2011年03月06日

Something is wrong.

 自分がインターネット(World Wide Web)という「革命的な道具」にはじめて触れたのは1997年ごろ。用途はもちろん調べ物で、知人の下訳の手伝いでスポーツ関係について調べたのが最初。場所はいまや懐かしい響きすら漂うインターネットカフェ。自宅にはまだPCもなくて、かぎられた時間で調べたかぎりのことをメモして帰宅してからそれを見ながら「文豪mini 5」というワープロ専用機(!)で拙訳を仕上げていた。技術の進歩というのは恐ろしいもので、あれから10年ちょっとでいまやケータイもしくはiPhone に代表されるスマートフォンがあればほぼいつでも、どこでもふつうにインターネットに接続可能な時代となった(動画も見られるしね)。電磁波の悪影響など解決すべき問題は多々あるけれど、以前では想像もできないようなこともネット上で実現可能になってきた。ネットの発展は基本的には「性善説」にもとづいていると個人的に考えているけれど、残念ながらいまや「ゴミ・がらくた・芥」のたぐいがひじょうに多くなっているのもまた事実。ボットなどに代表されるインターネットワームなどのマルウェアはじめ、ネットそのものを犯罪行為に援用したり、テロリストどうしが連絡を取り合ったりする場として使っていたりする。ネットストーカーなることばまであるし、Facebook などを見てもわかるように、いわゆる国境というものさえない世界なので、ことばを変えれば全地球的規模の無政府地帯でもある。

 ことほどさようにWeb の世界ほど利用する側によっていかようにもなる道具というのもそうないんじゃないかと感じているこのごろなんですが、ついに(?)新手の不正行為まで出現した。これについてはすでにいろんな人が思い思いに所見を述べているのでくどくならないていどに書きたいと思いますが、例の「カンペ事件」について。対策を怠った大学側が悪いとか、たかがカンニングごときで警察沙汰にするとはこれいかに、という論調がにわかに(?)目立ってきた。こういう意見を耳にするたびに、健全な批判精神から遠くかけはなれたいっときの感情論にすぎないのではないかという思いをつよくする。

 まず大学側について。ようはケータイを試験場に持ちこませなければよかったわけで、たしかに責任は問われると思う。でも取材に応じていた受験生の口から、「もっと検査を徹底すべきだった」というのはどうなのか。はじめから泥棒でも見るような態度をとられたら、だれだっていい気分はしないのではないか。大学側からすれば、「性悪説」ではなくて、「性善説」を取りたいだろうし、だいいち成人一歩手前の若者にたいしていちいち手荷物検査をすべきなのか。受験生は皆ただでさえピリピリと緊張しているだろうし、これ以上よけいな負担はかけたくない…大学側としてはそんな「思い」だったのではないだろうか。他人の気持ちを汲み取ろうとさえしない傲慢さこそ、問題なのではないかと思うぞ(注:国公立大学の試験監督官は私立大学とくらべて「ゆるい」という意見もある)。

 たかがカンニング…という論調もたいへん多く見受けられて正直びっくりした。カンニングということばを手許の『大辞林』で引くと、「[名]試験のとき、他人の答案や隠し持った本・メモを見るなどの不正行為をすること」とある。今回の件では京大入試の場合、とくに数学が全問、「答えを教えてくれ」と ―― よりによって ―― 某ポータルサイトの「質問箱」に投稿されていたという。はたしてこれが昔ながらの「カンペ」を使ったカンニング(cheating)に当たるのか??? そういう次元をはるかにトビこえちゃっていてあきらかに確信犯的かつ悪質な手口だと思うし、大学側も自分たちだけで不正行為をした受験生の特定をしようにももうお手上げだったので、警察に被害届けというかたちで捜査を願い出たのではないかと推察する。

 受験生本人にとって、今回の件はひじょうに苦い薬になったと思いますが、アタマの古い門外漢があえて言わせてもらえば、やはり必死さが足りない。ほんとうに必死だったらそんなことにかまけてないで、自分で一所懸命考えて考えて問題を解くはず。ハナから考えることを放棄してのぞむ試験なんか、はじめから受けなければいい。ほかのまじめな受験生が迷惑する。いかに多くの人を悲しませることになるか、想像もつかなかったにちがいない。試験中に堂々とあんな公衆面前の前で「質問」することじたい、まず信じがたい。以前ここでWikipedia などの記事を引用というよりそのまんまコピペして涼しい顔でレポート提出する学生が増えている、という風潮を嘆いたことがありますが、まさかこういう目的でネットを悪用する事例が出現しようとは思いもよらなかった。

