創期のニューズグループとかからはじまる一連の流れの延長線上に位置するわけで、劇中、登場人物たちのしゃべる台詞に何度か競合SNS としてFriendster が登場していた(字数制限のある字幕にはなし)。で、ライヴァルから一歩も二歩も頭抜けるための方法のひとつとして、ザッカーバーグがとった方針が「とにかくクールであること」。会社の規模がかなり大きくなっても広告表示をさせないことにこだわっていたらしい。
物語はどこまでが実話にもとづく部分で、どこからが「脚色」なのか、いまいち判然としませんが、Facebook アイディアを最初に思いついたのはおれたちだ、とハーバードの学生仲間から告訴されたり、数少ない親友にしてプログラマー仲間を切り捨てたりというあたりはまあ、ありがちな話かなと。それと、Napster の共同設立者のショーン・パーカーって、一時期Facebook の経営にも首を突っこんでいたんですね、知らんかった。映画ではなんか西海岸で見かけそうなやたらpositive で、お調子者っぽいキャラクターで登場してましたけど。
で、物語が進むにつれ、こんどはこの手の「学生起業」というものの危うさ、不確かさというのもまた感じていた。きょくたんな話、明日Facebook が倒れても(失礼)ユーザーのわれわれはべつに金払って利用しているわけでもないから、たぶん実害はないかもしれない(自分の「ウォール」とかに掲載してあるメッセージや画像・動画といった全データは消滅するだろうけれども)。学生が立ち上げた会社といえば、たとえばガレージをオフィスがわりにしていたApple とか、またMicrosoft なんかは、基本的にモノづくりの会社だから、手堅い印象は受ける。でもこの作品に描かれている世界最大級SNS の起業は、いかにも学生らしい、ノリの軽さをというものを感じてしまう。ちなみにFacebook はザッカーバーグ氏がまだ19歳(!)、ハーバード大学のsophomore だったときに設立したというからほんとおどろきます。なんだかんだ言っても人一倍の才覚があるんだな。
ただ、日本版Newsweek にもあったけれども、カリスマ経営者がいなくなったあとで、会社をどれだけ存続させられるかがほんとうの勝負になるような気がします。Apple もどうなのかな? そしてもうひとつ、こういう若いIT起業家とくるとかつて日本にも一世を風靡した方がいましたが、彼とザッカーバーグ氏の決定的なちがいは、金稼ぎにたいする意識。ザッカーバーグ氏の場合、個人的な金儲けということにはあんまり(?)関心がないようです。根っからのプログラマー職人なのかな。もっとも会社の規模拡大には余念がなくて、本社をめちゃくちゃ広い建物に移転するらしい(東京ドーム数個ぶんとか聞いた)。あのGoogle もびっくりですな。
…ちなみに自分が観たとき、観客は10人いるかいないかでした。お昼前という時間帯もあるかもしれないけれど、彼我の温度差も感じたしだい。アカデミー賞最有力候補と目されているようですが、もうひとつ「英国王のスピーチ(King's Speech)」という作品も候補にあがってますね。こちらのほうはメル友のつよい勧めもあり、観に行こうかどうかもっか思案中。
評価:




追記。忘れていたわけではないが、例のクイズのこたえ。'He's making a ...' というのは、'He's making a list' でして、「サンタが街にやってくる(Santa Claus is coming to town)」の一節。ついでに今週の「気まクラ DON」は…「♪ わらべは見たり、のなかの××」じゃないかな。さらについでにこの作品、べつの作曲家によるヴァージョンが、西伊豆町の正午の時報として同報無線から流れています(ちなみに本日15日って、『音楽大全』で知られるミヒャエル・プレトリウスの誕生日だったみたい)。
追記。こちらで、字幕翻訳者の方が打ち明け話を寄稿しているのを発見した。