2011年03月27日

imslp.org も学生の作ったサイトだったんだ

 もうすこしはやく取り上げるはずだったこちらの記事。最近はここの「フリー楽譜アーカイヴ」サイトにお世話になることが多いのですが、このサイト、Facebook ではないけれど、創設者が当時19歳の中国系米国人の音楽院学生だったとは、はじめて知りました。

 ここのサイトも基本的にはWikipedia とおなじサイトテンプレートと運営方針を採用し、楽譜のスキャン取り込みから落丁がないかどうかという管理業務までほぼヴォランティア頼みの人海戦術、いまふうに言えばcrowd sourced で運営されているらしい。

 創設者はいまはハーヴァードで法律を学んでいるようですが、郎朗と同様、祖国にいたころは楽譜がほしくてもいかんせん絶対数が不足していて、思うように勉強できなかったようです。13歳のときに父親といっしょにバンクーバーに移住、一年飛び級で高校卒業後に米国最古の音大、ニューイングランド音楽院の作曲科に入学したというから、俊才なんですね。音楽のみならず、本人の弁によるとすこしばかり「PCオタク」でもあり、かつ法律関係も明るかった。というわけでいつでもどこでも、だれでも利用可能な楽譜の一大ライブラリーというアイディアを思いついたらしい(記念すべきアップロード第一号は、ベートーヴェンの「ピアノソナタ 第1番 ヘ短調 Op.2-1」だったらしい)。貧乏暮らしの音楽学生にとっては願ったりかなったりなこのサイトですが、発足後ほどなくして欧州に拠点を置く版元のUniversal Edition から著作権侵害で訴えられ、問題が解決するまでサイトをしばし閉鎖していたという。確実に版権の切れた譜面のみ掲載するためにすべての楽譜を精査しなおして、2008年6月にサイトを復帰させたといいます。

 デジタルアーカイヴ化で既存の版元ともっとも揉める項目はやはり著作権のこと。既存の版元から出ている「割高な」スコアはそれなりの理由があって高いのであって、これはこれでしかたないと思うし、たとえばグルダの「アリア」なんかはぜったいに買う必要がある。でも一愛好家がちょっとバッハのこれこれの作品のスコアを見たい、なんてときはべつに厳密な校合作業をするわけでもないので、19世紀のヴィルヘルム・ルスト編纂の版権切れスコアでもじゅうぶん用が足りる。Web 上の電子楽譜ライブラリー最大の利点はまさにここにあるわけで、電子書籍…にはいまだ抵抗のあるこちこちの石頭の自分もこのimslp.org サイトはとてもありがたい存在。記事でも版権関連で既存の版元とのいさかいを避ける目的で、'Project Petrucci' という会社組織を立ち上げて、imslp.org サイトはここの会社の所有ということになっている(なのでトップページは「ペトルッチ楽譜ライブラリー」となっている)。ユーザーはお目当ての楽譜をダウンロードするとき、かならず版権関連の「断り書き」を読まされる。あとはあなたの自己責任で、というわけ。↓

A disclaimer was made to appear before any score opens, saying that the project provides no guarantee that the work is in the public domain and demanding that users obey copyright law. The site operates from servers in Canada, where copyright law is generally looser.

“We cannot know the copyright laws of 200 countries around the world,” Mr. Guo said. “It is up to the downloader.”

 いまでもときおり版権にうるさい欧州の版元からクレームがつく場合があるようですが、現在24歳のEdward W. Guo 氏の態度はいたって明快(下線は引用者)。

He shows publishers little sympathy.

“In many cases these publishers are basically getting the revenue off of composers who are dead for a very long time,” Mr. Guo said. “The Internet has become the dominant form of communication. Copyright law needs to change with it. We want people to have access to this material to foster creativity. Personally I don’t feel pity for these publishers.”

Those who “cling to their old business model,” he added, will simply fade away.

こういうドライさ(matter-of-fact attitude)は、Facebook の創設者とも相通ずるところがあるかもしれない。もっとも本人はサイト運用で利益を得ようとはまったく考えてないらしいけれども。

 電子書籍…ですが、たとえば自分の所有する紙の本で、どうしてもこれだけはなくすわけにはいかない、というものだけ電子化(自炊??)して、Android 端末から読めるようにする、という手もなくはないかな…と、いつ大きな自然災害に見舞われるかわからない昨今の時世なので、ついそんなことを考えてしまった。そういえば以前、'My Play' というすごいサイトがあって、3GB まで自由に使える「ロッカー」スペースが与えられ、ユーザーは手持ちの音源を転送して「個人使用のみ」ストリーミングで楽しめるという太っ腹なサービスがあった(あいにく自分が参加して一年くらいでベルテルスマンに買収されてサービスは終了してしまったが)。もっとも自分のもってるブレンダン関連本なんて、電子化なんてこれっぽっちもされていない本ばっかなので、これはほとんど妄想に近い。また電子書籍関連では、けさの地元紙朝刊に、こんなおもしろそうな対談本の書評が載っていた。こちらも興味をそそられてしまうのであった(ちなみにiPhone 用有料アプリには、なんとバッハの主要作品のスコアをすべて見られるものまである!)。

posted by Curragh at 20:34| Comment(2) | TrackBack(0) | Articles from NYTimes
この記事へのコメント
はじめまして!
私も一貧乏音大生の一人で、楽譜という出費は「必要」とはいえどもやはり貯金にまわしたいですよね。
なのでIMSLPは本当に便利で、とても助かっております。

何より、物凄く珍しい楽譜まで貯蔵されている点が興味深いです。
例えばシューベルトのピアノソナタ第7番には別のバージョンがあって、それは高価なヘンレ版などを購入しなければ見ることはできません。それがIMSLPでは公開されているんです!!
他にも、メキシコのポンセという日本ではほぼ無名の作曲家のピアノ曲も多数公開されてます。なぜこんなにも美しい曲を誰も弾こうとしないのだ、と思うほどに綺麗なんです。


長々と失礼しました!この先も便利な時代が続いてほしいですね!
Posted by hhieda at 2011年06月28日 15:10
hhieda さん、

お返事が遅くなりまして、失礼しました。m(_ _)m

シューベルトの話は初耳です。探せばもっとお宝が出てくる…のかもしれませんね。

ポンセって、'Estrellita' で有名なマヌエル・ポンセのことですか? NHK-FM でも、ハイフェッツの編曲で有名になったこの小品ばかりよく流れたりしますが、ピアノ曲も美しいものが多いのですね! ギター作品(「ラ・フォリア主題による変奏曲とフーガ」とか)はたまにかかったりしますが … 。

文面から察するに、ピアノを専攻されている方とお見受けしました。こんなブログですが、これからもお暇なときにでも遊びにいらしてくださいね。
Posted by Curragh at 2011年07月03日 20:26
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