 また、日本の試験は暗記重視の設問ばかりで時代遅れだ、という指摘がある。それならいっそのこと英国のパブリックスクール並みに「自分で考えなければならない」設問に切り替えたらどうか。先日地元紙に「欧州学び舎物語」という連載がありまして、初回が英国のセントエドワーズ・オックスフォードというパブリックスクールに留学している17歳の日本人男子学生に取材した記事でした。盛岡出身だという彼が言うには、教科書なんか「重くて持ち運ぶのも大変」。生物の教科書など、電話帳みたいに分厚くて、細かい活字と図説がびっしりなんだそうだ。記事によると、英国のこの手の学校の試験では二者択一式の設問というのはあんまりなくて、たとえば第二次大戦にかんする問題ならば「なぜ始まったのか」、「この決定を下したのはなぜか」を論述させる問題が中心だという。17歳の彼いわく、「勉強の姿勢がガラリと変わった」。現状の大学入試の出題形式が時代遅れかつ旧態依然としている点は自分も感じているから、暗記中心から自分で考えないと回答できない問題へと切り替える必要はあるように思う。そうすれば安直に人さまの答案を見ようなどという不正行為も減るんじゃないでしょうか。あるいは入学はやさしいが、卒業が容易ではなくなる制度へと改めるか? いい機会だから、もっと幅広く議論されればなおよいとは思うのだけれども、熱しやすく冷めやすい国民性なので、はたしてこちらもどうかという気もしないではない。

 19世紀から20世紀前半にかけて活躍した英国の小説家アーノルド・ベネット(『自分の時間』の著者といったほうがわかりやすいかも)の奥さんだった人が書いた評伝で、主人は毎朝、新聞を読んでからでないと自分の意見が言えないたぐいの人をひどく軽蔑していたみたいな記述を読んだことがある。その伝でいけば自分もその仲間になるけれども、今回の件でいろいろとブログを読んだりしたなかで、もっとも共感できたのはこちらの方の書いた記事でしたのでここでも紹介しておきます。

 …それにしてもおなじネットの世界で、かたやSNS を使いこなして結束し、独裁者の圧政に立ち向かう若者がいるかと思えば、こういうせこいことに使って世間を騒がせる若者もいる。ふと、1989年11月の、あの「ベルリンの壁崩壊」の映像を思い出したりしていた。前にもこんなこと書いたような気がするけれど、あの当時といまの日本とを較べてみると、世界情勢は激変しているのにこの国ときたらいっこうに十年一日というか、なにも変わっちゃいないという気がしてならない。もっと言えば惰眠をむさぼっている、悪い意味での「マイホーム主義」、いや平和ボケというやつかもしれない。いちばん感じるのは1989年当時より、ものを考えなくなった人が多くなったということ。以前、ATM コーナーに設置してあったシュレッダーに幼児が手を挟まれるという事例が多発したためにすべて撤去されるということがあった。こちとら見てますと、ようは親の注意不足。わきで子どもがガサゴソやっていても気にもとめない。へたに「ぼく、あぶねーよ」なんて注意しようものならこっちが睨まれたりする(苦笑)。ようするに「危ないからシュレッダーは撤去」という発想のおかしさに気づかない。おかしいことをおかしいと気づかないことがそもそもおかしい。これこそときおりここでさりげなく書いている、「健全な批判精神」というものだ。いまの日本に横行しているたぐいの批判の大半は人さまの揚げ足取りのcriticism のたぐいであって、critique ではない。そして街を歩けば、なにかの飾りみたいにそこここに空き缶が置かれている光景が日常風景みたいになっている(とくに電線地中化工事後の変圧器のてっぺんとか)。昔はどこにでもいた「うるさい近所のおじさん(波平さんですな)」は姿を消し、みな自分のこと以外は無関係、無関心。よいことはよい、悪いことは悪いとはっきり口に出して言いづらくなった。いいトシした大人でさえこういう手合いが多いので、ますます若い人は以前ほど物事の善い悪いを気にとめなくなった…すべてはつながっている、とふだんより考えているので、今回の件もある意味起こるべくして起こったと言えるかもしれない。先ごろのクライストチャーチの震災では、残念ながら略奪が発生していたという。1995年1月の阪神淡路震災のときはそのようなことがなく、この点がとくに海外メディアに注目され、「規範意識のつよい日本人」というふうに報道されたりもした。でもいまではどうか。もしいま大地震が来たら、この国でもよその国同様、略奪行為が横行するんじゃないかと危惧してしまう。もちろん聖人君子たれとは言わない。自分も欠点だらけの人間だし、悟ることもないままに終焉を迎える公算大だと思うが、とにかくいまのこの国はなにかが決定的におかしいです。

posted by Curragh at 23:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近のニュースから
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